『地中海殺人事件』(82)(1983.1.11.有楽座)
アガサ・クリスティの小説『白昼の悪魔』を原作とするミステリー。『ナイル殺人事件』(78)に続いてピーター・ユスティノフが名探偵ポワロに扮し、地中海に浮かぶ孤島で起きた殺人事件の解明に挑む。
『オリエント急行殺人事件』(74)、『ナイル殺人事件』、そしてこの映画ときて、段々と面白くなくなってきた。もちろん、それぞれの映画を担当した監督の力量の違いも大きいのだろうが、前宣伝は派手で、〇大スター共演とうたいながら、盛りを過ぎたスターたちを寄せ集めた感じもするし…。
『オリエント急行殺人事件』は、シドニー・ルメットの監督としての力量の大きさもあって、味わい深く、いかにもイギリス風のミステリーの一級品に仕上がっていたのだから、やはり、『ナイル殺人事件』のジョン・ギラーミンやこの映画のガイ・ハミルトンに同等のものを求めるのが無理な相談なのかもしれない。
その点、この映画は、あまり深く考えずに見ている分には、そこそこ楽しめはするが、底が浅い気がしてならない。それは原作を読んでいない自分にも犯人が途中で分かってしまうというご愛敬は別にしてもだ。
人里離れた孤島で元女優(ダイアナ・リグ)が殺される。故に犯人はそこにいる数人に限られる。その中から名探偵ポワロが犯人を見つけ出す、という流れの間に生じるさまざまなドラマが、あまりにも通り一遍で薄っぺらい感じがするのだ。
こうした感慨は、例えば市川崑による金田一耕助シリーズのような、どろどろとした人間関係や、業の深さ、犯人の哀れを描いた日本独特のミステリーを見過ぎてしまったことで浮かんでくるのかもしれないが、この映画は、さまざまな人物を登場させながら、全くそのキャラクターを生かせていない。だから彼らと絡むポワロも、ただのきざで傲岸不遜な男に見えてしまう。
コール・ポーターの音楽を使ったり、アンソニー・パウエルによる豪華なファッションや、凝った小道具などには見るべきものがあっただけに、ちょっと残念な気がした。