『アラクノフォビア』(90)(1991.3.11.丸の内ピカデリー1)
アマゾン熱帯雨林で昆虫学者のアサートン博士(ジュリアン・サンズ)は、猛毒を持つ新種のクモを発見する。そのクモは、自らが刺して殺したカメラマンの死体にまぎれてカリフォルニアの小さな町に上陸、次々と町の住人を殺していく。奴らにクモ恐怖症の医師(ジェフ・ダニエルズ)たちが立ち向かう。タイトルは「クモ恐怖症」の意。
これまでスピルバーグ一家を陰から支えてきたフランク・マーシャルの監督デビュー作。ヒッチコックの『鳥』(63)と『めまい』(58)、あるいは盟友スピルバーグの『ジョーズ』(75)などの影を感じさせながら、自分なりの処理をして、そこそこ面白い映画に仕上げていた点は評価したい気がする。
実際、爬虫類と並んでクモ(昆虫)も、人間にとっては決して気持ちのいい生物ではないのだが、この映画では、『グレムリン』(84)同様、ユーモアとグロテスクさが同居したような描き方をしているため、見た後に気持ち悪さが残らない。そのあたりが、いかにも“スピルバーグ印の映画”だとも言えよう。
ただ、『エイリアン』(79)や『ザ・フライ』(86)のような、グロテスクさを強調した映画を見慣れてしまうと、この映画のようなソフトなものは、軽く見えてインパクトが弱くなる。実際、最近のスピルバーグ印映画の観客動員に陰りが見える原因の一つは、こうしたところにもあるのかもしれない。今日の客席など『オールウェイズ』(89)にも増してガラガラの状態だった…。スピルバーグ一家にも、新たな冒険が必要なのかもしれないと感じた。
主人公の妻を演じたハリー・ジェーン・コーザックがなかなか魅力的だった。これはかつてのメリンダ・ディロンやディー・ウォーレス、ジョベス・ウィリアムズといった、スピルバーグ印の映画に登場してきた女優たちの系譜につながる。この辺の趣味が一致しているのも、彼らの映画を見限れない理由の一つなのかもしれない。
【今の一言】この頃よりも、もっと過激さを前面に押し出す映画が増えた今となっては、こうしたソフト味が懐かしく感じられる。そして今は、逆にソフトで面白い映画を作ることの方が難しいのかもしれないとも思う。
最近は年のせいか、自分の最期について考える。好きな山で死ねたサンズは幸せだったのかもしれない。