さらば新橋文化劇場
娯楽アクション洋画の2本立てを上映し続けてきたガード下の映画館「新橋文化劇場」が残念ながら8月31日で閉館する。最後となる今月はいかにもここらしいプログラムが並ぶ。
http://shinbashibunka.com/
中でも今週は、テロリストにハイジャックされたジャンボジェット機内で奮戦する男たちの活躍を描いた『エグゼクティブ・デシジョン』(96)と、ロシアの通信衛星の軌道を変えるため、4人の老パイロットが40年ぶりに集結し、夢の宇宙旅行に挑む姿を描いた『スペース カウボーイ』(00)という圧巻の2本立てだった。
両作には娯楽アクションという以外には何の関連性もないはず…と思うのは甘い。どちらも、空を舞台に、男たちのチームプレーを描き、最後は飛行機の着陸シーンで盛り上げ、エンドクレジットのバックにはフランク・シナトラの歌が流れる(「イッツ・ナイス・トゥ・ゴー・トラブリング」と「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」)、という共通点があるではないか! という訳で、よくもまあこの2本を組み合わせたなあと感心させられるとともに、こういう粋な2本立てが見られる映画館がなくなるのかと思うと寂しさを禁じ得ない。
新橋文化には、以前『違いのわかる映画館』という連載ルポで取材させてもらった。
http://season.enjoytokyo.jp/cinema/index.html
新橋文化劇場の他にも、この2年ほどの間に、かつて取材した「銀座テアトルシネマ」「三軒茶屋シネマ」「浅草中映」「銀座シネパトス」「吉祥寺バウスシアター」が次々と閉館した。こうして並べていくと何やら墓碑銘のようで悲しくなる。東京から名画座がなくなる日もそう遠くはないのだろうか。
(写真は『三つ数えろ』)
その誘うように輝く瞳と独特の上目遣いから“ザ・ルック(目線)”と呼ばれた往年の名女優ローレン・バコールが12日に死去した。89歳というから大往生といってもいいだろう。バコールは、映画デビュー作『脱出』(44)でいきなり25歳年上の大スター、ボギーことハンフリー・ボガートと共演した。この映画には、彼女が「用があったら口笛を吹いてね。吹き方は知っているでしょ」と言い放つ名場面があるが、実生活でもボギーに“口笛を吹かせて”結婚したことで彼女は一躍有名になった。以後、『三つ数えろ』(46)『キー・ラーゴ』(48)などでもボギーとコンビを組み、私生活でも賢夫人として彼を支えたが、57年にボギーと死別した後は舞台への出演が中心となった…。
とここまでは映画史上のお話。
自分にとっての彼女の印象は、オールスター映画『オリエント急行殺人事件』(74)でのすごみのある往年の名女優役、ジョン・ウェインの最後の映画となった『ラスト・シューティスト』(76)での下宿屋の女主人役などにとどまる。ローレン・バコールはあくまでも伝説上の女優なのだ。
ところで、1982年、歌手のパーティ・ヒギンスは映画『キー・ラーゴ』に触発されて同名の曲を作った。彼は歌詞に「ボギーとバコールのように、愛し合っていたころをもう一度思い出そう」という一節を入れ、別れた恋人に向けてメッセージを送った。その結果、彼らはよりを戻して結婚することができたという。これもまた“バコール伝説”の一つ。
今宵はバコールをしのびながらこの曲を聴いてみようか。
Bertie Higgins - Key Largo はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=Ru2tsT32pHA#t=164
ロビン・ウィリアムズが亡くなった。63歳。うつ病による自殺の可能性が高いという。デビュー作の『ポパイ』(80)からリアルタイムで見続けてきた俳優だけに訃報を目にした時のショックはとても大きかった。スタンダップコメディアン出身である彼の得意技は、早口で一気にまくし立てるマシンガントーク。時にはあまりの演技過多に閉口させられることもあったが、彼にしか表現できない多彩な役を演じて楽しませてくれた。
まずは、人間離れした役に説得力を持たせて演じる“怪優”としての顔があった。それは漫画の主人公を演じた『ポパイ』に始まり、ロボットを演じた『トイズ』(92)と『アンドリューNOR114』(99)、『ミセス・ダウト』(93)では女装を披露し、『ナイトミュージアム』(06)では動き出す人形を…という具合に。そして『フック』(91)『ジュマンジ』(95)『ジャック』(96)『フラバー』(97)など、“童心を持った大人”の役も彼のおはこだった。一方、善人に見えるイメージを逆手に取って『ストーカー』(02)と『インソムニア』(02)では異常心理者も演じた。
さらに『ガープの世界』(82)『ハドソン河のモスコー』(84)『グッドモーニング,ベトナム』(87)『いまを生きる』(89)『フィッシャー・キング』(91)『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』(97)といった、複雑な現代社会で人生を模索する男を演じた時、彼の個性は最も真価を発揮した。
この間、アカデミー賞候補の常連となり、軽妙なトークを交えての授賞式の司会も担当。『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』では助演賞を獲得している。彼は、次に演じる役が予測不可能な俳優で、毎回びっくり箱を開けるような新鮮な驚きを与えてくれた。
我がベストワンは彼の笑顔が印象的な『ガープの世界』。
All Aboutでの解説はこちら↓
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/72dac376c0d1de7871baf296c40ee7c4
あの映画にはビートルズの「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」(僕が64歳になっても愛してくれるかい)が流れるのだが、ウィリアムズが63歳で亡くなった今となっては何やら因縁めいて悲しいものがある。
The World According To Garp Opening-The Beatles When I'm Sixty Four はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=ptIvLZ8QerI
マーロウとディマジオ、俺たちとイチロー、そしてシスラー
ニューヨーク・ヤンキースのイチローが10日、メジャーリーグ通算2811本目となる安打を放ち、ジョージ・シスラーを抜いて歴代48位となった。イチローとシスラーと言えば、アンタッチャブルレコードと言われたシスラーのシーズン最多安打記録257本を、当時シアトル・マリナーズのイチローが84年ぶりに更新(262安打)した2004年のシーズンが思い出される。あの夏は、「イチローは今日も打った?」「あと何本?」「凄いよね」といった会話がごく自然に日常の中に入り込んでいた。
そんな中で、ふと思い出した映画があった。ロバート・ミッチャムが私立探偵フィリップ・マーロウに扮した、レイモンド・チャンドラー原作、ディック・リチャーズ監督の『さらば愛しき女よ』(75)だ。
映画の舞台は1941年。マーロウはある事件を追いながら連続試合安打記録を続けるジョー・ディマジオのことを常に気に掛けている。だが、ディマジオの記録が56試合で途切れた時、事件もまた悲しい結末を迎える、というなんとも粋な味付けがなされていた。
そう、あの夏、俺たちはこの映画のマーロウと同じ気分を味わうことができたのだ。そしてそれはイチローと同時代を生きる者だけが得られる幸福感だった。あれから10年、今のイチローは選手としては明らかに黄昏を迎えている。だが、俺たちがあの夏の日の興奮と感動を忘れることは決してないだろう。願わくばイチローにはもう一花咲かせてほしいものだが…。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
のび太のラブストーリーと友情の物語
『STAND BY ME ドラえもん』
名台詞は↓
「しずかちゃんがいるから僕は生きていけるんだよ」
byのび太
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/931905
「映画で見る野球 その3」ミュージカル&コメディー編
まず、『私を野球に連れてって=テイク・ミー・アウト・トゥ・ザ・ボールゲーム』(49)は、ウルブズという架空の球団を舞台にした、ジーン・ケリー、フランク・シナトラ、エスター・ウィリアムズ共演の本格ミュージカル。監督は振付師としても有名なバズビー・バークレー。曲自体は、いまやメジャーリーグのテーマソング的な存在になっており、試合の7回に“セブンス・イニング・ストレッチ”としても歌われる。女性のウィリアムズが球団のオーナーになるという設定は、後の『メジャーリーグ』シリーズに引き継がれた。踊りと歌の名手のケリーとシナトラだが、野球はあまりうまくないのがかえってほほ笑ましく映る。
『くたばれ!ヤンキース』(58)は、今は消滅したワシントン・セネタースの老ファンが、強過ぎるニューヨーク・ヤンキースを倒すために悪魔に魂を売って若返り、セネタースに入団して大活躍する、という究極のファン心理をくすぐる傑作ミュージカルだが、根底に描かれているのは老夫婦の絆。主人公を誘惑するグエン・バードン、悪魔役のレイ・ウォルストンが傑作だ。監督は『雨に唄えば』(52)などのスタンリー・ドーネン。ミッキー・マントルら、当時のヤンキースの選手たちも登場する。
大学の先生(レイ・ミランド)が偶然発明した薬(木材を避ける液体)のおかげでメジャーリーグの“にわかピッチャー”になるコメディーが『春の珍事』(49)。こちらはキャッチャー役のポール・ダグラスがいい味を出し、恋人役のジーン・ピータースがかわいい。監督はベテランのロイド・ベーコン。『三十四丁目の奇蹟』(47)や『グレン・ミラー物語』(54)でも有名なバレンタイン・デイビスの脚本がうまい。ところで、老人が謎の薬で若返るという楳図かずおの傑作漫画『アゲイン』は多分『春の珍事』と『くたばれ!ヤンキース』に影響されているはず。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
佐藤健は“剣豪スター”になれる!
『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』
ここで一言↓
「ステーキにトリュフを乗せて、
その上にふかひれスープを掛けたような映画にしたかった」
by大友啓史監督
詳細はこちら↓
詳細はこちら↓http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/919041
30数年ぶりに映画でチリの歴史を教えられた
1973年、南米のチリで左派のアジェンデ大統領が殺害され、ピノチェト将軍が権力の座に就くという軍事クーデターが発生した。この時の様子を外国人記者の目を通してドキュメンタリータッチで描いた『サンチャゴに雨が降る』(76)を高校生の時に見て衝撃を受けた覚えがある。裏で糸を引いていたのはアメリカだった。
それから15年後の1988年、ピノチェト大統領による長期間の軍事独裁に国際的な批判が高まる中、政権の信任を問う国民投票が行われることになった…。本作は、大統領支持派の「YES」と反対派の「NO」によるテレビCMでの選挙キャンペーン合戦の様子を、実話を基に描く社会派エンターテインメント。両陣営のやり取りを対照的に見せながら、広告キャンペーンやプロパガンダの功罪を浮き彫りにしていく。パブロ・ラライン監督は、当時のニュースフィルムとの融合を違和感なく見せるために旧式のカメラを使用して撮影したというが、これが大いに効果を発揮している。
主人公はNO陣営に雇われた若き広告マンのレオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)。彼はポップで明るく前向きなCMを効果的に使って陣営の勝利に大きく貢献するのだが、その彼をヒーローとしては描かず、むしろ商業的な成功を求めるいけ好かない奴として描いている点がユニークだ。新自由主義の名の下に資本主義を推進したピノチェトが、マーケティングや広告の力によって権力の座を追われることになったことも皮肉だが、政権交代後は貧富の差が拡大し、チリは必ずしも“いい国”にはなっていないという苦い結果が、レオのキャラクターにも微妙に反映されているのかもしれない。
地域紛争に伴う実話の映画化、奇想天外な“作戦”、ブラックユーモア、苦い勝利など、『アルゴ』(12)と通じるものがある。そんな本作の面白さは各国の映画祭で観客賞を受賞したことでも明らか。観客の反応は批評家のうがった見方よりも信頼できる。30数年ぶりにまた映画でチリの歴史を教えられた。