田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『探偵物語』

2018-11-18 08:02:28 | 1950年代小型パンフレット

『探偵物語』(51)(1986.9.20.銀座文化)

 ニューヨーク21分署の刑事部屋を舞台に、妻(エリナー・パーカー)との関係に悩む刑事(カーク・ダグラス)の姿を中心に、さまざまな人間模様を描いたウィリアム・ワイラー監督作品。



 今から30数年前の映画。従って、当時のモラルや警察内部の機構なども今とは雲泥の差があり、時代差を感じるのは否めない。だが、それらを差し引いてドラマの内容に目を移せば、さすがはワイラー、全く飽きずに見ることができた。

 この映画の原作は舞台劇であり、警察の一分署という狭い空間内で起きるドラマを、どう映画的に発展させていくのかが勝負どころだが、ワイラーは逆にその狭苦しさを利用し、都会に住むさまざまな犯罪者を一カ所に集め、一つのまとまったドラマとして見せることに成功している。

 中でも、リー・グラント演じる万引き女が出色で、観客の立場から全体を見わたすような、狂言回し的な役割を果たしている。また、舞台劇の名残りか、登場人物が一人一人退場、つまり分署から外に出ていく形で画面から消えていくのも印象に残る。

 そして、最後まで冷徹で救い難いこの映画のラストに、若いカップルの再出発を予感させるシーンを入れることで一筋の希望を感じさせる。ずるいぞワイラー。

 

パンフレット(53・東宝事業課(有楽座 No53-3.))の主な内容
解説/物語/「探偵物語」のこと(清水俊二)/カーク・ダグラスのこと/一俳人の立場から(富安風生)/エリナー・パーカー

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【ほぼ週刊映画コラム】『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』

2018-11-17 16:12:25 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

シーツをかぶった幽霊の摩訶不思議な物語
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1170477
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『ファースト・マン』

2018-11-17 10:26:38 | 新作映画を見てみた
 人類史上初めて月面に立った男、ニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)を主人公に、ディミアン・チャゼル監督が、アメリカの宇宙計画の裏側を描く。



 1960年代はまだ携帯電話もパソコンもなかった時代。そのためチャゼル監督は、可能な限りアナログ感を表現し、観客に当時の現実を体験させることを主眼に置き、ドキュメンタリーのスタイルを採用したという。おかげで、こちらもアポロ11号の月面着陸の衛星中継を夢中になって見た、子どもの頃の思い出がよみがえってきてた。

 また「無限の宇宙(月)と平凡な日常(台所)が並立する作品に」をモットーに、宇宙開発のスペクタクルよりも、アームストロングらの内面を深く掘り下げることに腐心して描いている。日常的に現れる月、アームストロングが見上げる月など、地球から見た月のカットを印象的に映すのも、それを象徴する。

 脚本は『スポットライト 世紀のスクープ』(15)『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(18)などの実録物の名手ジョシュ・シンガー。今回もその手腕を遺憾なく発揮。宇宙計画の暗部や反対運動の様子なども取り入れている。

 米宇宙計画を描いた映画としては、この映画の前日談として『ライトスタッフ』(83)『ドリーム』(16)、後日談として『アポロ13』(95)、番外編として架空話の『カプリコン・1』(77)があり、それらと並行して見れば、米宇宙計画を多角的に捉えることができるだろうと感じた。

 抑えた演技のゴズリングのほか、妻役のクレア・フォイ、同僚役のジェイソン・クラーク、上司役のカイル・チャンドラー、そしてアポロ11号のクルー、バズ・オルドリン役のコリン・ストールと、マイク・コリンズ役のルーカス・ハースらも好演を見せる。

 蛇足。アポロ11号の月面着陸、アームストロングの“第一歩”が、当時の日本でも大きな話題となった一例として、『巨人の星』のオズマの存在がある。なぜなら、彼のフルネームはニール・アームストロングにちなんだアームストロング・オズマだったからだ。
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『サンセット大通り』

2018-11-16 20:03:24 | 1950年代小型パンフレット

『サンセット大通り』(50)(1986.8.22.銀座文化)

 ビリー・ワイルダー監督が、ロサンゼルス郊外の豪邸を舞台に、サイレント映画時代の栄光を忘れられない往年の大女優の妄執と悲劇を通して、ハリウッドの光と影を描く。



 往年の撮影所を舞台にした甘々の『キネマの天地』(86)を見た後だけに、今から30年以上も前に作られたこの映画のすごさやうまさを改めて知らされることになった。甘さや感傷を全く感じさせないのに、映画作りの魅力や魔力を感じさせる二面性を持ち、美しさと醜さが同居した異様な世界を展開させるのだ。

 何よりすごいのは、グロリア・スワンソンとエリッヒ・フォン・シュトロハイムというサイレント映画からの生き残りの、役柄と実像が重なって見えてくる怖さと哀れさであり、よくこんな役をOKしたなあと思わせるところがある。

 その一方、シナリオライター役のウィリアム・ホールデンとナンシー・オルソンという、当時の若手が語る映画への夢も描かれ(2人が語り合いながらシナリオが出来上がっていくシーンは見ていて楽しくなる)、その両極を交差させながら、映画の魅力と魔力を浮かび上がらせるのである。

 後年、ワイルダーは、この映画の裏返しとも思える『悲愁』(79)を撮るが、あの映画ではホールデンが旧世代の映画人を演じていたのも印象深い。

 そういえば『エアポート75』(74)の乗客の中に、スワンソンとオルソンがいたことを思い出した。スワンソンはこの映画同様、過去の大スターを演じ、オルソンは難病を抱えるリンダ・ブレアの母親役だった。あれはこの映画を意識したキャスティングだったのだろうか。

ビリー・ワイルダーのプロフィール↓


ウィリアム・ホールデン、エリッヒ・フォン・シュトロハイムのプロフィール↓
 

パンフレット(52・国際出版社)の主な内容
解説/ストーリー/アメリカの批評抜粋/グロリア・スワンソン

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『麗しのサブリナ』

2018-11-16 11:17:39 | 1950年代小型パンフレット

『麗しのサブリナ』(54)(1985.12.3.銀座文化)

 富豪ララビー家のお抱え運転手の娘サブリナ(オードリー・ヘプバーン)が、一家の次男デビッド(ウィリアム・ホールデン)に失恋しパリに旅立つ。2年後、美しく変身した彼女に堅物の長男(ハンフリー・ボガート)が心を奪われて…。ビリー・ワイルダー監督のロマンチックコメディー。



 映画の魅力、楽しさを全て心得ているからこそなし得る芸当なのだろうが、全くワイルダーの演出力、俳優の生かし方、ストーリーの転がし方…には恐れ入るばかり。この映画にしても、大筋はよくあるシンデレラ物語に過ぎない。それなのに、これほど面白く見せてくれるとは…。

 この映画は、特に俳優の生かし方が素晴らしい。オードリーの前半のかわいらしさ、一転後半の美しさ。ボギーの珍しく喜劇的な演技、ホールデン面目躍如のプレーボーイぶりなど、主役の3人もさることながら、父親役のウォルター・ハムデンをはじめとする、脇役たちもまた見事なのである。

 ワイルダーの映画は、総じて脇役たちが活躍する場が多く、ほんのワンシーンしか登場しない者にまで目が行き届いている。この映画で言えば、パリの料理学校の先生がその最たるもの。

 また、脚本家出身だけに、粋なセリフをちりばめながら、ストーリー展開も実にスムーズに進めていく。帰り際にすれ違った人の「こんないい映画を放っておくなんて許せない」という一言に、我が意を得たりという気がした。



パンフレット(54・東宝事業課(東宝事業課(日比谷映画劇場 No54-18))の主な内容
ワイルダーの演出神経(飯田心美)/ヘップバーンとパラマウント・カラー(筈見恒夫)/ウィリアム・ホールデン、ハンフリー・ボガート/サブリナのヘップバーン/役に立ったボカートの少年時代の肖像画/ウオルター・ハムデン、マーサ・ハイヤー、マルセル・ダリオ/オランダ時代のオードリー・ヘップバーン/かいせつ/ものがたり/ヘップバーンのファッション

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『シュガー・ラッシュ:オンライン』

2018-11-16 08:29:39 | 新作映画を見てみた
 『シュガー・ラッシュ』(12)の続編で、原題は「Ralph Breaks the Internet=ラルフがネットを破壊する」。



 前作で親友になったヴァネロペとラルフが、今回はインターネットの世界に飛び込み冒険を繰り広げる。アーケードゲームのキャラクターがネットの中に入るとどうなるのか…。新たな世界にワクワクするヴァネロペと戸惑うラルフの姿は、初めてインターネットを目にした時の人間の反応の投影でもあるそうだ。そんな中、2人の友情にも変化が訪れる。

 見どころは、インターネットの中身の視覚化。東京をイメージしたというカラフルな世界が現出し、ディズニーキャラクターも多数登場する。プリンセス専用の部屋には、歴代のディズニー・プリンセス14人全員が集うなど、スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』のアニメ版の趣もある。
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『スミス都へ行く』

2018-11-15 16:58:57 | 1950年代小型パンフレット

『スミス都へ行く』(39)(1982.12.12.)

 田舎者のスミス(ジェームズ・スチュワート)は地元のボーイスカウトのリーダーだったが、死亡した上院議員の代わりに、政界に担ぎ出される。スミスはそこで政治の腐敗を知り、単身立ち向かうが…。



 フランク・キャプラ映画のラストは、どれも見え見えのハッピーエンド。普通なら何だばかばかしいとなるところだが、なぜか彼の映画は一味違う。今の目から見れば、特に作り方がうまいというわけでもないのに、これでいいのだと妙に納得させられてしまうところがあるのだ。この映画にしても、最後に悪徳政治家が改心することなど、現実の世の中では起きるはずもない。それなのに快い感動を覚えるのは一体なぜなのだろう。

 多分そこには、現実の世の中では見失われている人間の良心が描かれているからなのだろう。人間は本来こうあるべきなのに、現実はあまりにも正直者がバカを見るようなことが多過ぎるのだ。

 キャプラが活躍した時代は遥か昔であるにもかかわらず、いまだに鮮度を失わないのは、実は悲しむべきことなのかもしれない。また、今のスピルバーグの映画などは形こそ違え、キャプラ的なものだと言えなくもない。そう考えると、人間同士が繰り広げる夢物語が、いつの間にか宇宙にまで手を広げなければ描けなくなっているということなのか、とも思わされる。

 ジェームズ・スチュワート、若い頃は大根役者だった、などという話を耳にしたことがあったが、どうして、どうして。こんなスミスみたいなお人好しは彼にしか演じられないと思わせる名演だった。脇役も悪徳政治家役のクロード・レインズやトマス・ミッチェルが頑張っていたが、何と言っても議長役の俳優が光った。誰かと思って調べてみたら、ハリー・ケリー・ジュニアの親父、つまりハリー・ケリーなんだと…。

フランク・キャプラのプロフィール↓


ジェームズ・スチュワートのプロフィール↓


ジーン・アーサーのプロフィール↓

パンフレット(54・東宝事業課(日比谷映画劇場 No54-14))の主な内容
ものがたり/かいせつ/「スミス都へ行く」を見て(飯島正)/ジーン・アーサー、ジエームス・スチユアート、フランク・キャプラ

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『必死の逃亡者』

2018-11-15 13:43:35 | 1950年代小型パンフレット

 先日、1950年代映画の小型パンフレットを大量に買い込んだが、その中から、見た際のメモが残っている映画について書き出してみようと思う。

『必死の逃亡者』(55)(1981.3.21.)

 平凡な家庭に突然押し入った3人組の脱獄囚。彼らは仲間の情婦が金を届けるまでそこに居座ることにするが…。さまざまなジャンルで名作を残したウィリアム・ワイラーが1955年に撮ったサスペンス風の家庭劇。



 あの頃はこんな人質事件など、映画の中の出来事に過ぎなかったのだろうが、今では、いつこんなことが起こっても不思議ではない。それだけに、先見の明ありといったところだろう。

 フレドリック・マーチ、ハンフリー・ボガート、ギグ・ヤングといった今は亡き名優たちがそれぞれ好演している。特にマーチが演じた勇気ある父親像は、最近見られなくなったタイプなので、悲しいかな珍しいものとして映った。

 主犯の弟(デューイ・マーティン)が次第にこの男を尊敬するように描かれているところも、この男のキャラクターを引き立てるし、主犯のボギーと男の妻(マーサ・スコット)のこんな会話の中にもそれは表されている。「あんたの亭主がこんなに肝っ玉のある奴だと知ってたか」「いいえ、初めて知ったわ」。

 そして、マーチに対抗するかのように、ラストで目をひんむいて死ぬボギーが強烈な印象を残す。

 【今の一言】この映画は、1990年にマイケル・チミノ監督、ミッキー・ローク主演で『逃亡者』としてリメイクされた。
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/254fe903aeb7efa50b0f2843331a260d

パンフレット(56・新世界出版社(AMERICAN MOVIE WEEKLY))の主な内容は
ハンフリー・ボガート、フレドリック・マーチ、アーサー・ケネディ、マーサ・スコット、デューイ・マーティン/ウィリアム・ワイラー/製作余話/解説/ストーリー/原作・舞台・映画と「必死の逃亡者」の大ヒット/ギャング役者の貫禄を見せるハンフリー・ボガート/ウィリアム・ワイラー作品目録/パラマウント・スター告知板・メエリー・マーフィー

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『メアリーの総て』

2018-11-14 11:20:23 | 新作映画を見てみた
 ゴシック小説の古典『フランケンシュタイン』を生み出したイギリスの女性作家メアリー・シェリーの波乱に満ちた半生を、エル・ファニング主演で映画化。



 19世紀初頭、小説家を夢見る少女メアリーは、妻子ある詩人パーシー・シェリーと出会い、駆け落ちをするが、さまざまな不幸に見舞われる。1816年、失意のメアリーとパーシーを、詩人のバイロンが別荘に招待し、「皆で一つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ち掛ける。

 サウジアラビア出身のハイファ・アル=マンスール監督をはじめ、製作、脚本も皆女性ということで、メアリーに共感しながら、彼女の心情に焦点を当て、18歳の少女が、なぜ『フランケンシュタイン』を書いたのかを明らかにする。それをファニングが堂々たる演技で表現した。

 ここでは、孤独、喪失、死、裏切りをキーワードに、メアリーが、ガルバニズム(生体電気)ショーに魅せられ、死者を蘇生させることに興味を持ったのは母と娘を失ったから、あるいは、男(夫)への幻滅や絶望感が怪物(自分)を生み出した科学者像に反映されていると推理するなど、興味深い考察がなされている。

 ところで、バイロンが持ちかけたいわゆる「ディオダディ荘の怪奇談義」は『フランケンシュタインの花嫁』(35)『ゴシック』(86)でも描かれていたが、今回は『吸血鬼』を書きながら、バイロン作とされ、失意の中で自殺したジョン・ポリドリの姿も印象的に描かれていた。ポリドリ役の俳優、どこかで見たことがあると思ったら、『ボヘミアン・ラプソディ』でロジャー・テイラーを演じたベン・ハーディだった。

 また『フランケンシュタイン』はSFの祖とも言われる。これがなければ、今のマーベルやDCコミックの映画もなかったかもしれない。などと思っていたら、マーベルコミックスの名物クリエーター、スタン・リーが95歳で亡くなったことを知った。ヒッチコックのように、マーベル作品の“どこか”に、毎回カメオ出演する楽しいじいさんだった。
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『ボヘミアン・ラプソディ』ドルビーアトモス

2018-11-12 14:40:05 | 映画いろいろ
 『ボヘミアン・ラプソディ』。先日は試写室で見たので、クイーンファンの妻と共に、改めてTOHOシネマズ日本橋のドルビーアトモスで見てみた。



 この映画でドルビーアトモスなら…と、期待大であったのだが、残念ながら思ったほどの効果は感じられなかった。これは、もともとの音作りがよくできていたことが、かえって効果を薄めることにつながったのか。それともオレの耳が悪いのか。

 その後、映画の仲間との飲み会でこの映画の話題が出たが、クイーンの曲をよく知らない者にも十分楽しめたという。そうなのだ。この映画のすごいところは、記録映画ではなく、ちゃんと“劇映画”になっているところなのだ。

 帰宅後、ユーチューブで何年かぶりに実際のライブエイドの映像を見る。やっぱり本物のクイーンはすごいが、今回のラミ・マレックと他の3人も、本当によくやったと改めて感じさせられた。
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