『探偵物語』(51)(1986.9.20.銀座文化)
ニューヨーク21分署の刑事部屋を舞台に、妻(エリナー・パーカー)との関係に悩む刑事(カーク・ダグラス)の姿を中心に、さまざまな人間模様を描いたウィリアム・ワイラー監督作品。
今から30数年前の映画。従って、当時のモラルや警察内部の機構なども今とは雲泥の差があり、時代差を感じるのは否めない。だが、それらを差し引いてドラマの内容に目を移せば、さすがはワイラー、全く飽きずに見ることができた。
この映画の原作は舞台劇であり、警察の一分署という狭い空間内で起きるドラマを、どう映画的に発展させていくのかが勝負どころだが、ワイラーは逆にその狭苦しさを利用し、都会に住むさまざまな犯罪者を一カ所に集め、一つのまとまったドラマとして見せることに成功している。
中でも、リー・グラント演じる万引き女が出色で、観客の立場から全体を見わたすような、狂言回し的な役割を果たしている。また、舞台劇の名残りか、登場人物が一人一人退場、つまり分署から外に出ていく形で画面から消えていくのも印象に残る。
そして、最後まで冷徹で救い難いこの映画のラストに、若いカップルの再出発を予感させるシーンを入れることで一筋の希望を感じさせる。ずるいぞワイラー。
パンフレット(53・東宝事業課(有楽座 No53-3.))の主な内容
解説/物語/「探偵物語」のこと(清水俊二)/カーク・ダグラスのこと/一俳人の立場から(富安風生)/エリナー・パーカー