およそ2年ぶりに広島を訪れた。
偶然入ったお好み焼き屋(「八誠」)をはじめ、結構な頻度で街中に『孤狼の血 LEVEL2』のポスターが貼ってあった。他にも、広島を舞台にした『吟ずる者たち』や『彼女は夢で踊る』のものも見掛けた。また、「サロンシネマ1・2」という映画館は、宮崎祐治のイラスト(『ジョーズ』『アメリ』『東京物語』『タクシー ドライバー』)を掲げていた。広島は意外に映画どころなのだ。
『孤狼の血』
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【インタビュー】『彼女は夢で踊る』加藤雅也
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『カラミティ・ジェーン』(53)
デッドウッドと呼ばれる西部の小さな町。男勝りの射撃の腕前をもつジェーンは、ある日、町に人気女優を連れてくると約束しシカゴへと向かうが、間違って付き人を連れ帰ってしまい大騒動になる。
西部開拓時代の実在の女性ガンマン、カラミティ・ジェーン(ドリス・デイ)と早撃ちの名手ワイルド・ビル・ヒコック(ハワード・キール)の恋を、軽快な歌とダンスで描くミュージカル・コメディー。監督はデビッド・バトラー。主題歌「シークレット・ラブ」がアカデミー歌曲賞を受賞した。
この映画は、同じくミュージカル西部劇の『アニーよ銃をとれ』(50)のヒットにあやかって製作されたのだろう。『アニー~』のベティ・ハットン同様、男勝りのジェーンが、次第にレディになっていくギャップの面白さが見どころで、相手役はどちらもキールなのだから。
ただし、デイが演じるジェーンの扮装は『平原児』(36)のジーン・アーサーのパロディ的なものになっているらしい。
今夏、ジェーンを主人公にしたフランス産のアニメ映画『カラミティ』が公開される。
衰えたハリソン・フォードや、懐かしのカレン・アレンの再登場も計算ずくか
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共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
カンバーバッチが、複雑なアメリカの西部男を演じた
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
『子鹿物語』(46)(1974.5.5.NHK)
原作はマージョリー・キナン・ローリングス、監督はクラレンス・ブラウン。フロリダ北部の開拓地で農業を営む一家の息子ジョディ(クロード・ジャーマン・ジュニア)は、ある日、森の中で子鹿を見つける。ジョディは、白い尻尾にちなんで“フラッグ”と名付け、兄弟のようにかわいがるが、成長したフラッグは作物を荒らすようになってしまう…。
初めて見たのは中学2年の子供の日。吹き替えは、ペックはいつもの城達也ではなく柳生博で、ワイマンは市原悦子、ジャーマン・ジュニアは武藤礼子だったことを覚えている。
カラー画面に映える自然の美しさに目を見張りながら、子どもながらに、ペックの優しい父親に比べて、生活の厳しさとかつて子どもを死なせた負い目から、息子につらく当たってしまう母親を演じたワイマンが何だかとても哀れに見えたものだった。最後に鹿を撃って家出をするジョディのやるせない気持ちに共感したが、今なら彼を心配する両親の気持ちの方がよく分かる。
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(2021.11.16.オンライン試写)
「デュポンの工場からの廃棄物で土地が汚染され、190頭もの牛が病死した」。農場主のウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)の悲痛な訴えから始まった、米ウエストバージニア州のコミュニティを蝕む環境汚染問題。弁護士のロブ・ビロット(マーク・ラファロ)が10数年にわたってデュポンを相手に繰り広げた闘いの軌跡を描く。
これは、工場から流出した化学物質ペルフルオロオクタン酸(PFOA)が混じった飲料水が原因で、住民ががんなどの健康被害を受けたとするもの。PFOAはフライパンの加工などに使われるフッ素樹脂「テフロン」の製造過程で使われる。
ラファロが製作も兼任し、トッド・ヘインズを監督に指名したという。キャンプのほか、妻役のアン・ハサウェイ、上司役のティム・ロビンス、地域弁護士役のビル・プルマンらも、それぞれ好演を見せる。
先に公開されたジョニー・デップ主演の『MINAMATA』で描かれた水俣の住民とチッソとの関係、あるいは原発と地域住民など、企業から実害を受けながら、半面、その企業の恩恵にあずかって生活しているから泣き寝入りをせざるを得ないという理不尽な例は後を絶たない。実在の人物であるこの映画の主人公ビロットは、そうした矛盾に敢然と立ち向かったわけだ。
アメリカ映画が得意とするものの一つに、アメリカという国や社会が犯した悪事について自浄作用を発揮しながら、人々に知らしめるというパターンがある。これまでも映画の力を利用して、さまざまな事象が告発されてきた。
その上、この映画は、昔話ではなく、ごく最近の出来事を克明に描いているのだから恐れ入る。しかも、ちゃんと娯楽映画として成立させているのだ。
自分がアメリカ映画が好きな理由の一つは、多分こうした部分に寄るところが大きいのだろうと改めて感じた。実際のところ、自分はこの事件に関しては全くの無知だったのだから。
名場面は、デュポンから送られた膨大な証拠書類をビロットが整理し、核心に迫っていく様子。ウエストバージニアの自然の素晴らしさが歌われるジョン・デンバーの「カントリー・ロード」が流れる皮肉も効いている。
そういえば、ラファロは『フォックスキャッチャー』(14)ではデュポン財閥の御曹司(スティーブ・カレル)に雇われ、殺害されるレスリングのコーチを演じていた。
『はじまりのうた』『フォックスキャッチャー』のマーク・ラファロに注目
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『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021.10.22.ソニー・ピクチャーズ試写室)
マーベルコミックのダークヒーロー、ヴェノムの活躍を描いた続編。今回は、圧倒的な戦闘力と残虐性を持ち、ヴェノムの大敵となるカーネイジとの戦いを描く。タイトルの意味は「大虐殺よ起これ」。
「悪人以外を食べない」という条件でエディ(トム・ハーディ)の体に寄生した地球外生命体シンビオートのヴェノムは、食欲制限を強いられ不満を抱えながらも、エディとの共同生活をそれなりに楽しんでいた。
そんな中、ジャーナリストとして未解決事件の真相を追うエディは、刑務所で死刑囚のクレタス・キャサディ(ウディ・ハレルソン)と再会する。突如エディの腕に噛みついたクレタスは、その血液が人間とは異なることに気付く。そして死刑執行の時、クレタスはついにカーネイジへと覚醒する。
エディとヴェノムを、一つの体を共有する一心同体のバディ=相棒として強調して描く。これは、ある意味、エディとヴェノムのラブストーリーだ。前作よりもユーモラスな面も強調されている。
監督のアンディ・サーキスは、モーションキャプチャでさまざまな役を演じてきた人なので、同じ体で別のものになるという、エディとヴェノムの関係を描くには打ってつけだったのではないかと感じた。
『ヴェノム』
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