共同通信発行の子どもと大人のウェルビーイングなくらしを応援するフリーマガジン「HABATAKE」。
創刊号のインタビューは、ドラマ「かしましめし」の前田敦子。
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『大名倒産』(2023.4.21.松竹試写室)
江戸時代後期。越後・丹生山藩の鮭役人・間垣作兵衛(小日向文世)となつ(宮崎あおい)の息子として平穏に暮らしていた小四郎(神木隆之介)は、ある日突然、自分が徳川家康の血を引く丹生山藩主の跡継ぎだと知らされる。
だが、実の父である一狐斎(佐藤浩市)は、小四郎に国を任せて隠居してしまう。庶民から藩主へと大出世したかに見えたのもつかの間、丹生山藩が25万両(約100億円)もの借金を抱えていることが判明。頭を抱える小四郎に、一狐斎は「大名倒産」を命じる。それは借金の返済日に藩の倒産を宣言して踏み倒すという案だったが、実は一狐斎は小四郎に全ての責任を押しつけて切腹させようとたくらんでいた。
浅田次郎の同名時代小説を、時代劇は初となる前田哲監督が映画化。丑尾健太郎と稲葉一広が共同脚本。神木が時代劇初主演。小四郎の幼なじみのさよを杉咲花、小四郎の兄の新次郎を松山ケンイチが演じる。
これは、最近時折作られる“ニュー時代劇”の一つというか、時代劇の形を借りた一種のファンタジー。全編がデフォルメによる遊び心と楽しさに満ち、中抜き、公文書改ざん、サブスクリプション、シェアハウス、SDGsなど、今の問題が江戸時代にも通じることを示し、セリフも所々で現代風だったりする。
家臣たちが次第に小四郎に感化されていくところは、大統領の影武者が政治を変える『デーヴ』(93)をほうふつとさせ、みんなで主役の神木を盛り立てようという姿勢が、劇中の小四郎と周囲の人々の姿に重なって見えるところがある。
そして、小四郎が養父はもちろん、鮭役人という彼の仕事のことも本当に好きなんだと分かる冒頭のシーンから、やっぱりこれも、他の前田哲作品同様、家族(共同体)の話であり、群像劇なのだと感じさせる。前田哲快調!
『時をかける少女』(83)を思い出させるような、エンディングのサービスシーンも楽しい。
『水は海に向かって流れる』
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『TAR/ター』(2023.4.20.GAGA試写室)
ドイツの有名オーケストラで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的な能力と優れたプロデュース力で、現在の地位に上り詰めたが、今はマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんな中、かつて指導した若手指揮者が自殺したとの報が入り、ある疑惑をかけられたリディアは次第に追い詰められていく。
リディアは、レナード・バーンスタインの弟子で、音楽に対しては純粋で完璧主義者だが、上昇志向が強くごう慢で他人に対しては冷たい。エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞を全て受賞し、ドイツとアメリカをプライベートジェットで往復する日々。ドイツ人の女性音楽家と同居するレズビアンで、2人で移民の養子を育てている。そんな彼女があることをきっかけに、本性をあらわにし、壊れていく…。こうした複雑なキャラクターをブランシェットが見事に演じている。
今年のアカデミー賞の主演女優賞は『エブエブ~』のミシェル・ヨーが受賞したが、以前のアカデミー賞なら、この映画のブランシェットが受賞していたのではないかと思われる。それほどの熱演である。
映画全体を考えてみても、トッド・フィールドの16年ぶりの監督作となったこの映画は、トーク、心理サスペンス、音楽を融合させた2時間38分として決して長くは感じさせない。
ただ、これは最近のあまりよろしくない傾向だと思うのだが、何でもかんでも無理矢理LGBTQに結び付けて描くところには違和感が残る。それによって物語や設定に無理が生じるし、作り手が、必ずそれを入れ込まなければならないとでもいうような、一種の強迫観念に捉われているようにも思えるからだ。
さて、マーラーの交響曲第5番が使われた『ベニスに死す』(71)と『地獄の黙示録』(79)が会話の中に現れるこの映画、こちらにクラシック音楽に関する素養があればもっと楽しめたのだろうかと思う。
『11人のカウボーイ』(71)(1977.4.2./9.土曜映画劇場)
人手不足のため、やむなく11人の少年を雇い、牛追いの旅に出た牧場主のウィル(ジョン・ウェイン)。彼は経験もない幼い少年たちを訓練しながら旅を続けていく。さまざまな困難に立ち向かいながら、少年たちは成長し、勇気と知恵を学んでいくが…。
子役たちに加えて、人のいい黒人料理人役のロスコー・リー・ブラウンと、憎々しい牛泥棒役のブルース・ダーンが、対照的な役柄で強烈な印象を残す。監督はニューヨーク派のマーク・ライデル。
晩年のウェインは、この映画のほかにも、『勇気ある追跡』(69)のキム・ダービー、『ビッグ・ケーヒル』(73)のゲーリー・グライムスたち、『ラスト・シューティスト』(76)のロン・ハワードと、まるで自分の子どもや孫に当たるような少女や少年たちと共演しているのが特徴的。
ビデオ通話で西部劇談議『11人のカウボーイ』
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本物の4人がそこに映っているかのような錯覚に陥る
【ほぼ週刊映画コラム】『ボヘミアン・ラプソディ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/171a22e41f51396ce0bc1f22bf2ef6cd
『ボヘミアン・ラプソディ』ドルビーアトモス
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『ボヘミアン・ラプソディ』“胸アツ”応援上映
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第91回アカデミー賞授賞式
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【インタビュー】『ロケットマン』デクスター・フレッチャー監督
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『MEMORY メモリー』(2.23.4.19.オンライン試写)
完璧に仕事を遂行する殺し屋として名をはせたアレックス(リーアム・ニーソン)は、アルツハイマー病の発症によって引退を決意する。
これが最後と決めた仕事を引き受けたアレックスだったが、ターゲットが少女であることを知り、契約を破棄。唯一の信念である「子どもだけは守る」を貫くため、独自の調査を進める中で、財閥や大富豪を顧客とする巨大な人身売買組織の存在を突き止める。
余命わずかとなった殺し屋が、FBIに追われながら事件の黒幕と対決するタイムリミット・アクション。FBI捜査官役にガイ・ピアース、大富豪役にモニカ・ベルッチ。監督はマーティン・キャンベル。
アルツハイマー病に侵された殺し屋というのはなかなか興味深い視点。忘れたときの用心のために腕にキーワードを書き込み、仕事が済むと消すアレックスの姿が痛々しく哀れを誘う。
ただ、事件の描き方がいささか回りくどく、人物整理も雑なのでミステリーとしては弱いのが難点。また、テキサスとメキシコとの微妙な関係は、西部劇の昔から描かれているが、ここでもメキシコの治安の悪さが強調され、見ていてあまりいい気持がしない。
中年になってからなぜかアクション俳優となったニーソンだが、この映画のアレックス同様、最近は疲れが目立ち、そろそろアクションからは引退した方がいいのではないかと思った。この後、出演100本記念作品と銘打たれた『探偵マーロウ』の公開が控えているが…。
『水は海に向かって流れる』(2023.4.18.オンライン試写)
高校通学のため、叔父の家に居候をすることになった直達(大西利空)。だが雨の中、駅に迎えにきた榊さん(広瀬すず)に案内されたシェアハウスには、26歳のOLの榊さん、脱サラした漫画家の叔父・茂道(高良健吾)のほか、女装の占い師・颯(戸塚純貴)、海外を放浪する大学教授の成瀬(生瀬勝久)が住んでいた。
さらには、拾った猫のムーを気にしてシェアハウスを訪れるようになった直達の同級生で颯の妹の楓(當真あみ)も加わり、予想外の共同生活が始まる。いつも不機嫌だが、気まぐれにおいしいご飯を振る舞ってくれる榊さんに淡い恋心を抱き始める直達だったが、なぜか「恋愛はしない」と宣言する彼女との間には、思いも寄らぬ因縁があった。
田島列島の同名コミックを前田哲監督、大島里美の脚本で実写映画化。メークの力も借りて、不機嫌でツンデレな“年上の人”を演じた広瀬が、大人の女優としての新たな一歩を踏み出した感じがしたし、大西の真っすぐな若者像にも好感が持てた。そんな彼らを取り巻く“くせ者たち”も面白い。
最近、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)『老後の資金がありません!』(21)『そして、バトンは渡された』(21)『ロストケア』(23)と、群像劇として、さまざまな形の家族(共同体)の問題を映画化している前田監督の力量が、この映画でも遺憾なく発揮されている。
また、原作の田島について、『子供はわかってあげない』(21)の沖田修一監督が「結構深刻な家族の話を軽やかに描いている」「近づき方がずるい。酔っ払いながら近づいてきて急に刺されるみたいな」と表現していたが、この映画にも同様のものがあった。これは彼女の漫画のテーマが一貫していることの証しなのか。
前田監督には『陽気なギャングが地球を回す』(06)のインタビューの際に、影響を受けた映画として『ホット・ロック』(72)などの話で盛り上がったが、今回の榊さんと直達が山盛りの卵を食べるシーンでは『暴力脱獄』(67)のポール・ニューマンのことを思い出した。
【ほぼ週刊映画コラム】『ロストケア』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f97ee36b29c9e0368623a3d3873a667d
【ほぼ週刊映画コラム】『そして、バトンは渡された』『老後の資金がありません!』
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『こんな夜更けにバナナかよ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b4a0a3e207e519bd5afd1a3535ef6c9f
【インタビュー】『陽気なギャングが地球を回す』前田哲監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/51b939c50275e81e74259f8982a9e071
【インタビュー】『子供はわかってあげない』沖田修一監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b400a897e65fd9aa9bc0c48ebb781800