田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

ノーマン・ジュイソンの映画 その3『月の輝く夜に』

2024-01-24 00:10:29 | 映画いろいろ

『月の輝く夜に』(87)(1988.4.15.日比谷映画)

移民の国アメリカ

 ニューヨークを舞台に、イタリア系アメリカ人の未亡人と、彼女に求愛する2人の兄弟の姿を描いたラブ・コメディ。

 この映画を見始めた時は、この手の話を実にうまく撮るウディ・アレンのことが絶えず頭に浮かんできて、アレンならもっとうまく撮るのでは…という気がしたのだが、映画が進むに連れて、この映画が描いているのは、一見ウディ・アレン風だが、実は似て非なるものだと気付いてきた。

 アレンの映画はとてもユダヤ色が濃いのだが、この映画のベースにあるのはイタリア系アメリカ人の姿であって、描かれる人たちは底抜けに明るくて、家族のつながりが深く、キリスト教の影響が強い。

 つまり、アレンの映画よりもコッポラが描いた『ゴッドファーザー』(72)の方に近いのだ。そして『ゴッドファーザー』がイタリア系アメリカ人の暗の姿を描いていたとすれば、この映画は明の部分を描いたとも言えよう。

 監督のノーマン・ジュイソンは、ニューシネマ時代からの数少ない生き残りの一人であり、過去に『屋根の上のバイオリン弾き』(71)『ジーザス・クライスト・スーパースター』(73)といったミュージカルも撮っているが、この映画はオペラを意識して作っている。改めて、その多才さを知らされた思いがして、健在ぶりがうれしく感じられた。

 それにしても、こうした映画を見るたびに、アメリカが移民の国であり、他民族国家であることを思い知らされる。それ故、さまざまな人種問題が根強く残っているのも仕方がないのかと思う半面、国民には幅広さがあり、それがいい意味で、こうした映画にも反映されているのだろうと思った。

 主演のシェールは、歌手からの転身にしてはいい味を出していたが、最近のティナ・ターナーの女優転向発言も含めて、果たして女優とはそんなに簡単になれる、おいしい仕事なのかという思いがするのは否めない。それとも、一芸に秀でた人はやはりものが違うのだろか。

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ノーマン・ジュイソンの映画 その2『屋根の上のバイオリン弾き』『ローラーボール』『フィスト』『ジャスティス…』

2024-01-23 22:59:02 | 映画いろいろ

『屋根の上のバイオリン弾き』(71)(1981.8.10.月曜ロードショー)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/55af21b2a116eb4edb6ddfa73d51ee38


『ローラーボール』(75)(1979.6.11.月曜ロードショー)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/49c98eca2aaa9f9915a196b1359dab06


『フィスト』(78)(1984.12.29.)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/bd4bcda50d95293e3bf2b5ea0138304e

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/110ae9f8b23979f0c6300eb3974fc736


『ジャスティス…』(79)(1983.7.8.早稲田松竹.併映は『ミッドナイト・クロス』)

 この映画は、シドニー・ルメットの『評決』(82)同様、アメリカの法曹界の暴露的な内容や、裁判漬けになってしまった市民の様子を描いて問題提起を行っているのだが、『評決』と比べると、テーマへの突っ込みの弱さを感じた。

 ジャック・ウォーデン演じる自殺癖のある判事がおかしみを出して、堅苦しくなりがちな話を救っているのだが、正義感にあふれ熱血な弁護士を演じたアル・パチーノが、熱演の割には空回りしている感があった。従って、弁護士が依頼人である悪徳判事の罪を暴いてしまうというラストも、本来ならば痛快に映るはずなのだが、あまり盛り上がらない。

 この映画を監督したノーマン・ジュイソンとルメットの作風の違いもあるのだろうが、『評決』のポール・ニューマン演じる駄目弁護士の正義への目覚めと、この映画のパチーノ演じる弁護士の寝返りとでは、同じ正義というものを扱いながら明らかに異なる。

 ジュイソンは、名作『夜の大捜査線』(67)で、人種問題を見事に捉えて描いていたが、もともと『華麗なる賭け』(68)『屋根の上のバイオリン弾き』(71)といった娯楽作の一級品も作ってしまう人だから、社会派的な映画を撮り続けているルメットと比べるのは少々ピント外れなのかもしれない。

 そう考えれば、この映画も娯楽性に富みながら、適度な問題提起も忘れなかったものとして評価することもできる。

『評決』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/6ba8cad31dd36fe3f241d04e76b181c4

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ノーマン・ジュイソンの映画 その1『シンシナティ・キッド』『アメリカ上陸作戦』『夜の大捜査線』『華麗なる賭け』

2024-01-23 21:25:35 | 映画いろいろ

『シンシナティ・キッド』(65)(1975.8.31.日曜洋画劇場)

 ニューオリンズに住むスタッド・ポーカーの名手シンシナティ・キッド(スティーブ・マックィーン)は、ポーカーの世界に君臨する“ザ・マン”ことランシー・ハワード(エドワード・G・ロビンソン)がニューオリンズにやって来た事を知る。2人はナンバーワンの座を賭けて一大勝負を開始するが…。若きポーカー賭博師の挑戦と挫折を描いた骨太のドラマ。サム・ペキンパーに代わって監督したノーマン・ジュイソンの出世作になった。

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/2484ab1dc21520e1bf2ac3356c9fdf8d


『アメリカ上陸作戦』(66)(1986.12.14.懐かしの洋画劇場

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f26322ab391d0e5ed56de25b31b5699d


『夜の大捜査線』(67)(1974.9.29.日曜洋画劇場)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/943fb7d1fba1090c3a916efa0e80e28f

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/da7aba8c2f6929dce341b10f03c62bca

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/138348e8b5036bd07798705b11d26e21


『華麗なる賭け』(68)(1975.4.21.月曜ロードショー)(1987.2.9.)

 ゲーム感覚で泥棒を繰り返す大富豪(スティーブ・マックィーン)と、美人調査員(フェイ・ダナウェイ)が繰り広げる知恵比べ、そして甘いロマンスが見どころの小粋なアクションコメディ。監督はノーマン・ジュイソン、音楽はミシェル・ルグラン。ノエル・ハリスンが歌った主題歌「風のささやき」も大ヒットした。

 このところ、映画を本気になって見始めた頃に印象に残った映画と再会する機会が多い。この映画もその中の1本だった。そして、昔受けた感動を再び得られず寂しい思いがすることが多い中で、珍しく前回よりも面白く見ることができた。

 それは、この映画は娯楽に徹し切っており、同時代のニューシネマ作品群とは一線を画しているところが大きいのだろう。何より、監督のノーマン・ジュイソン、主演のマックィーンとダナウェイが最も輝いていた時期に撮られた作品として記憶される。

 また、ニューシネマ時代に活躍したアーサー・ペン、ウィリアム・フリードキン、ピーター・ボグダノビッチといった監督たちが、最近あまり活躍していないことを考えると、ノーマン・ジュイソンはよく頑張っているとも思える。

 やれSFXだYAスターだではなく、今を描いた彼らの映画が見たい気もするが、時の流れを思えば、もはや彼らの時代ではないことも否定できない。

 ところで、やはりマックィーンにはハングリーで野性的で行動的な役が似合うと思う。この映画でも好演は見せるものの、大富豪のイメージは合わない気がするのだが、それはこちらの勝手な思い入れであって、映画スターとして成功した実際の彼の姿は、この映画に近いのかもしれない。

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【ドラマウォッチ】「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(第2話)

2024-01-22 08:50:23 | ドラマウォッチ

「西島さんの指揮ぶりがすごく好き」
「チェロの人、浅野忠信さんとCHARAさんの息子さんなのね」

https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1419769

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【ほぼ週刊映画コラム】『ゴールデンカムイ』『僕らの世界が交わるまで』

2024-01-19 20:56:09 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
明治末期の北海道を舞台にした伝奇ロマン『ゴールデンカムイ』
アイゼンバーグのアイロニカルな視点が光る『僕らの世界が交わるまで』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1419277

 

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「午後のロードショー」『夕陽のガンマン』

2024-01-19 07:34:06 | ブラウン管の映画館

『夕陽のガンマン』(65)

「BSシネマ」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a984e1222fd7fdab0ea67086cf846f07

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【インタビュー】『マッチング』内田英治監督&土屋太鳳

2024-01-18 16:26:49 | インタビュー

 『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督が原作・脚本・監督を務め、マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖をオリジナルストーリーで描いたサスペンススリラー『マッチング』が、2月23日から全国公開される。内田監督と、本作で主人公の輪花を演じた土屋太鳳に話を聞いた。

「考察を楽しんでいただければと思います」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1418360


『マッチング』(2023.11.14.オンライン試写)

 ウエディングプランナーとして働く輪花(土屋太鳳)は恋愛に奥手で、親友で同僚の尚美に勧められてマッチングアプリに登録することに。マッチングした相手の吐夢(佐久間大介)と会ってみたものの、現れたのはプロフィールとは全く違う暗い男だった。

 それ以来、吐夢はストーカーと化し、恐怖を感じた輪花は取引先であるマッチングアプリ運営会社のプログラマー・影山(金子ノブアキ)に助けを求める。同じ頃、“アプリ婚”した夫婦を狙った連続殺人事件が起こる。輪花を取り巻く人々の本当の顔が次々と明らかになっていく中、輪花の身にも事件の魔の手が迫る。

 『ミッドナイトスワン』の内田英治が原作・脚本・監督を務め、マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖をオリジナルストーリーで描いたサスペンススリラー。

 輪花と影山が、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(50)を見に行くシーンがあった。気になったので内田監督に聞いたところ、「何かテーマがちょっと似てるなと。だから大女優が錯乱していくところは、ぜひ使いたいなと思った。狂気もそうだけど、いつまでも何かを引きずって生きていくみたいな部分で、虚構と亡霊の世界みたいなのがこの物語に通じるのでいいなと思った。だからあの映画を出すのは最初からの狙いだった」と答えてくれた。

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【インタビュー】『みなに幸あれ』古川琴音、下津優太監督

2024-01-18 09:22:52 | インタビュー

 看護学生の“孫”は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いに行く。久しぶりの再会、家族水入らずの幸せな時間を過ごす。しかし、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には「何か」がいる。そしてある時から、人間の存在自体を揺るがすような根源的な恐怖が孫に迫ってくる…。

 下津優太監督による同名短編を基に、下津監督自ら商業映画初メガホンを取り、長編映画として完成させた『みなに幸あれ』が、1月19日から全国公開される。ホラー映画初挑戦となった孫役の古川琴音と、下津監督に話を聞いた。

「ホラー映画ってこんなに疲れるんだと実感しました」
「分からないことを楽しんでもらえたら」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1418993


『みなに幸あれ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c032dff57e982e354d1d05a24d167739

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『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

2024-01-16 16:56:56 | 新作映画を見てみた

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(2024.1.10.オズワルドシアター)

 米領サモアのサッカー代表チームは、2001年にワールドカップ予選史上最悪となる0対31の大敗を喫して以来、1ゴールも決められずにいた。次の予選が迫る中、型破りな性格のためアメリカを追われた鬼コーチ、トーマス・ロンゲン(マイケル・ファスベンダー)が監督に就任し、チームの立て直しを図るが…。

 「ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦」(14)というドキュメンタリー映画も製作された、奇跡のような実話を基に、『ジョジョ・ラビット』(19)「マイティ・ソー」シリーズのタイカ・ワイティティ監督が映画化。ロンゲンの元妻をエリザベス・モスが演じた。

 ストーリー自体は、弱小アイスホッケーチームを描いた『飛べないアヒル』(92)、ジャマイカのボブスレーチームを描いた『クール・ランニング』(93)など、90年代にウォルト・ディズニー・ピクチャーズが連作した、スポーツを媒介とした、問題児の監督(コーチ)と個性的な選手たちの再生物語をほうふつとさせる。

 とはいえ、この映画の場合は、ワイティティ監督独特の世界観とユーモアが異彩を放つ。中でも、コメディリリーフ的な役割のサッカー協会会長を演じたオスカー・ナイトリーが傑作だった。

 こうした映画は、結果が分かっているスポーツの試合を、いかに面白く見せるかに勝負が掛かっているが、その点でも、回想を巧みに盛り込むなどして、飽きずに見せることに成功していた。ロンゲンが『ベストキッド』のミヤギさんに憧れているのもおかしかった。


『クール・ランニング』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/51d04cf44b39863b70877c84975e2a0c

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『レディ加賀』

2024-01-16 10:37:10 | 新作映画を見てみた

『レディ加賀』(2024.1.11.オンライン試写)

 石川県の加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘・樋口由香(小芝風花)は、小学校の時に見たタップダンスに魅了され、タップダンサーを目指して上京したものの、夢破れ、実家に戻って女将修行をすることに。

 由香が女将修行に苦戦する中、地域を盛り上げるためのプロジェクトが発足。観光プランナーの花澤(森崎ウィン)の発案で、新米女将たちによるタップダンスのイベントを開催することになるが…。

 加賀温泉を活性化するために結成された旅館の女将たちによるプロモーションチーム「レディー・カガ」から着想を得て映画化。監督は雑賀俊郎。新米女将たちを松田るか、中村静香、八木アリサ、奈月セナ、小野木里奈、水島麻理奈、由香の母親で旅館の女将役を檀れいが演じる。主役の小芝はじめ、若女将たちが吹き替えなしの着物姿で披露するタップダンスが見もの。女将や旅館業についてのハウツー的な面白さもある。

 実話を基に、ダンスを絡めて地元を盛り上げるために奮闘する女性たちを描くという点では『フラガール』(06)を思わせるが、先に発生した能登半島地震によって、別の意味を持つ映画になった。

 奇しくも劇中に「加賀温泉は、(2007年の)能登地震、東日本大震災、コロナと3度の危機があったが、それを乗り越えた」というセリフがあったが、この映画のテーマは、再生、応援、チームワークなので、今回の被災者や復興への“応援映画”になり得るのではないかと思う。

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