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ミサイルの代わり
展望フロアでひと悶着あったことなど関係なく、ビルの上(天辺)から下(地上)を見終わった実行者は、ある方向に向かって、できる限り一直線に歩いてた。直線距離で2㎞ばかり進んだところで急に立ち止まると振り返って超高層ビルを仰ぎ見て、ビルにミサイルを命中させたら愉快だろうなどと物騒なことを再び考えているのだろうか、険しい顔つきが一瞬、肯定的な表情になる。
それから最寄り空港とビルを結ぶ公共交通機関の駅に向かって歩く。何のためか。
実際、ビルに向かってミサイルを発射させるなんてことは一国や過激な集団の頂点に立つくらいになって持てる権限がなければ無理だろう。仮に権利があっても行使するとなると幾重のハードルがあるだろうから、ミサイル云々は一個人のレベルでどうこうできる事柄ではないのが普通。だから、ビル建設の計画が正式に発表された頃からミサイル代替案を模索し、建設中の街の賑わいをみながら随分と練り挙げ、今日に合わせて数年準備して来た実行者。手をかざし、ミサイルを思い浮かべたのは初心を忘れていないということなのだろう。
代替案として真っ先に考えられそうなことはミサイルの代わりに飛行機や昨日のロケットのような飛行物体をビルに衝突させる手段だろう。しかし、管制が厳しいご時世に飛行機やロケットの乗っ取りはステップが多過ぎて実行者にしてみれば、どこかの基地や潜水艦に忍び込んで超長距離ミサイルの発射ボタンを押す方が容易かもしれないくらい、難易度が高いことらしい。実際、二つの超大国を十数分で移動したリユースロケットに関わる国際手続きの煩雑さとそれに伴う厳重な経過観察というか双方合意に基づく監視態勢はお祭り気分一色な発着地点とは裏腹に大変シビアに進められた。今回の二超大国熱圏飛行実験はロケットの飛行・発着陸実験というより、国際手続き上、どれくらいの手順を要するのか調べるシミュレーション的要素のが大きかったのではないかと噂されているくらいなのだ。
次に一般ピープルでも手に入るドローンや車を使う方法が考えられる。ビル内に爆発物を持ち込むことは飛行物体の管制の目をすり抜けるに比べれば可能性は低くない。だが、一回で運べる爆発物の量でミサイル級の爆発・衝撃を引き起こすのはさすがに難しいだろう。だからといって回数を増やせば事前に発覚するなどして、実行計画が未遂に終わる確率が高くなることは容易に推測できる。
ならば、ミサイル級の衝撃にこだわることを諦めればいいのだが、実行者の目的達成がビルの倒壊であるから譲れないラインらしい。
まだ、駅には幾らか距離があり公共交通機関のレールはほとんどみえないが自家用車くらいの飛行物が上下するのがときどき見える。パーソナル(個別)リニア車両だ。最寄り空港から超高層ビルを結ぶ公共交通期間の一つとしてバスサイズやタクシーサイズのリニア車両が行き交う。電磁力によりレールを浮上する仕組みを活かし、タクシーサイズのリニア車両は客のチップ次第でバスサイズを飛び越え追い抜かすなんて慣習がここ二、三年で日常茶飯事になっていた。
ivへつづく
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