「バベル島」若竹七海 光文社文庫
若竹七海氏の短編集ですが、この本は怖いです!。
これまで個人短編集に収録されていない作品の中から、
特にホラー的要素の強いものを集めた文庫オリジナル、
ということですので、怖いのもあたりまえ。
この文庫の解説者千街晶之氏によれば、
「怪奇現象や不条理な出来事の怖さを扱ったもの」と、「妄想や狂気といった人間心理の怖さを扱ったもの」がある。
たとえば、巻頭の「のぞき梅」という作品では、
ある人物の恨みにより、梅を食べると必ず死ぬ、
という怖ろしい宿命を背負った一族についての話がありまして・・・。
これなど一つ一つは、アレルギーだとかたまたま何かの病気でとか、
理屈はつくのかもしれませんが、それが立て続けにあったりすると、
人はそこに何かの意味を感じてしまうのです。
これが前者の「不条理なできごと」ですね。
それから後者の「妄想や狂気」では、表題の「バベル島」。
60年前、イギリスの片田舎、ジェイムズ伯爵が幼少の頃
旧約聖書「バベルの塔」を描いたブリューゲルの絵に取り付かれ、
長じた後、一つの島を購入し、そこに絵とまったく同じ塔を作り始めた。
それは60年を経てようやく今完成するところ。
しかし、誰もがその異様なたたずまいになぜか背筋がぞっとするような、いやな感じを受けてしまう。
それはジェイムス伯の生涯をかけた妄執の果てのものだからなのか・・・。
実は、伯爵の真の目的はバベルの塔を作り上げることではなく・・・・。
凡人には理解できない、妄想や狂気。
確かにこれも怖いのです。
表紙の杉田比呂美氏の優しいイラストにだまされるかもしれませんが、怖いストーリーばかりですよ。
ご注意ください。
この手の話ばかり集めた一冊というのは、なかなかナイスな企画であると思いました。
満足度★★★★★