ユージニア (角川文庫 お 48-2) 恩田 陸 角川グループパブリッシング このアイテムの詳細を見る |
この物語は過去に起きた一つの大きな事件のことを、
様々な人たちの視点から語っていく、そういう構成になっています。
まず、その事件とは・・・。
ある名家、青澤家のお祝いの日。
当主の還暦祝いとおばあさまの米寿のお祝いという。
近所のたくさんの人々、子どもたちが集まっていた。
そこに届けられた、お酒とジュース。
乾杯の直後、そこは阿鼻叫喚の地獄と変わる。
それには毒が入れられており、結局子ども6人を含む17人が亡くなった。
犯人は、その酒を届けに来た男と思われていたが、
警察の必死の捜査にもかかわらず、誰とも判明しない。
ところが、2ヶ月ほどしたある日、ある男が遺書を残して自殺。
その遺書には、自分が毒殺犯人であるとの告白がなされていた。
事件はあっさりとそこで終止符が打たれる。
しかし、実行犯はその男だとしても、彼をそのように仕向けた真犯人が別にいるのではないか
・・・そのような疑惑を抱いた人がいた。
10年ほど経て、事件当時小学生で関係者でもある女性満喜子は
長じて大学生となっていた。
彼女は事件の関係者にインタビューして回り、
『忘れられた祝祭』という本にまとめ、話題となる。
この本は、さらにまたそれから20年ほどを経て、
事件当時のことと、満喜子のインタビュー当時のことを
さらにインタビューして回った、その記録、という体裁になっています。
結局この文を書いているのは誰なのか、
それはやっと終盤近くになって明かされるのですが・・・。
真犯人との疑惑を持たれたのは、
ずばり、その青澤家のただ一人の生き残り、緋沙子。
美しく聡明。
名家のお嬢様として誰もが慕い敬う。
しかし盲目の彼女。
彼女が真犯人とすれば一体その動機は・・・?
人の心の不可思議さと奥底に潜む闇を語っています。
一つの事件を多方向からの視点で見て、その核心に迫ろうとするのですが、
最後までその核心には届かない。
もどかしくもあるのですが、
結局人の心というのはそこまでくっきりと像を結ぶものではないのだ、
というのも真実のように思えてきます。
恩田陸さんのエッセイの中で、
「物語のあるシーンが何かの折にふと見えてくることがある」
というようなことが書いてあります。
青い部屋。
さるすべりの白い花。
そこにたたずむ少女。
彼女のなかに浮かんだこのようなシーンが、
この物語を生んだのかなあ・・・と、そのように想像してしまう、私です。
これぞ恩田陸の真骨頂という感じの、不思議でちょっとひんやりした作品でした。
満足度★★★★