神様 (中公文庫)川上 弘美中央公論新社このアイテムの詳細を見る |
川上弘美デビュー作「神様」を含む短編集。
ドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞を受賞しています。
さて、その「神様」。
大変短いのですが、なんだか優しさと不思議に満ちています。
「わたし」が「くま」と散歩に行くというそれだけの話。
メルヘンめいていて、けれども決して子供向けの童話ではないのです。
この「くま」さんは、確かに熊で、
しかし、なぜか人間界に住んでいて、言葉も話す。
しかもやたら丁寧な言葉遣い。
気遣いも相当なもの。
でも、人間界にいるのはやはり奇異なことらしく、
近所の人からはじろじろ見られたりはするけれど、
大騒ぎにはならないことから、
たまにはあることらしい・・・という、不思議な世界観。
こうなると、実はこの「くま」は、
何かの象徴であるとか、
主人公の潜在意識を表しているだとか、
いろいろ勘ぐってみたくもなるのですが、
それにしては、終始あまりにものどかに話が進みます。
別れ際に、「くま」は言うのです。
「熊の神様のお恵みがあなたの上にもふりそそぎますように。」
まるで、冬の日のひだまりのように、ぽかぽかと暖かい何か。
この熊さんの正体は、子供の頃に愛したテディベアなのかもしれません。
そしてこの本のラストの短編「草上の昼食」が、
実はこの「神様」の続編となっていまして、
この「くま」は、故郷に帰ってしまうのです。
懐かしく、切なく「くま」を思い出す「わたし」。
私が思うに、
これは子供の頃にもっていた夢とか幸福感、
自然=世界と一体であった頃の自分、
それが「くま」なのではないかと・・・。
それはもう、決して取り戻すことが出来ない・・・。
いやいや、このような分析は不要なのでした。
この、なんだか暖かくて懐かしくて切ない何かを感じ取ることができれば
それでいいのかもしれませんね。
他にも、梨畑に住む変なイキモノとか、
河童、
壺に住むコスミスミコ、
等々・・・。
不可解なものが日常生活の中に、ごく当たり前のように出てきます。
この不思議世界の甘すぎず、悲しすぎない存在が、なんだか妙に懐かしい。
時々引っ張り出して読みたくなりそうな本です。
満足度★★★★☆