映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

闇の列車、光の旅

2010年09月18日 | 映画(や行)
明日を信じるに足る何かがある



            * * * * * * * *

ホンジュラスの少女サイラが、
父と叔父と共にアメリカ、ニュージャージー州の叔母の元を目指して旅をします。
それは貨物列車の屋根に乗って旅をする不法移民。
ホンジュラスにいても食うや食わず。
そのまま住んでいても何もいいことがありそうにない。
そういった切実な事情ですね。
ほんの少しの荷物とお金を持って・・。
しかしそんな人たちからさらにお金をむしり取ろうとする者がいる。
メキシコの強盗団が列車の屋根へ乗り込んで来たのです。
サイラがそのリーダーに危うく暴行されかけたときに、
助けてくれたのはその強盗団の一人であるカスペル。
彼はあることがあってこのリーダーには失望していて、
もう女の子が傷つくのを見ていられなかったのです。
しかし、カスペルはそのために強盗団から裏切り者として追われる身になってしまう。
身を捨てて助けてくれたカスペルにサイラは心を寄せ、
二人の逃避行が始まります。




なんというか、圧倒的に力を持った作品なのです。
まず、サイラやカスペルの生活環境の厳しさに圧倒されます。
けれども彼らはそういうことに絶望はしていない。
列車の屋根にいても惨めさはなく、明日への希望を皆持っている、
そういうたくましさが基底にある。
でも、そういった人々のたくましさとは裏腹に、
まだ幼い少年までがギャング団に入りたいと思うほどの、
混乱し、希望のない社会が問題ということですね。
このギャング団の規律は半端なものではなくて、規律に背くのは命がけ。
貧しさ故に、強さだけがものをいう闇の集団に入ったけれども、
その中での階級制は外の世界以上に強固。
そこには自分が「自分」でいる余地もない。
しかし、そこから抜けようとすると、待っているのは死の制裁。
抜け忍のカムイとか、
虎の穴を抜けたタイガーマスクとか・・・。
私はそういう系のキャラに弱いのですワ・・・。


物語はひどく理不尽で悲惨ではあるのですが、暗くない。
人々のエネルギッシュな様子が、
それでも明日を信じるに足る何かを予感させてくれます。
第一、この作品の題名にあるように、
これは「光の旅」なのですから。



実のことを言えば、アメリカに住んでも問題はたっぷりあるのですよね。
何しろ不法移民のわけですから、ばれれば強制送還。
そうでなくてもそんなにいい働き口があるとも思えないですし、
言葉の問題も・・・。
ははあ、でも、ここまでの体験があれば、
そんなことは何でもないことに思えちゃいます。

よく映画では、アメリカにたどり着いている移民たちが登場しますが、
そこまでの過程で、こんな様々なドラマがあるとすれば、
そう簡単に追い返してしまうというのもどうなのかと思いますね。

2009年/アメリカ・メキシコ/96分
監督: キャリー・ジョージ・フクナガ
制作総指揮:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ
出演:パウリーナ・ガイタン、エドガー・フロレス、クリスティアン・フェレール、テノック・ウエルタ