犬とともにあった女の半生
* * * * * * * * * *
昭和33年、滋賀県のある町で生まれた柏木イク。
嬰児のころより、いろいろな人に預けられていたイクが、
両親とはじめて同居をするようになったのは、
風呂も便所も蛇口もない家だった――。
理不尽なことで割れたように怒鳴り散らす父親、
娘が犬に激しく咬まれたことを見て奇妙に笑う母親。
それでもイクは、淡々と、生きてゆく。
やがて大学に進学するため上京し、よその家の貸間に住むようになったイクは、
たくさんの家族の事情を、目の当たりにしていく。
そして平成19年。
49歳、親の介護に東京と滋賀を行ったり来たりするなかで、
イクが、しみじみと感じたことは。
* * * * * * * * * *
まるで犬の写真集?と見紛うようなこの表紙は、
ちょっとやり過ぎと思わなくもないのですが、
しかし、騙されて読んでみれば、
騙される価値のある、ステキなストーリーです。
第150回直木賞受賞作。
「恋歌」とともに、ついKindle版をポチッとワンクリック購入してしまいました。
しかしそうするとこのステキな表紙は見られないのであって
(私のKindleはモノクロ)ちょっと悔しい・・・。
さて本作、昭和33年生まれの柏木イク、
5歳~49歳までの半生を綴っています。
その視点を著者は冒頭から述べています。
「パースペクティヴ」に、と。
つまり、遠近法的に、遠景的に・・・。
なるべく本人の心情に密着せず、淡々と遠くから眺めているように・・・。
しかし、実はクローズアップになる部分があるのですね。
それが彼女が好きな犬や時には猫と接する部分。
全く予測のつかないところで突然キレて怒鳴り出す父。
笑うような場面でないのに奇妙に笑う、理解し難い母。
双方共に居て気の休まる相手ではないけれど、
そもそも双方仕事に出ており、1人でいることの多いイク。
そんな彼女が、物言わぬ犬たちに対峙することで
ほんのチョッピリ自分の本音を覗かせるようです。
物語の語り口調はあくまでも淡々としており、
少しはあったらしい恋愛のことは見事にすっとばすし、
父や母の死のこともあっさりしています。
終盤、子供の頃飼っていた"ペー"にそっくりな犬を撫でていると
何やらワクワクした大仰な気分になり
「今日まで、私の人生は恵まれていました」と大きな声で言う。
ここまで読んだ時点で、さほど幸福な人生とも思えぬイクが、
このように語ることを意外に思うのですが、
でも確かに、彼女がそうだと思うならそうなのでしょう。
いや、そうにちがいない。
結局は、私達と変わらない、ごく平凡な女の物語。
でもこうして今、沢山の人に守られながら生きていること自体が、
とても幸せなことに違いないのです。
ドラマチックなことは何もありませんが、とても心に響く作品。
イヌ好きの方なら特に。
そして、私はイクと非常に近い生まれなもので、
各章ごとに書かれてある、当時はやったTV番組や世相など、
非常に懐かしく思いました。
突き放すような語り口、もう少し他の作品も読んでみたくなりました。
「昭和の犬」 姫野カオルコ 幻冬舎
(Kindleにて)
満足度★★★★☆
昭和の犬 | |
姫野カオルコ | |
幻冬舎 |
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昭和33年、滋賀県のある町で生まれた柏木イク。
嬰児のころより、いろいろな人に預けられていたイクが、
両親とはじめて同居をするようになったのは、
風呂も便所も蛇口もない家だった――。
理不尽なことで割れたように怒鳴り散らす父親、
娘が犬に激しく咬まれたことを見て奇妙に笑う母親。
それでもイクは、淡々と、生きてゆく。
やがて大学に進学するため上京し、よその家の貸間に住むようになったイクは、
たくさんの家族の事情を、目の当たりにしていく。
そして平成19年。
49歳、親の介護に東京と滋賀を行ったり来たりするなかで、
イクが、しみじみと感じたことは。
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まるで犬の写真集?と見紛うようなこの表紙は、
ちょっとやり過ぎと思わなくもないのですが、
しかし、騙されて読んでみれば、
騙される価値のある、ステキなストーリーです。
第150回直木賞受賞作。
「恋歌」とともに、ついKindle版をポチッとワンクリック購入してしまいました。
しかしそうするとこのステキな表紙は見られないのであって
(私のKindleはモノクロ)ちょっと悔しい・・・。
さて本作、昭和33年生まれの柏木イク、
5歳~49歳までの半生を綴っています。
その視点を著者は冒頭から述べています。
「パースペクティヴ」に、と。
つまり、遠近法的に、遠景的に・・・。
なるべく本人の心情に密着せず、淡々と遠くから眺めているように・・・。
しかし、実はクローズアップになる部分があるのですね。
それが彼女が好きな犬や時には猫と接する部分。
全く予測のつかないところで突然キレて怒鳴り出す父。
笑うような場面でないのに奇妙に笑う、理解し難い母。
双方共に居て気の休まる相手ではないけれど、
そもそも双方仕事に出ており、1人でいることの多いイク。
そんな彼女が、物言わぬ犬たちに対峙することで
ほんのチョッピリ自分の本音を覗かせるようです。
物語の語り口調はあくまでも淡々としており、
少しはあったらしい恋愛のことは見事にすっとばすし、
父や母の死のこともあっさりしています。
終盤、子供の頃飼っていた"ペー"にそっくりな犬を撫でていると
何やらワクワクした大仰な気分になり
「今日まで、私の人生は恵まれていました」と大きな声で言う。
ここまで読んだ時点で、さほど幸福な人生とも思えぬイクが、
このように語ることを意外に思うのですが、
でも確かに、彼女がそうだと思うならそうなのでしょう。
いや、そうにちがいない。
結局は、私達と変わらない、ごく平凡な女の物語。
でもこうして今、沢山の人に守られながら生きていること自体が、
とても幸せなことに違いないのです。
ドラマチックなことは何もありませんが、とても心に響く作品。
イヌ好きの方なら特に。
そして、私はイクと非常に近い生まれなもので、
各章ごとに書かれてある、当時はやったTV番組や世相など、
非常に懐かしく思いました。
突き放すような語り口、もう少し他の作品も読んでみたくなりました。
「昭和の犬」 姫野カオルコ 幻冬舎
(Kindleにて)
満足度★★★★☆