映画と本の『たんぽぽ館』

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「冬姫」 葉室麟

2014年12月22日 | 本(その他)
それぞれの女たちが守りぬこうとしたもの

冬姫 (集英社文庫)
葉室 麟
集英社


* * * * * * * * * *

織田信長の二女、冬。
その器量の良さ故に、父親に格別に遇され、
周囲の女たちの嫉妬に翻弄される。
戦国の世では、男は戦を行い、熾烈に覇権を争い、
女は武器を持たずに、心の刃を研ぎすまし、苛烈な"女いくさ"を仕掛けあう。
その渦中にあって、冬は父への敬慕の念と、
名将の夫・蒲生氏郷へのひたむきな愛情を胸に、
乱世を生き抜いてゆく。
自ら運命を切り開いた女性の数奇な生涯を辿る歴史長編。


* * * * * * * * * *

織田信長の娘、冬のストーリーです。
信長の息子たちは多少なりとも歴史にも登場しますが、
娘というのは、表舞台には登場しません。
そもそも、娘なんていたのか。妹なら知っているけれど・・・と、まずは思う。
信長の正妻は今テレビドラマ「信長協奏曲」にも出てくるとおり帰蝶さんで、
ドラマではラブラブですが、実のところは側室も何人かいたのですね。
だから、子供はずいぶんたくさんいたのです。
本ストーリーの冬を産んだ母は、彼女を産んでまもなく亡くなったことになっています。
この頃の武将の娘たちの御多分にもれず、
政略結婚で、彼女は蒲生氏郷に嫁ぐのですが、
思いの外それは幸運な結婚であったようです。
例えば信長の妹、お市の方のように夫が信長と敵対関係になったりはしなかった。


しかし、この乱世で女たちもまた熾烈な戦を繰り広げているのです。
それは彼女たちが何を大切にし、守ろうとするのか、
その立場の違いで軋轢が起こったりもするのです。
あくまでも「織田家」のものであろうとするもの。
自分の嫁いだ先の家を守ろうとするもの。
ひたすら我が子を盛り立てようとするもの・・・。
どれも女のあり方で、この"女いくさ"は、なかなか怖いですよ・・・。


そんな中で本作の冬は、美しく聡明、たおやかで魅力的です。
彼女は嫁いだ先で、夫を愛し、蒲生の家を守ろうとします。
葉室麟さんには珍しく若干リアルを離れて"念"の世界へ踏み込む部分も。
それが科学では割り切れない、この時代性を醸しだしてもいます。
女性が主人公という特性にも適しているように思います。
そして何と言っても、終盤で明かされる彼女の出生の秘密。
ここで一気に気持ちが盛り上がります。
なるほど・・・そういうことだったのか!


ところで蒲生家というのは、全然知らなかったのですが、
一時会津の藩主だったのですね。
ただ、嗣子がなくなってしまったために、廃絶となってしまったのだとか。
私、会津藩にはただならぬ思い入れがあるので、これも嬉しいつながりでした。


「冬姫」葉室麟 集英社文庫
満足度★★★★☆