山で開放される、鬱屈した自分
* * * * * * * * * *
雑誌の副編集長をしている「わたし」。
柄に合わない上司と部下の調整役、パートナーや友人との別れ…
日々の出来事に心を擦り減らしていた時、山の魅力に出会った。
四季折々の美しさ、恐ろしさ、人との一期一会。
一人で黙々と足を動かす時間。
山登りは、わたしの心を開いてくれる。
そんなある日、わたしは思いがけない知らせを耳にして…。
日常の困難と向き合う勇気をくれる、山と「わたし」の特別な数日間。
* * * * * * * * * *
北村薫さんの本作は、今までとは少し異なる題材で、
それは「山行き」です。
「九月の五日間」 「二月の三日間」・・・というような章立ては、
それぞれ、彼女の山行きの期間を示しています。
しかも単独行。
40歳、雑誌の副編集長をしている「わたし」は
以前から登山をしていたわけではありません。
でも、仕事上のストレスや、別れた恋人とのこと、親友の死・・・
多くの鬱屈を抱えている時に、職場の友人から登山に誘われ、
登ってみれば心が開放される気がします。
それ以来山の虜になった「わたし」は、
忙しい中なんとか休暇をとって、時折山に出かける。
それでようやく心のバランスをとっているようなのです。
とは言え、まだ初心者に毛の生えた程度。
無謀にも槍ヶ岳に挑戦したりもするのですが、
足はガクガク、ヨレヨレ、ライトを持ち忘れたり、道に迷いかけたりと、
かなり危ない目にも遭います。
それでも時が経つとまた、山に向かいたくなってしまう。
そんな山の魅力も十分に感じさせられる一作です。
でも、これは登山の入門書でも山の魅力を語る本でもなく、
読み進んでいくと、以前別れた恋人とのことに、
心の整理がついていくという流れが根底の方にあるのです。
その昔の彼と、思いがけない再開をした「わたし」が、
彼とどのような会話を交わしたのか。
…その結末をちょっぴりあと引かせせているのが心憎い。
実際に語りかけたのはほんの一言。
けれどもその一言は、
彼女が、もう以前のことにはこだわっていなくて
彼の今の境遇を祝福しているようにも感じられる。
なんとも絶妙な一言なのでした。
女一人で生きていく、そんな潔さと山の単独行が重なりあってきます。
ステキな一冊でした。
けれど、読めば読むほど、やっぱり私には山は無理・・・と思えてきてしまいましたが。
さて、ということで、これまで聞いたことはなかったけれども、
著者も登山の趣味がおありだったのだなあ・・・と、思ったわけですが、
巻末の解説にネタばらしがありました。
著者は、登山経験のある編集者に取材したり、資料やDVDを参考にしただけで、
実際には山には登っていないそうです。
だから、これを読んだ初心者の人が、
自分にも簡単に行けると思われると困る、一人では行かないほうが良い、
と書いてありました!!
それにしてもさすが作家。
まるで自分が体験したかのように、いきいきと山の描写がされているのには驚かされます。
凡人には、実際に山に行ってさえも、こんな風には書けないですよね・・・。
「八月の六日間」 北村薫 角川文庫
満足度★★★★☆
八月の六日間 (角川文庫) | |
北村 薫 | |
KADOKAWA/角川書店 |
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雑誌の副編集長をしている「わたし」。
柄に合わない上司と部下の調整役、パートナーや友人との別れ…
日々の出来事に心を擦り減らしていた時、山の魅力に出会った。
四季折々の美しさ、恐ろしさ、人との一期一会。
一人で黙々と足を動かす時間。
山登りは、わたしの心を開いてくれる。
そんなある日、わたしは思いがけない知らせを耳にして…。
日常の困難と向き合う勇気をくれる、山と「わたし」の特別な数日間。
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北村薫さんの本作は、今までとは少し異なる題材で、
それは「山行き」です。
「九月の五日間」 「二月の三日間」・・・というような章立ては、
それぞれ、彼女の山行きの期間を示しています。
しかも単独行。
40歳、雑誌の副編集長をしている「わたし」は
以前から登山をしていたわけではありません。
でも、仕事上のストレスや、別れた恋人とのこと、親友の死・・・
多くの鬱屈を抱えている時に、職場の友人から登山に誘われ、
登ってみれば心が開放される気がします。
それ以来山の虜になった「わたし」は、
忙しい中なんとか休暇をとって、時折山に出かける。
それでようやく心のバランスをとっているようなのです。
とは言え、まだ初心者に毛の生えた程度。
無謀にも槍ヶ岳に挑戦したりもするのですが、
足はガクガク、ヨレヨレ、ライトを持ち忘れたり、道に迷いかけたりと、
かなり危ない目にも遭います。
それでも時が経つとまた、山に向かいたくなってしまう。
そんな山の魅力も十分に感じさせられる一作です。
でも、これは登山の入門書でも山の魅力を語る本でもなく、
読み進んでいくと、以前別れた恋人とのことに、
心の整理がついていくという流れが根底の方にあるのです。
その昔の彼と、思いがけない再開をした「わたし」が、
彼とどのような会話を交わしたのか。
…その結末をちょっぴりあと引かせせているのが心憎い。
実際に語りかけたのはほんの一言。
けれどもその一言は、
彼女が、もう以前のことにはこだわっていなくて
彼の今の境遇を祝福しているようにも感じられる。
なんとも絶妙な一言なのでした。
女一人で生きていく、そんな潔さと山の単独行が重なりあってきます。
ステキな一冊でした。
けれど、読めば読むほど、やっぱり私には山は無理・・・と思えてきてしまいましたが。
さて、ということで、これまで聞いたことはなかったけれども、
著者も登山の趣味がおありだったのだなあ・・・と、思ったわけですが、
巻末の解説にネタばらしがありました。
著者は、登山経験のある編集者に取材したり、資料やDVDを参考にしただけで、
実際には山には登っていないそうです。
だから、これを読んだ初心者の人が、
自分にも簡単に行けると思われると困る、一人では行かないほうが良い、
と書いてありました!!
それにしてもさすが作家。
まるで自分が体験したかのように、いきいきと山の描写がされているのには驚かされます。
凡人には、実際に山に行ってさえも、こんな風には書けないですよね・・・。
「八月の六日間」 北村薫 角川文庫
満足度★★★★☆