網に絡め取られて・・・
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ネットいじめを苦に女子中学生が自殺。
姉のアイはハイテク専門の探偵アニエの力を借りて、妹の死の真相に迫る―。
『13・67』の著者がいま現在の香港を描き切った傑作ミステリー。
著しい貧困の格差、痴漢冤罪、ダークウェブ、そして復讐と贖罪。
高度情報化社会を生きる現代人の善と悪を問う。
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著者は香港在住の方。
実は読みにくいのではないかと、若干敬遠していたところでもあるのですが、
いざ読み始めるとそんなことは少しもありませんでした。
むしろカタカナ名前がちっとも覚えられない欧米の本よりも読みやすい。
さて本作、ネットに誹謗中傷をかき立てられた女子中学生が、
それを苦に自殺してしまいます。
その姉であるアイが、妹を責め立てる書き込みをした人物を突き止めるよう、
ハイテク専門の探偵アニエに依頼。
ちょっと変人っぽいタカビーの探偵アニエと、
妹の復讐に気持ちのはやるアイの、捜査が始まります・・・。
網内人の「網」は文字通りネットのこと。
インターネット内での出来事であり、
そしてまたオフラインにおいての入り組んだ人間関係も指しているわけです。
私には、標的を絡め取るための網のようでもあると思いました。
まずは、この探偵アニエの人物像が魅力的。
おそるおそるアイが訪ねた先は今にも崩れそうなぼろのビルで、
アニエの事務所(居所?)はゴミが散乱し、本人もいかにもだらしないスタイル。
でもヤケに態度がでかくて、
調査は自分が気に入った案件でなければ引き受けないという。
必死で頼み込むアイにアニエが示した調査報酬額は、なんとアイの預金残額とピッタリ同じ。
すなわち全財産を投げ出す覚悟がなければ依頼は引き受けない。
そして、わかるはずのない個人情報、
アイの預金残額をいとも簡単に調べ上げてしまうという、
その手腕が浮かび上がるところでもあります。
そんなわけで調査が始まり、
徐々にSNS掲示板に攻撃的な書き込みをした本人が割り出されて行きます。
このあたりの下りは、まあ通常のミステリの範囲内。
ところが本作がすごいのはその先なんですね。
今度はその犯人への復讐が始まります。
アイの妹がネットの書き込みによって孤立し、
恐怖に駆られ、死へと踏み出してしまったその感情を、
犯人もまた同じく感じることになる・・・。
使いようによっては人をも殺す武器となってしまうSNSの底知れない力に、
恐れおののいてしまいます。
そこまででもう十分に心震わせられたところへ、
さらなる仕掛けが用意されていまして・・・。
これぞ、本格ミステリという感じの、
著者から読者へ仕掛けられたミスリードが明かされるのです。
うわー。
何度も揺さぶりをかけてきますね。
とにかく面白くて、夢中になってしまう本なのでした。
今の香港の様子がうかがえるところも、興味深いです。
順不同となってしまいますが、この著者の前作、「13・67」もきっと読みます!
<図書館蔵書にて>
「網内人」陳浩基 文藝春秋
満足度★★★★★