恐ろしいのは医療と権力の結びつき
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伝説の病・黒狼熱大流行の危機が去った東乎瑠帝国では、
次の皇帝の座を巡る争いが勃発。
そんな中、オタワルの天才医術師ホッサルは、
祭司医の真那に誘われて恋人のミラルと清心教医術発祥の地・安房那領を訪れていた。
そこで清心教医術の驚くべき歴史を知るが、
同じころ安房那領で皇帝候補のひとりの暗殺未遂事件が起こる。
様々な思惑にからめとられ、ホッサルは次期皇帝争いに巻き込まれていく。
『鹿の王』、その先の物語!
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「鹿の王」の続編。
文庫化を待っていました!
オタワルの医術師ホッサルとその恋人ミラルが中心となります。
私のお気に入り、マコウカンが登場するのもウレシイ。
ホッサルらが東乎瑠帝国の清心教医術発祥の地に招かれます。
調度その頃、東乎瑠では、次期皇帝の座を巡って不穏な動きがあります。
そして、この地でも、そのことに関係すると思われる暗殺未遂事件が・・・。
ここでは食中毒菌がテーマとなります。
ウイルスの話じゃなくてよかった・・・。
ウイルスだと、今ちょっと、つらくて読めません。
食中毒菌というと、何だか軽そうに思えるかもしれませんが、
本作に登場するのはおそらく、ボツリヌス菌がモデルと思われます。
生命に関わる、恐ろしいものです。
言ってみればホッサルは私たちが今体験している「現代医療」の体現者なのです。
徹底して「科学」に基づく治療をしようという。
対して清心教医術は「漢方」。
古来の伝統と経験に基づくもの。
でもこれが古くさくてダメなものというわけではないのですね。
双方の知から生まれる、新しいものもありそうです。
ただしここでは清心教は、動物の血を利用して作った血清などは、
体を「穢す」としてタブーなのです。
こうした「権威」めいた考え方が時にはネックになります。
医療と権力が結びついたとき、実際の患者の安全や生命無視という皮肉な方向に事が流はじめる。
いつの世も、そして今も、そういうことを繰り返しているようにも思われます。
その国の政治の在りようと、コロナ感染の在りようも無関係ではないと知った今となっては、重いですね。
この文庫版のあとがきとして、著者の今年3月、コロナへの思いが綴られているのも、注目。
「私たちの武器は知識と想像力と忍耐力、そして、他者を助けたいと思う気持ち」
という著者の言葉に従い、淡々とできることを続けるのみですね。
「鹿の王 水底の橋」上橋菜穂子 角川文庫
満足度★★★★☆
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