映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「おやすみラフマニノフ」 中山七里

2012年08月08日 | 本(ミステリ)
「音楽は職業じゃない。生き方だ。」

おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社


                            * * * * * * * * * 

「さよならドビュッシー」でお馴染みの中山七里作品です。
題名でもわかる通り、音楽ミステリとなっていますが、
この音楽性が半端ではありません。
ミステリとしても楽しめますが、音楽ものとしてもより一層楽しめる一作です。


音大でヴァイオリンを学んでいる晶。
物心つくかつかないかという頃から母とともに練習してきたヴァイオリン。
しかし、プロになれるのはほんの一握りだし、
音楽関係の職に就こうにも、それも非常に難しい。
今はなき母との夢を果たしたくはあるけれど、
自分の力を信じ切れないし、将来も見えない・・・、そんなこの頃なのです。
それでも彼は、プロへの切符をつかむチャンスとなるコンサートのオーディションにパスし、
コンマスの座を得て、練習に励んでいました。
そんなある日、大学所有の時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれたのです。
更には、何者かが学長専用のピアノを破壊。
これは誰かがこの秋のコンサートを阻止しようとしているのでは?
との噂が囁かれるのですが・・・。


謎を解き明かすのは、この音大の講師、岬。
彼自身天才的ピアニストですがなんとも優しく物腰柔らか。
素敵ですよねー。


豪雨で洪水の危険が迫り、とある学校の体育館に避難し、
居合わせたこの二人、晶と岬。
不安にかられパニック状態寸前のこの体育館で、二人は演奏をはじめるのです。
「チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲 ニ長調」。
岬のピアノの後押しもあり、これまでに体験したことのない高揚感で、夢中になり弾き続ける晶。
それはこれまでろくにクラシック音楽などに触れたこともない町の人々を感動の渦に巻き込むのでした・・・。
このシーンが何とも迫力に満ちていて圧巻です。
実のところ、クラシックに詳しくない私にはよくわからないことがほとんどですが、
その凄さは伝わります。
もちろん、ラストのラフマニノフのピアノ協奏曲もまた然り。
巻末の解説に、この本にはCDを付録につけるべきとありますが、全く同感。
そのCDを聞きながら読む、これぞ正しい読み方でありましょう。

「音楽は職業じゃない。生き方だ。」
晶の出した結論が胸にしみます。

読み応えたっぷりの一冊でした。
「さよならドビュッシー」よりも、私はこちらのほうが気に入りました。

「おやすみラフマニノフ」中山七里 宝島社文庫
満足度★★★★☆


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