映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「伝える力」 池上 彰 

2010年09月11日 | 本(解説)
さすがにわかりやすく伝わります!

            * * * * * * * *

今、TV番組でもひっぱりだこの池上彰氏。
本もベストセラーとなっていますが、
確かに氏の解説はとてもわかりやすいので、
こういう本を書いても説得力がありますね。
時々やたら難解な言葉を用いて「解説」などという人がいますが、
私はもともと「論説文」が苦手で、そういうのはそもそも読む気がおこらない。
がんばって読んでもちっとも頭の中に入っていきません。
まあ、ブログの文章も同じことだろうと思います。
こちらの思いを相手に伝えるためのテクニック。
ぜひ身につけたいものです。


まず相手を惹きつけるのには・・・
"つかみ"が大切。
映画のオープニングなどが参考になりますね。
文中では007の例などを挙げています。
まず主人公の危機一髪のシーンから始まって、状況説明に入る、
というようなテクニック。
始めから国際情勢など説明していたら、観客はもう嫌になってしまう。
「あれ?」「なに?」と思い、続きが是非読みたくなるような、
そういう"つかみ"を心がける。
会議では一人一人の目を見ましょう・・・と。
ずっと原稿を見ながら・・じゃダメってことですね。


文章力をアップする
「もう一人の自分」を育てること、と言います。
冷静な一歩引いた自分になって、文章を読み返してみよう・・・。
パソコンの画面上ではなく、プリントアウトして読み返すことが必要・・・といいますが、
少なくとも私はブログの文章はそこまではしていないなあ・・・。
皆さんいかがですか?
あ、「ブログを書く」というのも、
文章をアップする一つの手となっていました!


わかりやすく伝える
カタカナ語を多用しない。
~性、~的という言葉の多様もタブー。
よくわからないことのごまかしになってしまう。
・・・これは耳が痛いですね。
難しいことを簡単な言葉で説明する。
これが極意。
そのためには自分自身がよ~く分かっていなければなりません。
私は映画のストーリー紹介は、極力自分の言葉で書こうと努めております。
これも、自分がよくわかっていなければできないのです。
他のサイトの引き写しは簡単でいいのだけれど、
時としてあまりにも味気ない。
でもあんまり一生懸命書くと、ネタばらしのおしかりを受ける・・・。
難しいところです。


この言葉・表現は使わない
ここのところは結構耳が痛いです。
■順接の「が」・・・逆説ならばもちろん使ってかまわないけれども、
順接の「が」はだめ。
つまり 今日はよいお天気ですが、お元気でしょうか。
彼は仕事ができるが、スポーツもできる。
このような順接や曖昧の「が」があると、
文章が非常にわかりにくくなるので注意。
■「ところで」「さて」・・・これも使いすぎてはいけない、とのことですが、
私、結構使います。
これは論理の積み重ねの腰を折ってしまうとのこと。
実際に話題を変えるのならばいいけれど、
あまり簡単に使用するなということですね。
■「いずれにしても」・・・これもダメです。
これはその直前まで書いたことの論理に関係なく話を無理にまとめようとする行為。
なるほど・・・そういえば苦し紛れの時に、この言葉を使ってしまうような気がします。
気をつけねば・・・。


以上はあくまでも私が、強く必要を感じた部分です。
たぶん、読む人によって大事と思う部分は異なるのではないでしょうか。
さすがに非常にわかりわかりやすく書いてありますので、
読んでみるといいと思います。

以前のTV番組で、池上氏が子供たちに「戦争」の授業を行っているシーンがありました。
元々池上氏はNHKの「週刊こどもニュース」という番組で、
子供を対象にニュースを伝える仕事を続けていて、
その結果、わかりやすく伝える力を磨いたのだそうです。
今日も原子爆弾のことから核廃止の話まで、
非常にわかりやすく興味を持って聞くことができる話でした。
また、ハズカシイですが小学生を対象とした話・・・といいながら
私が知らない話もたっぷりありまして、
すごく勉強になってしまったのです。
今後も池上氏には是非お世話になりたい!と思いました。

伝える力 (PHPビジネス新書)
池上 彰
PHP研究所



満足度★★★★☆


理由

2010年09月10日 | 映画(ら行)
本当の犯行の理由とは

            * * * * * * * *

この作品はTSUTAYAの
「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」という企画の中から選んだものです。
なるほど・・・、引き込まれてしまいましたよ。

理由 [DVD]
ショーン・コネリー
ワーナー・ホーム・ビデオ



ショーン・コネリー演じるのは、法学部教授のポール。
彼は元弁護士で死刑反対論者。
そんな彼の元へ、一人の黒人老婦人が手紙を持って訪ねてくる。
それは獄中の彼女の孫が書いたもので、
少女惨殺殺人の罪で死刑が決まっているが、実は無実であるとあります。
彼の妻の勧めもあり、この事件を調べるために彼はフロリダへ。
知的で冷静なこの青年の無実の訴えを信じ、
事件の再調査や聞き込みをするポール。
しかし地元ではすでに片が付いた事件。
青年の犯罪を疑うものはなく、ポールは人々の反感を得るばかり。
特に、暴力で自白を引き出したと思われる担当の刑事(ローレンス・フィッシュバーン)の
横やりは、目に余るほど。


人道主義に基づき明晰な判断力を持つこの教授、
何とも信頼がもてそうで、ステキです。
ははあ・・・、今さらですが、ショーン・コネリーの魅力、すごいですね。
それで苦労の末、とにかく問題は解決。
一件落着・・・と、思われたのですが・・・。
甘い、甘い。
実はこの物語のすごさはそこからなんですよ。
全く予想外の展開が待っています。
なんと言いますか、先入観とは恐ろしいものなんですね。
そして、人の心の奥底は・・・わからないものなんです。
怖いです。
ポールの娘が、殺された少女とちょうど同じくらいの年、
というあたりで、いや~な予感はしていたのですけれど。
結局、犯人の本当の犯行の理由は何だったのか。
・・・恐ろしいですよ。
フロリダの池にはワニがいるので、これも要注意!!
(事件とは直接関係はありません・・・)


それから、別に登場する殺人鬼の死刑囚がなんとエド・ハリスで、
これがまた鬼気迫る演技。
とても普段のエド・ハリスと同一人物とは思えない。
いやー、俳優の底力を見た思いです。

このTSUTAYAの企画、なかなかいいですね。
そうでもなければ、この作品のことも知らないままでした。
この後も、ピックアップしてみようと思います。

1995/アメリカ/102分
制作総指揮:ショーン・コネリー
制作・監督:アーネ・グリムシャー、
出演:ショーン・コネリー、ローレンス・フィッシュバーン、ケイト・キャプショー、
   エド・ハリス

「つきのふね」 森 絵都

2010年09月08日 | 本(その他)
誰もが本当は“とうとい”

つきのふね (角川文庫)
森 絵都
角川書店


           * * * * * * * *
 
全人類を救うための宇宙船。
その設計図を一生懸命に書いている青年がいます。
そこへ、ふらりと時折顔を出す中学生さくら。
彼女はコンビニで万引きしたところを店長に見つかり、
捕まってくどくど嫌みを言われていたのですが、
店員をしていたその青年智に手を借りて逃げ出すことができました。
物静かでやさしいその青年は、
不意に宇宙船の設計図を書くことに熱中し、
さくらのことなど見向きもしなくなってしまいます。
どうも、精神を病んでいるようで、時折あちらの世界に行ってしまう。
親友の梨利(りり)とうまくいかなくなり、孤立してしまっていたさくらは、
その青年の家のいごこちのよさに、頻繁に智の家へ通うようになります。
以前から梨利とさくらにいつも付いて歩いていたのは同じ年の勝田。
この少年はさくらと梨利との仲直りを切望し、
またいつしか智の家にも、入り浸る。


この物語は登場人物が皆、自分は一人だと思っています。
時代設定が1998年。
翌年はノストラダムスが人類滅亡を予言した年。
そうでなくても将来のことなど考えつかない年頃にして、人類滅亡といわれれば・・・。
自分の将来を堅実に明るく考えることなんてできないでしょう。
さくらにしても、梨利にしても、また勝田くんも、
押しつぶされそうな不安の中で、
おしつぶされないように必死に自分の殻を守っているように思えます。
心を病む青年も、根っこのところでは同じなのだと、彼らには分かっている。
ところが、次第に智青年のあちらへ行ってしまう頻度、時間が大きくなってきてしまいます。
また、このまま放っておくと自殺に向かいそうな徴候も。
どうすれば智をこちらの世界へ呼び戻せるのか。
さくらは梨利と仲直りできるのか。
終盤怒濤のようにスペクタクルな展開になっていきますが、
実に迫力があって読ませられます。


智青年は心優しすぎるあまりに、
うまく世の中に順応できなくなってしまったきらいがありますね。
でもこんな風に、きちんと正面から彼を見て、
理解しよう、手をさしのべようとする存在があるのがいい。
彼が小学生の頃に書いたある手紙の一文が心を打ちます。

ぼくわちいさいけどとうといですか。
ぼくわとうといものですか?


何だか涙があふれてしまいます。
そうですよね。
誰もがほんとうは"とうとい"のです。
その"とうとい"ものを、まず自分自身が自覚し守らなければならないし、
そうしたら人の"とうとい"ものも大事にできる。
私たちが生きていく根源のことを言っているように思うのです。
大切に持っていたい本です。

満足度★★★★☆

トイレット

2010年09月07日 | 映画(た行)
「静」が作り出す緊張感とユーモア・・・そのままの自分でつながり合う



            * * * * * * * *

「かもめ食堂」、「めがね」の荻上直子監督作品。
日本作品なのにすべて英語で字幕付きという異色作ですが、
内容は間違いなく荻上作品です。
英語になるとますます感じますが、
ハリウッド作品が「動」とすれば荻上作品は「静」ですね。
こういう作品をあちらの方がどう見るのか、きいてみたい気がします。

この作品、すべてカナダのトロントで撮影されたそうですが、物語設定はアメリカです。
母親が亡くなったばかりの兄弟、妹。
長男モーリーは、引きこもりのピアニスト。
次男レイは、ロボット型プラモデルおたく。
末の妹女子大生のリサは勝ち気でいばりんぼ。
そして、ここになんともう一人、異質な日本人のバーチャン。
それがもたいまさこです。
このバーチャン、3人のお母さんが亡くなる寸前に日本から呼び寄せて
一緒に住み始めたのですが、英語が全く話せない。
お母さんが亡くなってからは、ほとんど自室にこもりっきりでろくに食事もしない。
気にはなるけれど、言葉も通じず、どうしていいかわからない3人。
もたいまさこさん、ほんとに一言も話さないんですよ。
最後の大事な場面の一言を除いては。
3人が話しかけても無言で、かすかな動きがあるくらい。
この静けさと間合いに妙な緊張感があります。
これぞ日本の「静」の世界?


こんな得体の知れない人と一緒に暮らすのはイヤだと思ってしまうレイ。
彼は基本的に他人と深く関わらない主義なのです。
しかし、バーチャンが長いトイレの後、
いつも深いため息をつくのが不思議で、気になってしようがない。

この作品の題名「トイレット」とは、
すなわち異文化コミュニケーションを表しているのでした。
異文化といえば結局、この家にいる4人が皆全く別々の方を向いていて、
初めのうちはまとまりも何もない。
まさに異文化の局地。
けれども、おのおの別に変わらなくてもいい。
そのままで認め合いながら、お互いがつながっていくのです。
そしてそのことがまた自分への化学変化となって返ってくる。



随所にちりばめられた静かなユーモアと、
さらりとした中にある実はほんのり温かい友愛。
これ見よがしでないところが、やはり荻上流。
モーリーが長い引きこもりを破って、わざわざ買ってきた布で作りたかったものとは?
これも見物ですよ。
そして、この作品中のギョーザがまた、
例によってすごーくおいしそうで、食べたくなってしまいます。
家族みんなで具を包んで焼くんですが、
我が家でもそういえば、子供たちが小さい頃はそんなこともしていたなあ、
と思い出しました。






この作品、『ベスト・キッド』の後に続けてみたのです。
これは、つなげてみるとあまりにも地味かも知れないと思ったのですが、
いえいえ。
「面白さ」にもいろいろとあるものですね。
どちらもそれぞれに堪能し、大満足できた一日でした。

2010年/日本/109分
監督・脚本:荻上直子
出演:アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー、デイヴィッド・レンドル、サチ・パーカー、もたいまさこ

「小さいおうち」中島京子

2010年09月06日 | 本(その他)
タキさんの懐かしく大切な赤い屋根の家

小さいおうち
中島 京子
文藝春秋



            * * * * * * * *

話題の第143回直木賞受賞作です。
語り手、タキさんは小学校を出てすぐに女中奉公に出ます。
現在80を過ぎているタキさんが、
ある家で女中として過ごした頃のことを心覚えにノートに書き付けているのです。
女中奉公などというと「おしん」を思い出して、辛いことばかり・・・?
と思ってしまいますが、
この話はそんな辛気くさいものではありません。
昭和10年前後。
平井家の若奥様時子さん。
うんと年上の旦那様。
時子さんの連れ子の恭一坊ちゃん。
そういう3人家族が住んでいる、赤い屋根の二階建ての小さなおうち。
当時としては、とてもモダンだったでしょうね。
くるくるとよく働くタキさんは大変重宝がられて、家族と共にいきいきと暮らします。
この家はタキさんが終の棲家と思い定めたくらいに、懐かしく大好きだった家。
特にこの時子奥様は、キレイではかなげで、愛くるしく、
誰もが一目で好きになってしまいそうな人。
近々東京オリンピックが開催され、万国博覧会が開かれる予定。
旦那様の玩具会社も景気がよくて、
この小さなおうちの中ばかりか、社会全体がうきうきとしている。
そんな様子がとてもよく伝わります。

でも、これは史実が示すとおり、満州事変、日米開戦・・・
次第に世の中が不安定になっていきますね。
けれども、タキさんの実感としては、その頃も楽しかった、と言うのです。

学生であるタキさんの甥の次男、健史が時折タキさんの様子を見に来るのですが、
書きかけのタキさんのノートを見て、こんな風に言います。

「おばあちゃんは間違っている、
昭和10年がそんなにうきうきしているわけがない、
昭和10年には美濃部達吉が「天皇機関説問題」で弾圧されて、
その次の年は青年将校が軍事クーデターをおこす「2・26事件」じゃないか、
いやんなっちゃうね、ぼけちゃったんじゃないの・・・」


私にとっても書物などで読んだ昭和10年はそんな時代。
けれども、当時生きていた人々は、
もちろんそういう新聞記事などを見て眉をひそめ、
不安な気持ちにはなったでしょうけれど、
でも、毎日の生活の方が大事なわけです。
それは今私たちが中東の戦争やテロ事件のニュースを見て一時胸を痛めながらも、
やはり大きな関心は日々の暮らしや仕事のことであるのと同じ。
私もうんと若いいころには、
「明らかに間違っていると皆知っていたはずなのに、
どうして戦争が始まってしまったのだろう」
と、半ばその頃の大人たちを責めるような気持ちになったことすらありますが、
今はさすがにそうは思いません。
一人一人の思いや願いとは裏腹に、
世の中が進んで行ってしまうというのは、あるんですね。
だからこの辺はとてもリアルな当時の庶民の心情が描かれていると思うのです。
真珠湾攻撃、日米開戦が大喝采であったり・・・。


ところが、そういう庶民生活と戦争がテーマなのかと思えばそうではなく、
この家に大きな秘密がふくれあがってくるのです。
時子奥様と旦那様の部下の板倉さんの・・・。
一緒に暮らしているタキさんには解ってしまうのです。
そこにはこのような非常時によくないこと・・・と言うだけでなく、
タキさんの微妙な気持ちの動きも見え隠れします。
ここには直接的な「不倫」とか「浮気」という言葉は出てきませんし、
性的な描写もありません。
このひめやかな秘密、
ずっとタキさんが胸の奥底にしまってきた秘密。
今さら思い出を語るとは言っても、やはり直接的に書いてしまうことはできない。
そういうためらいがよく出ていますね。

そうこうするうちに、日本の戦局はいよいよ苦しく、
板倉さんは出兵、東京には空襲が・・・。
どうしてタキさんがそんなにあの赤い屋根の家を懐かしく大切に思うのか、
次第にそれが胸に迫ってきます。
そして、その甘やかな記憶と共に、
忘れてしまいたいくらいに苦い思いもまた
同時に抱えてきたのだということが解ってきます。

なんて深い物語なのでしょう。
あまりにも懐かしく切ないのです。
でも、最後に語られるエピソードでは、
切ないながらもまた深い充足感を得ました。
人々のどんな喜びもつらさも、時は洗い流してしまうのでしょうね。
でも、私たちは時折、時の彼方に消えつつあるそれらの人々の思いを呼び起こしてみる。

さすが直木賞。
納得の力作でした。
これは本当におすすめです。
星もおまけに一つ。

満足度★★★★★★

スペースカウボーイ

2010年09月05日 | クリント・イーストウッド
老体にむち打って、宇宙を駆るカウボーイたち



            * * * * * * * *

期せずして、これは先日見た「ライトスタッフ」の続きみたいな話になりましたね。
そうなんです。
この作品は公開時に見たんですけれどね。
考えてみたら、イーストウッドのSFものって、今までほとんどないですよね。
そういえば・・・。たいていは刑事とかで・・・。
宇宙服を着たイーストウッドなんて、見たのは初めてだねえ。
でも、何だかSFを観た、と言う気が全然しないね。
そうだね。
ストーリーは宇宙なんだけど、
内容は不屈の精神&反骨精神で命をかけるタフな男の物語・・・で、
いつものイーストウッド節だね。

冒頭、1958年。
アメリカ空軍のテストパイロット、フランク・コービン(クリント・イーストウッド)と
彼の仲間たち、“チーム・ダイダロス”は
当時のアメリカの“マーキュリー計画”で、
有人宇宙飛行のパイロットに選ばれるものと、期待していたんだ。
このあたりが、まさに、「ライトスタッフ」なんだね。
うん。しかし、その映画中にもあったように、初のパイロットは、なんとチンパンジーだったんだ。
すっかりいじけてやる気を失った彼らは、それぞれ道を分かつことになる。
フランクは、エンジニアとして、人工衛星のシステム開発に取り組んだわけ。


さて、そして現代。
ロシアのある人工衛星がこのままでは墜落、ということがわかる。
別に落ちても空中で燃え尽きてしまうだけ、特に問題はないのでは・・・?
・・・と、思うんだけどね、
何故かロシアの大使は大事な記念の衛星だから、何とか修理できないか、なんていう。
それが何故か奇々怪々のことに、当時ソ連で作ったその衛星のシステムが、
アメリカの当時の衛星スカイラブとシステムが同じだという・・・。
ひえ~、何らかのスパイ活動があったっていうこと・・・?
そうなんだよねー。それだけでも大問題じゃん。
まあ、それはともかく、そのスカイラブのシステムを作ったのがフランクだったのです。
もう、その回路はレトロすぎて、今では誰もわからない。
そこでNASAに呼び出されたフランク。
しかし、彼は昔夢を打ち砕かれたことを未だに根に持っている。
そこで、自分たちの“チーム・ダイダロス”で、宇宙に行って
直接自分たちで直すと強情を張る。
渋々の承諾を得て、4人のご老体たちがスペースシャトルに乗り込み、
宇宙飛行を目指すべく訓練が始まる。

え~と、そのご老人たちって、70歳くらいにはなってるよね・・・。
「アルマゲドン」でも、全くのドシロウトたちが促成で宇宙飛行の訓練をするけれども、
これはさらに過激だなあ・・・。
さてさて、とにもかくにも宇宙に飛び立った彼らが、そのロシアの衛星にたどり着くわけだ。
すると、その衛星にはとんでもないものが搭載されていた!!
ははあ・・・、なんか想像つきますけれど。
そうね。というわけで、これがにわかに超危険で猶予ならないミッションとなるのです。
宇宙船とイーストウッド、滅多に見られない光景ですよ~。
お定まりどおり、犠牲者も出るんですけどね・・・。

高齢化社会。年を取ったって若い者なんかに負けてたまるか、という。
そういうイーストウッド監督の意地が光ります。
宇宙に乗り出すけれど、魂はレトロなカウボーイ。
ちょっとしゃれた題名ですよね。
トミー・リー・ジョーンズも宇宙服を着込んで、これぞほんとに宇宙人だね。

スペースカウボーイ 特別編 [DVD]
クリント・イーストウッド,トミー・リー・ジョーンズ,ドナルド・サザーランド,ジェームズ・ガーナー
ワーナー・ホーム・ビデオ



2000年/アメリカ/130分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナー、ジェームズ・クロムウェル

ライトスタッフ

2010年09月03日 | 映画(ら行)
男たちの夢とロマン
~何度見てもすごい50本より~

           * * * * * * * *

1947年、アメリカ。
二次大戦が終わったところですが、
ソ連を意識して軍事の増強も怠ることはできない、そんな時代でしょうか。
当時、“音速の壁”と言われて、
マッハ1以上のスピードを出すことができなかったんですね。
その壁を初めて破ったのが、米空軍パイロット、チャック・イェーガー。
この作品は、このようなスピードや宇宙にかける夢を追う男たちの物語。
すべて実話。

さて、このように、パイロットたちがスピードにかける夢を追っているころ、
宇宙開発が進んできたのです。
しかし、初の人工衛星も、有人宇宙飛行も、ソ連に先を超されてしまい
悔しい思いがいっぱいのアメリカ。
負けてはいられないということで、
アメリカの有人宇宙飛行計画、“マーキュリー計画”が推進されました。
1959年から63年のこと。
その宇宙飛行士には非常に厳しい適正検査・テストの上7人が選ばれました。
先に挙げたチャック・イェーガーはここで道を分かち、
宇宙飛行士は希望しなかったのですね。
しかし、彼は彼の道をさらに進みます。


それにしても、宇宙開発というのは、
米ソの熾烈な競争があったからこそ、進んだと言ってもよさそうです。
ロケット打ち上げの数々の失敗もあったようなのですが、
いったい、どれだけの費用を費やしたものだか・・・。
まあ、そんなことを言うのもヤボですけれど。

映画中にもあるのです。
とにかく命を失う危険性が非常に高いテストパイロットの妻たちが、
「男って本当にしょうがないわねえ・・・」
とため息混じりに語り合うところが。
ほんと、ほんと・・・、と私も肯きたくなります。
でもこの映画では、女たちがなかなか理解しがたい男たちの夢・ロマンを
雄弁に語っていますねえ。
結構説得力があって、その夢を共有させてもらいました。
この作品、193分ととても長いのですが、それほど長く感じませんでしたから・・・。


この作品は、宇宙開発の推進を、政治的立場とか技術的立場ではなく、
あくまでもパイロットたちの夢やロマンの立場から見ているところが眼目なのです。
しかし、その政治的なこと、技術的なことがとても大きな足かせになるし、
そもそもそれらがなければ何もできない、というのが現実。
このあたりとの絡みがまた、とても興味深いですね。

この後、アメリカはいよいよ“アポロ計画”で、月へと突き進みますが、
そこにはまた数々のドラマがあったはず。
興味は尽きませんね。

ライトスタッフ スペシャル・エディション [DVD]
サム・シェパード,スコット・グレン,デニス・クエイド
ワーナー・ホーム・ビデオ



1983年/アメリカ/193分
監督・脚本:フィリップ・カウフマン
原作:トム・ウルフ
出演:サム・シェパード、エド・ハリス、スコット・グレン、デニス・クエイド、ジェフ・ゴールドブラム

「写楽 閉じた国の幻」 島田荘司

2010年09月02日 | 本(ミステリ)
ぼーっと、酔ってしまう結論!

写楽 閉じた国の幻
島田 荘司
新潮社


           * * * * * * * *

島田荘司氏の新刊。
この方の本だけは、単行本の新刊を購入します。
それはもう、自分の中のお約束。
この本、結構ボリュームもありますが、これまでの氏の作品とはやや趣が異なります。
御手洗シリーズでも、吉敷竹史シリーズでもない。
扱う題材は東洲斎写楽。
うーむ、そのような題材には疎い私、
ついて行けるだろうかとやや心配ではありましたが、
もちろんきちんとわかりやすく書いてあるので大丈夫。
最近バイオテクノロジーなど、
科学の先端を行く題材が多かった島田氏にはちょっと意外だったのですが。
でも、この着想は20年も以前から温めていたとのこと。
このテーマは若干、高橋克彦氏の作品を連想しましたが、
実際この作品中にも高橋克彦氏の名前が登場するので、ちょっとうれしくなりました。


写楽については、いろいろな謎があると言います。
まずはその画法の独自性。
それまでの浮世絵はひたすら繊細で美しくあろうとした。
特に役者絵はブロマイドの様なものだから、見目よく表されていなければならない。
けれど、写楽の絵はリアルで辛辣。
まるで風刺画のようでさえある。
でもだからこその迫力、
その一瞬を切り取ったような描写がすばらしいと言われるのです。

この作品を出版したのが当時の版元、蔦屋ですが、
当時無名の写楽の作品を、破格の好待遇で世に送り出しているというのも謎。

それから、写楽の絵が描かれたのは、
寛政6年(1794年)5月から翌年正月までの10ヶ月間のみ。
その間に百四十数点という夥しい作品を出した後、忽然と姿を消している。
それ以前にも以後にも、写楽という人物が江戸に、いえ、日本にいた痕跡が全くない。

このようなことから、写楽というのは、
実は他の名の通った人物が写楽という仮の名前を使った別人ではないのか、
という説があるというのです。

これについては、素人から玄人まで多くの人が多くの説を掲げて、
論争を繰り広げていますが、
では実はそれが誰なのかは、結局解らないまま。


この本では、島田氏の自説が小説の形を借りて繰り広げられています。
主人公は浮世絵の研究家。
しかしかなりトホホの立場の方でして、自殺寸前・・・。
この方が写楽の正体を探るうちに信じられない結論を得て、
自信を取り戻して行くのです。
初めのうちは、平賀源内が写楽ではないのかと当たりをつけるんですね。
でも、この寛政6年時点では源内は既に亡くなっている。
しかし、ここにもいろいろな説がありまして、
平賀源内は獄中死したということになっていますが、
実はうまく抜け出して生き延びていた・・と。
ところが島田荘司はこの結論では満足しない。
もっと、壮大でロマンたっぷりの結論が出ています。
それはもう、ここで言ってしまうと楽しみがありませんから、
ご自分で読んで確かめてください・・・。

この結論にはちょっとぼーっと酔ってしまいますが、
あくまでも小説ですから、
どこまでが本当なのか・・・と読みながら疑問を感じもします。
ところが巻末に後書きがありまして、
この結論を裏付ける作品中の文献はすべて実在し、その記述も本物とのこと。

う~ん、本当に・・・・?

とすればすごい話です。
歴史っておもしろいですねえ。
作中、この寛政6年にあったであろうことの顛末が描かれていますが、
その描写がとても活き活きしていて楽しい。
この時代にだってフロンティア精神の持ち主はいたはず。
島田氏渾身の作、確かに受け止めました!!

満足度★★★★★

ベスト・キッド

2010年09月01日 | 映画(は行)
自分に勝つために闘う



                * * * * * * * *

1984年同名作品のリメイクです。
これは、あのウィル・スミスの長男、ジェイデン・スミスと
ジャッキー・チェンのコラボ、というのでつい見てしまいましたよ。
ジェイデン・スミス君は「幸せのちから」で、すばらしい演技を見せてくれましたから。


母と二人でアメリカから北京に引っ越してきた少年、ドレ。
なので、舞台はすべて北京です。
それがこの作品の面白いところですね。
アメリカ人の見た北京。
西洋人のあこがれる東洋が映し出されています。
日本人から見ても中国の今の街の様子、
異国情緒たっぷりで、ほとんど旅行感覚で見ました。
とても新鮮です。
オリンピックでお馴染みのスタジアムや、歴史あふれる紫禁城。
古くて新しい北京はやはり躍動感がありますね。
そもそも、この母子が北京に引っ越してきたというのも、
母親は元はデトロイトの自動車工場で働いていたのです。
しかし、不景気で工場が閉鎖となり、今躍進中の北京の工場へ転勤になったと、
・・・きわめてリアルタイムなストーリー設定なんですよね。
これぞリメイクの強みと言うヤツです。




さて、本題にもどりまして、ドレはいきなり地元のカンフー少年たちに目をつけられて、
ことあるごとにいじめられてしまう。
そんなある時、マンションの管理人ハンに助けられます。
このハンがジャッキー・チェンなんですが
日頃のイメージとは打って変わって、しょぼくれたおじさんだ。
しかし、人を見かけで判断するもんじゃない。
実はカンフーの達人。
ドレは彼にカンフーの手ほどきを受け、
いじめっ子のボス、チョンとカンフーの試合で決着をつけることにする。
でもドレは、いつも逃げ回ってばかりかというと、そうでもなくて、
わざわざ彼らに水をぶっかけて逃げたりする。
そんなところが、ただ惨めなのではなくていいなあと思いました。
また、ラスト、決勝の前にドレは足を怪我してしまうのです。
これでは棄権するしかないのか・・・。
そういうときに、やはり「出る」と言ったドレ。
それはただ勝って相手を見返したい、というのではないのです。
「今はまだチョンが怖いんだ。だけど、今日は闘って、怖くなくなって帰りたい。」
う~ん、いいセリフですね。
つまりは自分に勝つために闘う。
もしかして、これぞカンフーの極意ではありませんか!



いやはや、それにしても、ジェイデン・スミス君はカッコイイです。
あのキレのある動きにはほれぼれしてしまいますね。
女の子みたいに優しい顔でも、やっぱりしっかり男の子だ。
もう数年先にはどんな俳優になっているのか、
うーん、楽しみというか恐ろしいくらいです。
万里の長城で練習するシーンなんかはやり過ぎ、とは思いますが、
しかし、楽しめたのは確かです!!

また、地元の少女とのほんのりした交流がまた良かったですよね~。
影絵のキスシーンは、初恋の初々しさを表すにぴったり。

管理人ハンがなんだか暗くて車にこだわる理由も後の方でわかりますよ。

ストーリー自体はお定まりのものなんですが、
このようにいろいろと見所たっぷりで、私はしっかり楽しんでしまいました。
見て損はない作品だと思います。

2010年/アメリカ/140分
監督:ハラルド・ズワルト
制作:ウィル・スミス、ジェイダ・ピンケット・スミス他
出演:ジェイデン・スミス、ジャッキ・ーチェン、タラジ・P・ヘンソン