○ 煩雑な抽出・加工作業を排除!クラウドで簡単・高速なデータ活用を実現する。
これからの時代、データ活用は「クラウド」で。
日々の業務で発生する様々なデータを分析し、結果をビジネス意志決定に役立てる。この「データドリブン経営」の重要性が叫ばれて久しい。またデータ活用は、あらゆる企業のミッションとなったDXにおいても中核的な取り組みといえる。新たなビジネス価値を生むためのヒントは、膨大なデータの中に潜んでいるからだ。
ただし、高度なデータ活用を実現するためにはクリアすべき問題がある。それが、煩雑化しがちな「データの抽出・加工作業」をどう回避するかという問題である。
データ活用の前段として、業務システム内のデータを人手で抽出・加工している企業は少なくない。ところが、この作業が必要になることでデータ活用のスピードが低下し、分析結果が得られるころには情報の“鮮度”が落ちてしまう。また、そもそもデータ量が膨大になると、手元の表計算アプリで加工すること自体が困難になる。このような制約がある状態では、データの真の価値は引き出せないだろう。
従来、この問題を解決するには相応の投資が必要だった。ところが現在は、手軽かつ迅速に高度なデータ活用環境を具現化する方法が登場している。カギを握るのは「クラウド」だ。
クラウドサービスをフル活用すれば、多額の費用をかけなくても高度なデータ活用環境が実現できる。これを実践した企業の1社が、ホットヨガスタジオ「LAVA」を運営するLAVA Internationalである。同社の取り組みをひも解くことで、最新型データ活用の実践のポイントを探る。
データ活用に大規模投資はもはや不要。
業界最多※の店舗数を誇るホットヨガスタジオ、「LAVA」。運営母体のLAVA Internationalは、社会がコロナ禍に直面した状況にあっても、継続的にLAVAの新店舗をオープンするなど順調にビジネス成長を続けている。
同社では、LAVAの運営に加え、レッスン動画をライブ配信するサービスやECサイト「Lapre(LAVA Online Store)」も展開。さらに2022年9月には、法人向けに「スタジオ利用型」「出張/オンライン型」の2種類のレッスンを提供するサービスも開始する予定で準備を進めている。
このような戦略展開を下支えするのがデータだ。同社はかねて、事業企画部門が中心となって、新施策の立案・実施をはじめ様々な局面でのデータ活用を推進してきた。アマゾン ウェブ サービス(AWS)上の基幹系システムで、インフラを構成する「Amazon EC2」「Amazon RDS」の環境に簡易なデータマートを構築。BIツールを用いたデータの可視化と分析を行ってきたという。
「しかし、そこにはいくつかの課題もありました。システムからデータを抽出し、データマートを構築するには、作業者が業務システム側のデータ構造を理解している必要があります。また、データの抽出・展開作業には相応の工数がかかるため、事業企画部門の負担が高まっていたのです」とLAVA Internationalの古家 俊之氏は振り返る。現場から随時発生するデータ活用の要望に、なかなか応えられない状況だったという。
加えて事業企画部門では、必要なデータを加工・集計してレポート化し、各部門のマネージャーや店舗責任者に配布する役目も担っていた。レポート化にはExcelのマクロ機能を使っていたが、データ量が増えるにつれ処理に時間がかかったり、フリーズしたりするようになっていたという。
「加工に時間がかかるため、『この数字を差し替えたい』『別の観点で分析したい』といった経営層の要望に素早く応えることができませんでした。データに基づき、新たなチャレンジをし続けることは、当社にとって不可欠です。このような状況はすぐにでも脱却する必要がありました」と古家氏は述べる。
分析用データを人手で抽出・加工する作業は不要に。
そこで同社が選択したのが、AWSのデータ分析関連サービスを利用することだった。サーバーレスのクエリサービス「Amazon Athena」、データ統合サービス「AWS Glue」、そしてBIツール「Amazon QuickSight」を組み合わせることで、従来の課題を解決するデータ活用環境を目指したのである。
Amazon S3内のデータを指定して分析できるAmazon Athenaを使えば、分析用データを抽出・加工する作業は基本、不要になる。加工や統合が必要なプロセスはAWS Glueを用いて実行できる。処理速度や、クラウドならではの拡張性も大きな強みだと同社は考えた。
「ほかのベンダーのデータウエアハウス(DWH)製品やETLツールも検討しましたが、データソースとなる業務システムがAWS上にあるため、親和性の点でAWSのサービスが有利だと考えました。利用コストも、比較した製品に比べて圧倒的に優位でした」と同社の根本 夏瑠氏は採用理由について話す。
またAmazon QuickSightは、現場主導のBI活用の基盤になるツールと位置付けた。従来は、事業企画部門から配布されたExcelを基に業績可視化を行ってきたが、これをAmazon QuickSightに置き換えるのだ。「トライアル利用で検証しましたが、処理が速く、洗練されたGUIで使いやすい。“Excelの限界”を脱却でき、かつ誰でも使いこなせそうな点が大きな決め手となりました」と根本氏は語る(図)。
新たなデータ活用に制約なく踏み込んでいける。
2022年6月現在は、2022年秋前の本格運用開始を目指してプログラムの実装などの準備が進められている。新たなシステムで実現予定のプロセスはおよそ以下の通りだ。
まずAmazon RDSで構築された業務システムのデータベースから、必要なデータをAmazon Glueで抽出する。ここで分析用途に適した列指向のデータに変換した上で、Amazon S3上に中間テーブルを作成。そのデータを今度はAmazon AthenaがSQLベースで読み出し、データマートへ展開する。展開は、当初は1日1回として、徐々に頻度を上げていく予定だ。ここにユーザーがAmazon QuickSightでアクセスし、業績データの分析・可視化を行う。
これまで事業企画部門が行ってきたデータの抽出・加工作業が削減できるほか、多くのビジネス成果も狙えると同社は見ている。例えば、データの鮮度が高まれば、実施したイベントやキャンペーンなどの成果をよりタイムリーに捕捉できるようになるだろう。「連動して、データを軸にした現場と経営層の対話やレポーティングの頻度も上がると思います。データドリブンなビジネスを支えていければと思います」と古家氏は話す。
今後は、より多くの社員が、業績可視化やデータ利活用にタッチできる環境が整うことになる。事業企画部門、システム部門、各事業部門のマネージャーに加え、各店舗の責任者までがAmazon QuickSightを利用するようになれば、より一層、データ活用の効果が組織内に波及していくはずだ。
「利用者の範囲が広がれば、より広範かつ大量のデータをデータマート上に展開していく必要性も生じます。十分な性能を確保するには、本格的なDWHの構築が不可欠ですが、その際の候補としてDWHサービス『Amazon RedShift』も検討中です」と同社の髙橋 加純氏は語る。このように、様々なサービスを組み合わせることで、将来のロードマップを柔軟に描ける点もAWSの強みといえるだろう。
ビジネスの足かせになっていた既存の環境を脱却し、AWSベースの本格的なデータ活用を今まさにスタートしようとしているLAVA International。同社のさらなる挑戦と、それによるビジネス成長の一端を、AWSが支えている。