〇 ここにきて、自動運転に関するニュースが目立つようになってきた。そのなかで筆者が最もインパクト大だと感じたのは、無人タクシーのサービス開始時期に関するニュースだった。
日本経済新聞は2023年10月19日、ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)が、2026年に東京都心を皮切りに無人タクシーサービスを開始すると報じた。特定の条件下で自動運行装置が運転操作を担う「レベル4」に対応し、都心の公道で実用化すれば日本初になるとしている。
経済産業省は同日、2025年度までの新たな自動運転移動サービス実現に向けた環境整備のため、国土交通省などと連携し「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を立ち上げると発表している。
この発表によると、政府は2025年度をめどに国内50カ所程度で無人自動運転移動サービスの実現を目指しており、今後より大規模かつ複雑な交通環境での新たな自動運転移動サービスの開始を見込んでいるという。そうしたサービスを早期に実現するために、企業と関係省庁間で適切な情報共有などを促進する。
実現のための環境整備が必要になるため、経済産業省と国土交通省で進めている自動運転開発・実装プロジェクト「RoAD to the L4」の下に、同コミッティを設置するという流れだ。
コミッティの予定メンバーは、経済産業省、国土交通省、警察庁、総務省、関係自治体となっており、11月ごろから開始する予定。今回のホンダと米GMの取り組みをコミッティの直近の議題にすると説明している。
自動運転を念頭とした車内タッチパネルでエンタメも。
10月26日には、東京モーターショー改めジャパンモビリティショーが、東京ビッグサイトで開幕する(本記事は開幕前に執筆)。10月20日に読売新聞が掲載した記事「クルマ新世 モビリティショー」では、ソニーグループとホンダが合弁会社で開発する電気自動車「AFEELA」を、日本で初めて一般に公開すると紹介している。
AFEELAは自動運転を念頭に、運転席の前面に大きなタッチパネルを配置、映画や音楽、ゲームが楽しめるという。自動運転車のEVが、ソニーが得意とするエンターテインメントを満喫できる「動くスマートフォン」になると読売新聞は記事で説明している。
AFEELAの話題は、日本経済新聞も10月20日に、『ソニー・ホンダ「AFEELA」 運転しない車内空間つくる』という記事で扱っている。高い品質のハードウエアを生かして気持ちの良い操作性を実現するソニーの感覚が、自動車に生かされていると指摘している。
ここまで見たように、自動運転に関する話題は、性能や安全性といった機能だけでなく、いかに楽しむかを検討する機能にも及んでいることが見えてきている。
官民が進めるデジタルトランスフォーメーションにおいて、経済産業省は固定観念を捨て、企業文化を変革することが重要としている。自動車メーカーにはない発想をソニーから採り入れるといった取り組みは、まさにその一例になると言えそうだ。
マスク氏はどう考えて何をしようとしている?
海外でも自動運転が大きな話題になっている。米Wall Street Journal(WSJ)は2023年10月19日、「Tesla Hits the Brakes on EVs, but Not on AI」という記事を掲載した。
高成長を続けてきた米電気自動車のテスラだが、利益率が縮小し、その勢いが弱まっているとの内容だ。10月18日の決算説明会で、CEOのイーロン・マスク氏が、珍しく弱気な姿勢を見せたのだという。待望の新型車として量産化に時間がかかることや、金利上昇の自動車購入意欲への影響などが背景にある。
テスラの資料を見ると、2023年第3四半期の粗利益率は17.9%となり、2022年同期の25.1%、2021年同期の26.6%と比較して、縮小傾向にあることが分かる。次の有力な一手である自動運転車の実現性を示す必要があるとWSJの記事は指摘している。
だが、会見でロボタクシーの進捗状況について聞かれたマスク氏は、タクシーについては明言を避け、人型ロボットへの話題を挙げて「テスラよりうまくできる人はいない」と述べるにとどまった。
その意味で、今回のホンダとGMの発表は、テスラの進捗を上回るものと考えてよいだろう。そしてGMというかつての米国を代表する企業が、IT陣営の後じんを拝してきた鬱憤を晴らす「逆襲」の序章となるのかもしれない。
自動運転という全世界的なテーマが、世界企業の次の覇権争いのゆくえを映す基準になると考えると、また新たな楽しみが増えたと言えそうだ。