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猛威振るうSMSフィッシング詐欺、被害を防ぐサービス普及の課題とは。

○ 電話やSMS通じて様々な形で金銭をだまし取る特殊詐欺の被害が後を絶たず、社会問題となって久しいが、その被害を防止するため迷惑電話を防止する機器やアプリが多く提供されている。

それらが普及する上で課題となるのは何だろうか。台湾製の迷惑電話防止アプリ「Whoscall」の発表などから探ってみよう。

日本だけではない迷惑電話による詐欺被害。

親族などを名乗って現金をだまし取る、いわゆる「オレオレ詐欺」や、銀行職員などを名乗り銀行のキャッシュカードなどをだまし取る「預貯金詐欺」などの特殊詐欺による被害が、とりわけ高齢者を中心に大きな被害をもたらしていることはご存じの人も多いだろう。警察庁の統計によると、2021年における特殊詐欺の認知件数は1万4498件、被害額は合計で282億円を超えており、現在もなお大きな被害が出ていることが分かる。

中でも高齢者を対象にした特殊詐欺による被害の多くは電話をきっかけに生じている。最近ではメールより信頼性が高いことを狙い、SMSを使ったフィッシング詐欺による被害も急増している。そうしたことから詐欺などに用いられている不審な電話番号をデータベース化して自動で判別し、着信時に警告したり、通話自体をブロックしたりする機器やアプリもいくつか出てきている。

その1つとなるのが、台湾の走著瞧(ゴーゴールック)が提供するスマートフォンアプリ「Whoscall」である。これは携帯電話の番号を識別して迷惑電話やSMSを事前に防げるアプリで、日本ではゴーゴールックの日本法人となるWhoscall社が提供している。

Whoscall社は2022年10月24日に記者向け発表会を実施。Whoscallによる特殊詐欺対策への取り組みや、特殊詐欺の現状などについての説明があった
画1、Whoscall社は2022年10月24日に記者向け発表会を実施。Whoscallによる特殊詐欺対策への取り組みや、特殊詐欺の現状などについての説明があった。

なぜ台湾企業のアプリが日本の特殊詐欺を防げるのか。2022年10月24日に実施された同社の記者発表会での説明によると、そもそも詐欺電話は日本だけの問題ではなく、世界的に問題になっている。実際、同社が台湾や日本など複数の国・地域で検知した月当たりの詐欺電話やSMSの件数は、最も多い2022年3月で約4.6億回に上るという。

そうしたことからWhoscall社ではアジアや南米を中心として世界各国・地域での迷惑電話番号データベースを構築、それぞれの国や地域の警察など政府機関と協力して詐欺犯罪対策を進めているほか、日本でもWhoscall社が拠点を構える福岡市と連携するなどして、利用促進に向けた取り組みを進めているという。またWhoscall社のデータベースを利用できるAPIを提供して企業が詐欺電話などを防ぎ、安心してサービスを提供できるようにするB2Bの取り組みなども同時に進めている。

Whoscall社はアジアを中心として世界各国の迷惑電話番号を持つデータベースを構築、それを基に各国の政府機関などと協力して詐欺対策を進めている
画2、Whoscall社はアジアを中心として世界各国の迷惑電話番号を持つデータベースを構築、それを基に各国の政府機関などと協力して詐欺対策を進めている。

詐欺の内容は世間の情勢で大きく変化する。

Whoscall社は発表会を実施した2022年10月24日に「Whoscall 世界の詐欺レポート2022年<速報版>」を公表しており、それいによると2022年はとりわけSMSを用いたフィッシング詐欺が急増しているという。SMSによる詐欺は年齢を問わず被害に遭う可能性が高いだけに、特殊詐欺が高齢者だけでなく、一般的なものとなりつつある様子を見て取ることができる。

実際この調査では、2022年1月から8月までの間にSMSのフィッシング詐欺に利用されたブランドは「KDDI」「au」が1、2位を占めたとされている。これは2022年7月にKDDIが起こした大規模な通信障害に関連し、利用者に対する200円のおわび返金が実施されたことを狙ったものと考えられる。このように世間の注目が高い出来事やサービスを狙い、ターゲットを問わず詐欺行為を働こうとしていることが分かるだろう。

Whoscall社の調査では、2022年1月から8月までの間でフィッシング詐欺に多く利用されたブランドは「KDDI」だった。7月の通信障害が大きく影響していると考えられる
画3、Whoscall社の調査では、2022年1月から8月までの間でフィッシング詐欺に多く利用されたブランドは「KDDI」だった。7月の通信障害が大きく影響していると考えられる。

他にも様々な世界情勢が詐欺に影響しており、例えば2022年9月にスリランカからの「ワン切り」、いわゆるコールバック詐欺が増えたことを検知したとWhoscallは説明する。これは2022年にスリランカが財政破綻したことが大きく影響したとみられており、財政破綻でコールバック詐欺業者の活動が活発になったようだ。

Whoscall社がこうしたリポートなどを報告している狙いは、詐欺撲滅に向けWhoscallの認知度向上や利用促進を図るとともに、それによって自社のビジネスを拡大することだといえるだろう。そもそもWhoscallのサービスは、無料で利用できるのは月当たり3回までの番号検索のみで、番号の識別や自動的に着信を拒否する機能などを利用するには有料のプレミアム版を契約する必要がある。

それゆえプレミアム版を利用してもらうための認知度向上が、同社の目的となっていることは確かだ。同社では企業の販売促進や福利厚生用として、Whoscallのギフトコードを企業などに提供するビジネスなども展開しているが、事業の主体はやはりユーザーからの直接的な収入であることは確かだろう。

「Whoscall」のアプリで提供される機能の多くは有料のプレミアム版を契約しなければ利用できず、無料では回数限定の電話番号検索のみ利用可能だ
画4、「Whoscall」のアプリで提供される機能の多くは有料のプレミアム版を契約しなければ利用できず、無料では回数限定の電話番号検索のみ利用可能だ。

お金を払うことに抵抗感を示す高齢者にどう応えるか。

もちろんビジネスで収入を得ることはWhoscallのサービスを継続的に提供し、データベースを運用していくために必要であり、そのこと自体否定されるものではない。ただ気がかりなのは、継続的にお金がかかること自体がこうしたサービスの普及を妨げる大きな要因の1つとなっている現実が存在することだ。

とりわけ「自分は詐欺にかからない」と思っている高齢者などは、自らを過信しているのに加え、もともと電話料金にシビアな傾向にあることから、毎月お金を払ってまで迷惑電話防止のサービスを契約したがらない。それだけに、いかに料金負担をなくして迷惑電話を防止する仕組みを導入してもらうかが、高齢者の特殊詐欺対策には強く求められているのだ。

そうした取り組みの1つとして注目されるのが、2022年8月16日にソフトバンクが神奈川県、神奈川県警察と締結した「地域安全に関する協定」である。この協定は神奈川県内のソフトバンクショップ、ワイモバイルショップで迷惑電話防止対策の教室を実施したり、神奈川県警察とソフトバンクが共同で迷惑電話防止のチラシを配布したりするものなのだが、特徴的なのはその中でソフトバンクのサービスを活用した迷惑電話防止方法が紹介されていることだ。

具体的にはまず、携帯電話回線を固定電話の代替として利用するソフトバンクの「おうちのでんわ」と、ワイモバイルブランドで提供しているスマートフォン「かんたんスマホ2+」を契約してもらう。その上で「おうちのでんわ」から「かんたんスマホ2+」に電話を転送し、スマートフォンで固定電話に応答できるようにする。

実は「かんたんスマホ2+」には標準で迷惑電話を警告して音声を自動録音する機能が備わっている。それゆえかんたんスマホに転送された電話を受けるだけで、自動的に迷惑電話対策が可能になるわけだ。

ソフトバンクがワイモバイルブランドで提供する「かんたんスマホ2+」。不審な電話番号を判別する迷惑電話対策機能が標準で搭載されており、神奈川県らとの協定では「おうちのでんわ」と組み合わせた迷惑電話対策法が紹介されている
画5、ソフトバンクがワイモバイルブランドで提供する「かんたんスマホ2+」。不審な電話番号を判別する迷惑電話対策機能が標準で搭載されており、神奈川県らとの協定では「おうちのでんわ」と組み合わせた迷惑電話対策法が紹介されている。

しかもこの方法であれば一度固定電話側に付ける機器を変え、スマートフォンを変えるだけで、月額料金は大きく変わらず手間やコストの負担が少なくて済む。そうした点に目を付けた神奈川県警察がソフトバンクに打診し、この協定の締結に至ったようだ。

特殊詐欺が依然脅威であることは確かだが、そのターゲットとなる人が、自らを守るため対策にお金を払うという意識が高まるかどうかは不透明だ。コスト面の課題をいかにクリアしながらいかに利用者を詐欺から守るかについて、民間企業だけでなく行政も巻き込んだ工夫と努力が求められるだろう。


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