〇 日本経済新聞は2023年10月12日、「LINEヤフー、ソフト開発に生成AI 作業1日2時間効率化」と報じた。社内にいる技術者7000人全員が使えるようにし、作業時間を1日当たり2時間減らす効果があるとのことだ。空いた時間は、新たな付加価値を生み出すための業務に充てるという。
こうした導入事例は増えていくと考えられる。そこで今回は、ソフトウエア開発における生成AIの導入と活用によって、今後技術者はどのような変化を求められるかを考えてみたい。
GitHub Copilotの導入が進んでいる。
先ほどの日経新聞の記事によると、LINEヤフーは米Microsoft(マイクロソフト)が提供するツール「GitHub Copilot」を導入する。GitHub Copilotは、AIを用いてプログラムのソースコードを書くコーディング作業を自動化する。さらに関数の生成、コメントの提案、文書作成など、さまざまな処理をリアルタイムに支援することで、開発者の生産性とコードの品質を高める効果がある。
上記の記事をフォローした記事では、文書作成や調査といった事務作業ではなく、ソフトウエア開発という技術者にとっての本業に生成AIを利用できる点を高く評価している。
ツールとしてのGitHub Copilotを提供する側であるMicrosoftは、自社プロジェクトでGitHub Copilotを利用。GitHub Copilotを、自社の開発ツールであるVisualStudio Codeなどと組み合わせ、コード生成と開発プロセスの向上を実現している。この取り組みにより、Microsoft製品を利用する企業の技術者がコーディングを効率化し、システム構築プロジェクトをよりスムーズに進めることを支援できるようになった。
インプレスは8月31日『パナソニック コネクト、ソフトウエア開発にコード生成AI「GitHub Copilot」を試験導入』というニュースを報じている。それによると、システム開発を手掛けるパナソニック コネクトが技術者50人を対象に「GitHub Copilot for Business」をトライアルで導入し、2023年7月10日から30日にかけて活用したという。同社CTOで日本マイクロソフトの元CTOでもある榊原彰氏は、8月30日にギットハブ・ジャパンが開催した説明会で、ほとんどの技術者が活用による生産性向上の効果を実感していると話したとのことだ。
法制面やセキュリティで課題も残る。
GitHub Copilotなどの生成AIツールを活用することでさまざまな効果が得られる一方で、留意点もいくつかある。最も大きいのは、生成AIとしての訓練データの問題だ。
例えば、GitHub Copilotは、OpenAIの「Codex」を基盤にしている。このCodexは、一般公開されている無数のソースコードと自然言語の文によって訓練されたものだという。この点に関して、Codexが独自サービスをつくる際に使うオープンソースのコードを利用する権限があるかが問題になり得ると、米テクノロジーメディアZDNETのエディターであるSteven Vaughan-Nichols氏が2022年7月8日の記事で指摘している。
このZDNETの記事によると、以前GitHubのCEO を務めていたNat Friedman氏は、「公開情報を使った生成AIシステムの訓練は認められる使い方」と発言している。一方で、知的財産権とAIの関係は世界中で興味深い政策議論の対象になるとも指摘している。
この記事は、Software Freedom Conservancy(SFC)などのオープンソースソフトウエア側の団体には、容認できないとの意見を表明する者もあり、MicrosoftとGitHubが、ライセンスの要件を1年以上にわたって無視し続けていると主張しているといった話も紹介している。
もちろんセキュリティ面の問題もある。サービス提供者側の学習の過程で読み込んだ機密情報や個人情報などが外部に流出すれば、セキュリティインシデントにつながることは容易に想像できる。
生成AIを前提としたスキルセットの獲得を。
いずれにしても、生成AIの活用により、ソフトウエア開発の生産性が高まることは間違いなさそうだ。逆に言えば、自らのストロングポイントが、生成AIで代替できる技術である場合、その技術者にとってはピンチとなり得る。
時を合わせて、官民がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。今後技術者は、自分が所属する企業のビジネス環境を理解し、生成AIの活用を前提としたスキルセットを獲得していくことが求められるだろう。また生成AIに関しては、使用法と活用法の理解だけではなく、知的財産権との関係に関する議論の推移をキャッチアップし、セキュリティを常に意識することも必須となると考える。