青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

山紫水明緑に溶けて

2019年07月26日 22時00分00秒 | 長良川鉄道

(雨に煙る白鳥の街@浅野屋旅館前)

夜半の雨は激しく、トタン屋根を叩く雨音で何度か目が覚めた。スマホのアラームで目が覚めた午前5時、NHKのニュースで天気予報をチェックしたところ、夜にあらかたの雨が降ったせいで日中はやや回復するのではないかという微妙な見立てであった。もそもそと5時半に起きて来た子供と一緒に朝風呂に入って身を清め、乗り鉄二日目の準備を黙々と行う。宿の方々が朝ご飯の支度に忙しく動き回る中、女将さんに一言告げて宿を発つ。宿の前の道から見やれば、油坂峠に続く山に、低く雲の垂れこめる朝。あの山を越えた向こうが福井県大野市。鉄道が結ぼうとした越美の国境を、今は中部横断自動車道の一部となった油坂峠道路が結んでいます。

駅の規模にしてはだだっ広い美濃白鳥の駅前。地元の白鳥交通というバス会社が、郡上八幡やひるがの高原方面にバスを走らせていますが、その転回場も兼ねているのでしょう。観光地ではないのだけど、駅前には土産物屋を含めて何軒かの商店も見える。昨日は夕方の到着、今日は朝早くの出発なので、街の生きている姿をあまり見ることが出来なかった。ただ、長良川を渡った国道沿いの方に大型スーパーや飲食店が立ち並んでいて、駅ではなく高速道路のICを中心とした街になっているのは疑いないようです。

乗車するのは6:33美濃白鳥発4レ、美濃白鳥発の2番列車。美濃白鳥には夜間3両の車両が滞泊しているようで、美濃白鳥発の2レ・4レ・下りの北濃行き501レを受け持っているようです。エンジンを小気味よくアイドリングさせながら待機中の車内で発車を待っていると、駅の詰所から若い運転士さんが出て来て「おはようございます」なんて挨拶を交わしたり・・・出発準備が整って、日曜日の朝、美濃白鳥からの乗客は我々親子二人だけ。駅の助役に見送られながら、定刻に美濃白鳥を発車します。

まだ寝ぼけまなこの奥美濃の山里を、丁寧に一つずつ止まって行く列車。雨雲は相変わらず山に低く垂れこめ、ところどころの駅で、ぽつりぽつりと乗客が乗ったり、降りたり。今日はこのままこの列車を、まずは美濃太田まで乗り通す予定になっている。美濃太田まではたっぷり2時間。朝は早かったけど、うつらうつらしながら乗るにはちょうど良い。そして、あれだけ降った夜半の雨にも、一切の濁りを見せずに清き流れを保ったままの長良川が、相も変わらず車窓の下に滔々と流れている。そして瀬を速み流れる川に立つ鮎釣りの人影。

夜半からの雨に濡れるレールを滑るように走るナガラ304。ハンドルを取る若き運転士氏のキビキビとした掛け声が車内に響く。運転台の横に立って熱心に前を見ていた子供に優しく声を掛けてくれて、沿線の景色の見どころを教えてくれたり、シカやイノシシが出るポイントなどをレクチャーしてくれたそうだ(笑)。鉄道の運転士という職業はいつだって子供の憧れだけど、こんな触れ合いもローカル線らしさの一つなのかもしれない。

貴方優しい旅の人、逢うた一夜の情けを乗せて、走る列車は鵜飼い船。郡上八幡から乗って来た女子高生は、車窓に広がる景色など取るに足らないと言わんばかりに、車内の揺れに身を任せながら参考書を広げて勉強の真っ最中だ。相変わらず子供は熱心に車両の先頭で前方を見据えているので、私は最後尾で流れる景色に身を任せてみるのだが、ここから眺める景色はまさしく山紫水明である。雨粒を吸い込んで大きく繁る森の木が、水清く流るる山里が、梅雨明け切らぬ湿り気の濃い空気が、ディーゼルの排煙と共に、後ろへ後ろへ飛んで行く長良川鉄道の旅であります。

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