(何の店だ?@野町駅前)
浅野川線の北鉄金沢駅から、北鉄バスに乗り野町駅前方面へ。石川線の始発駅である野町でバスを降りて、駅に向かって歩いて行く道すがらにあったお店。「最中種」と書かれていて、サイチュウシュ?何だ?と暫く何の店なのか分からないで表に回ると、「稲葉工芸種菓子」と染め抜かれた暖簾で、ようやくそれが「最中種(もなかだね)」=最中の中身の餡子とか、その類の菓子材料を作るお店であることを悟ったのでありました。伝統ある加賀百万石の城下町・金沢。和菓子にも繊細な技術があって、目でも味でも楽しめる上質な和菓子が作られています。
武蔵ヶ辻・香林坊方面に向かうバス通りから、一本路地に入ったところにあるのが、北鉄石川線の野町駅。何の路線にも接続していないが故の絶妙な取り残され感と、周辺の旧市街地然とした佇まいに、思わず北鉄の中央弘前だ!と心の中で叫んでしまったよね。昭和の薫りが色濃く残る地方私鉄のターミナルとして、中央弘前は全国一の良物件だと思っているのだけど、ここ野町駅も中央弘前に劣らない魅力と渋さを持ち合わせているように思う。
その昔は、ここから金沢市内線(路面電車)が市内中心部に向かって接続していたそうなのだけど、モータリゼーションの波に押されて市内線が廃止になったのは1967年(昭和42年)のこと。以降、陸の孤島のようになった野町駅からは、今や1時間に1~2本程度のバスが僅かに市内中心部へのアクセスを繋いでいるだけ。まあ、私が降りた野町のバス停(国道沿い)まで歩いてけばバス一杯走ってるみたいなんだけど、昔は北鉄電車と野町駅前からのバス連絡はもうちっと密に行われてたみたいなんですよね。野町駅の乗降客が減少して乗り継ぎ需要が少なくなるにつれ、だんだんその辺りもおざなりになってった、なんて話もある。市内線が廃止されて既に半世紀以上、ようは玉電が廃止されて新玉川線が建設されなかった二子玉川園の世界線みたいな感じの野町駅。そもそももう金沢市街中心部への主要ルートとしての地位は手放してしまったというか、そんな感じで駅は緩慢な衰弱を選んでいる感じもある。
いつ付けられた看板なのか、「速くて安全 北鉄電車 野町~鶴来28分」のキャッチコピー。こう言うのに弱い。何に対抗しているのか良く分からないが、とりあえず鉄道の利便性を必死にアピールしている辺りがいじましい。関西系の私鉄のターミナルに「どこそこまで何分・便利な〇〇電車で!」みたいなキャッチコピーは良く書かれているのだけど、そういう意味では北陸は関西文化な感じはあるね。北陸新幹線が東京と繋がって、大阪と東京への所要時間がともに2時間半とイーブンになった現在、金沢にも徐々に東京文化が染み込んでいるらしいが。
駅前の喫茶店。何ともまあレトロな佇まい。思わずドアを開けて中に入りそうになってしまったが、週末はやってないみたいでした。そもそも現役の喫茶店なのだろうか・・・と言う疑念もあったのだが、食べログには廃業とも書かれていなかったし、たまたま定休だったという事なのだろう。それにしても、「純喫茶・未完成」という店の名前の奥深さよ。人間などどこまで行っても未完成なのだ、という達観の気持ちなのか。目の前の線路に目をやれば、野町より先、香林坊へ延伸する話も長いこと実現出来ず未完成のままだ。
野町の駅に佇む北鉄7000系電車。毎度毎度の東急7000系なのでもはや何も言う事はない。先々月水間で乗ったしな。まあ、原型に近い形の水間と違って、北鉄の7000系は1500V→600Vへの降圧や足回りの履き替えなどもあってだいぶデチューンされてはいるのだが。野町の駅は一応レールもホームも2本ずつありますが、奥側のホームはもう長いこと使われていないようで、ホームには雑草が生え、上屋を支える柱には錆が回っている。先ほど、この野町の駅を「中央弘前みたいだ」と表現したのだが、よく見たら止まってる電車も同じだもんな。そりゃ印象が似通ってしまう訳だよ。
うら寂しく朽ちて行く、野町駅の2番線ホームの柱と看板広告。北陸銀行の行燈型駅名標。もう光らなくなって何年経つのだろう。この北鉄の野町と同じように、弘南の中央弘前、上毛の中央前橋、かつての新潟交通・県庁前、阪堺の恵美須町、熊本電鉄の藤崎宮前などなど、国鉄と直接の関りを持たない中小私鉄の孤高のターミナルというものは、どうしてこうも愛おしくてならないのだろう。駅周辺の街の雰囲気なんかもどこか共通項があるようで、隠しようにも隠し切れない昭和的ノスタルジーが最高だと思う。
昭和のターミナルを、半ば嘗め回すように堪能して駅に入ると、待合室には待ちくたびれた大勢の学生さんたちの顔、顔、顔。既に日中は1時間1本に減便された石川線。ようやく鶴来行きの改札のコールがあって、三々五々と改札口から車内になだれ込んで行く。土曜日の昼下がり、通勤客もおらず、かと言って繁華街へ出る人もいない野町の駅は、石川線沿線へ向かう高校生たちの独壇場。カメラを持って明らかに旅行者然とした自分のいでたちは、明らかにちょっと場違いな感じなのでありますが、ジャージ姿の彼ら彼女らに紛れて、どうにもぬるくて冷房の効きが悪い東急7000の車内にこっそり腰を下ろすのでありました。