テレンス・マリックとの共通項をあげる人が多いシェイン・カルース。普遍性に欠ける(一人よがりの)メタファーの使い方や細胞をアップにした顕微鏡カットの多用が、観客にそういった印象を与える所以であろう。やれカルトだ、ポスト・ムービーだのと騒がれているが、はっきりいってモリすぎだ。本作にかぎっては、日本語字幕がなくともなんとなくストーリーが理解できるほどプロット自体は比較的単純で、難解というのとはちょっと違っている。芋虫や青い胡蝶蘭、ミニ豚…が劇中意味深に登場し、それらが何のメタファーなのか説明不足のため、シネフィルの皆さんが変に想像たくましくしているだけのように思えるのだ。
青い胡蝶蘭の根から採集培養された芋虫を飲み込まされ心神喪失状態になったクリスは、貯金を全部男に奪われてしまう。身体の中を芋虫が這いずりまわる違和感を覚えたクリス、サンプラーと呼ばれる男の施術を受け芋虫取り出しには成功するが、同時にサンプラーが飼育しているミニ豚と“同期”してしまう。同じ経験があるらしいジェフ(シェイン・カルース)と恋に落ちたクリスはジェフの子を妊娠するが流産。ちょうどその時、サンプラーはクリスとリンクしたミニ豚ちゃんが出産したコブタをずた袋にいれて川へ投げ捨てていた。一時行方不明になっていた失意のクリスと再会したジェフ。ソロー著『森の生活』を暗唱しながらプール底の土塊を拾い集める行?によってクリスは元気を回復、サンプラーを射殺後、同じ目にあっていた人々に『森の生活』を送って解放してあげる。おかげで、コブタの死体から養分を吸い上げていた青い胡蝶蘭専門の花屋や芋虫カルテルは商売あがったり、クリスに抱かれて幸せそうなミニ豚のアップでTheEND。あらすじを要約するとこんな感じだ。
芋虫を使ってミニ豚と人間を同期させる闇カルテル、その元締めサンプラーは、鉄管の中でゴロゴロ石を滑らせたり、木片をやすりでギーコギーコこすったり…そんな音源をサンプリングして人を洗脳するためのCDまで出している。ミニ豚とリンクしている人々の目にはこのサンプラーの姿がどうも見えないようで、唯一ソローの本を熟読したクリスの目にだけとらえられるようになるのだ。自給自足生活を自画自賛した内容の『森の生活』とは対角に置かれたサンプラーはおそらく、人間を無意識のうちに操る物質文明の擬人化か何かではないだろうか。操縦されている人間同士の恋愛や妊娠がご法度ということは、何も考えずに上流階級をめざすとろくなことにはなりませんよ、というようなことを回りくどく言っているだけなのかもしれない。演出があまりにも未熟なため変な臆測を方々に呼んでしまった、本作品はそう評価するのが最も自然な気がするのである。
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監督 シェイン・カルース(2013年)
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