ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

夢売るふたり

2020年06月10日 | 激辛こきおろし篇

西川美和がスランプに陥っている。前作『ディア・ドクター』で、ディレクターとしての自分の才能に対して自信のなさをうかがわせるような演出がとても気になっていたのだが、長編4作目となる本作を見る限りどうもビンゴのようだ。オリジナルの脚本にこだわり続けている西川美和の「これだよ、これこれ!」と思える場面にまったく出会うことができなかったのである。

デビュー以来真実と嘘の境界をずっと見つめ続けてきた美和ちゃん、本作では“男女間の愛”におけるそのあいまいな境界を描こうとして、はからずも袋小路に迷い込んでしまった感は否めない。結婚詐欺で貯めたお金で新しい自分達の店を持とうとした夫婦だが、被害者の一人にマジで惚れてしまう男。古今東西の哲学者が束になってもみちびきだせないでいる真実の愛が、こんなにも簡単なオチで表現できているとは当のご本人も思っていないだろう。

いわゆる“女性の自立”を基軸に語られるシナリオの中で、西川本人が漠然と頭の中で考えている自立した女性とは、すなわち“男に頼らないでも生きていける女”。大地に自分の両足を踏ん張って生きている、重量挙げの女、デリヘル嬢(安藤玉恵)、市役所務めのシングルマザー(木村多江)などがまさにそれ。に対しどこぞの部長の愛人(鈴木砂羽)や、結婚できない女(田中麗奈)、そしてアベサダの奥さん里子(松たか子)などを自立しきれてないダメ女として描いているのだ。

しかしそれでは余りにも安直すぎるのではないだろうか。中学生がするようなオナニーに、オシメにみたてたナプキン付パンティ、そして蒙古斑まで確認する里子を、嫉妬深いねんねの女としてむりやりフューチャーしているものの、男の自分から見ればごくごくそこらにいる普通の若奥さん。自分の数少ない経験!?から言わせていただければ、嫉妬にとちくるった女の本当の怖さがこの程度ですまされると思ったら大間違いなのである。

話は余談になってしまうのだが、『蛇イチゴ』の時からずっと感じていたことが一つある。西川美和という人、女流監督にしてはかなりエロい絵を撮るのである。愛人マンションのバスタブでアベサダと鈴木砂羽が激しくまぐわうシーンなどは、師匠の是枝にはけっしてまねのできない芸当なのだ。あんなにいきまくっている砂羽の顔を見るのははじめて、といっても過言ではないだろう。

いっそのこと昨今はやりのLGBT路線に思いきって鞍替えしてみてはいかがだろう。『アデル、ブルーは熱い色』ばりの百合映画にでもトライしてみれば、カンヌもけっして夢ではないだろう。変に真面目ぶって頭でこねくりまわした脚本など、どうせたかがしれている。騙されたと思って一度“エロ売る”監督を目指してみれば、新たな道がきっと開けてくる、そんな気がするのだがどうだろう。

夢売るふたり
監督 西川美和(2012年)
[オススメ度 ]



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