AIに制御された“ポッド”と呼ばれる人工子宮をめぐるロマンチック・コメディなのだが、フランス系アメリカ人ソフィー・バーセスが近未来AIテクノロジーに向ける眼差しはかなり辛辣である。単純な自然信仰に陥っていない分、AIを無批判に礼賛しがちなホリエモンみたいな人々にとっては、単にWWWしてばかりはいられないストーリーと言えるだろう。
AI開発会社にお勤めのエリートレイチェル(エミリア・クラーク)は会社へ多大な貢献をしたご褒美として人事部から、関連会社ペガサスの大ヒット商品“ポッド”の頭金拠出をオファーされる。うだつはあがらないけれど心優しい植物学者アフリカ系の夫アルヴィー(キウェテル・イジョフォー)との間にそろそろ赤ちゃんをと思っていた矢先のオファーに、夫の了解をえないまま内見会の予約をいれてしまうのだが...
こと(女の子の)妊娠に関しては、夫の精子をもはや必要としない時代になっていて、男女の産み分けも自由自在、母親の胎内と同じ環境を“ポッド”の中で十分再現できるため、このポッドを家に置かなくともすべてペガサスのスタッフにまかせっきりにもできるのだとか。栄養補給も金魚のエサやりなみに簡単で、多孔物質で作られているため、両親の声はもちろん、音楽だって羊水に浮かんでいる赤ちゃんに聞かせることが可能なのだ。
つまりこのポッド、中絶問題でフェミニストたちが大騒ぎしているアメリカ人の出生率が下がったがために考案された(もち高額な)救世主なのである。妊娠→出産→育児といった女性の肉体的負担を軽減するため、神が与えたもうた女性の喜びまでもお金に変えてガッポリ儲けようとたくらむ、非常にアメリカらしいあこぎな商売を、完全に小バカにしたSF作品なのである。
その昔、自然を科学技術で制御して大儲けようとするアメリカ的なやり方に、巨匠ロッセリーニは大いなる疑問を投げかけていたが、本作もまさに、妊娠出産という女性の一大イベントすらも科学の力に委ねようとするペガサス社=アメリカに対して、完全に否定的な立場をとっているのである。自然分娩が当たり前と考えていた夫アルヴィーもAIカウンセリングの説得を受けて、しぶしぶポッド使用に同意するのだが。
せめて赤ちゃんが育っていく様子を見守りたいと、夫婦はポッドを家において大事に大事に慈しんでいるうちに、本当の赤ん坊を胎内に抱いているような気持ちに2人して満たされていくのだった。しかし、ここでこの女流監督はコスパ至上主義のアメリカ企業の残酷なやり方を押し付けて、赤ちゃんへの愛着が湧いてきた夫婦にAI監視社会からの逃亡をはからせるのである。
ポッドがある日パカッと割れて赤ちゃんがポコッとうまれるだけの無感動きわまりないはずの出産?!を、これだけ感動的なシーンに見せた監督の手腕はなかなかのものだ。エンドロールの途中におけるペガサス社CEOの意味深な発言「赤ちゃんが親を選べる時代へ」に寒気がしたあなたは、アメリカのIT企業が喧嘩を売っている真の相手が“神”であることを知るだろう。
ポッド・ジェネレーション
監督 ソフィー・バーセス(2023年)
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