ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ヤクザと家族 THE FAMILY

2024年09月16日 | ネタバレなし批評篇

ファミレスでアルバイトをしていた先輩から聞いた笑い話である。深夜ヤクザらしき4人組が入店してきて、座席で堂々とジャブをうちはじめたらしいのである。それを見た伝説のフロア係がお冷やをテーブルに置きながら「お客さん風邪ですか?」とジョークをとばしたところ、その場で思いっきり殴られて前歯をへし折られたらしいのだ。監視カメラがいたるところに設置されている現代では考えられない、おおらかな?時代があったのである。

(ジェイソン・ボーンかスカイフォールを連想させる)開始から中盤まではまさに昭和の残り香がまだ漂う古臭いヤクザの世界が描かれる。ジャブでしのぎを得る腐ったヤクザvsジャブには一切手を出さない真っ当な?ヤクザの抗争劇だ。チンピラだった(綾野剛)を拾ってくれた親分(舘ひろし)のために身代わり出頭、臭い飯を喰らって10年刑期を終えて出所してみれば、ヤクザ稼業ではまったく飯が食えない世の中に変わってしまっていた。まさにヤクザ版ドキュメント72時間、喪失感をテーマにした今風の作品だったのである。

刑務所に入る以前はあんなに大勢いた組員も、今や末期ガンの親分を入れて4人だけ。ご法度だったシャブ販売に頼らなければ、ヤクザとて生きていけないご時世にすっかり変わっていた。暴対法にくわえ元組員は5年間、携帯の契約も保険にも入れないという条例に縛られて、社会そのものからパージされてしまうのである。逮捕前いい仲になったゆか(尾野真千子)や弟分の細野(市原隼人)も、過去を清算するために山本から距離を置こうとする。そんなヤクザにとって逆風が吹きつけるなか対照的に、法を逆手にとって半グレと化した翼(磯村勇人)だけが羽振りがいい。

つまり、国家だけが法の名のもとに暴力をふるえる時代が、遅ればせながら日本にもいよいよ到来したということなのだ。ヤクザをしめつけ社会からパージすることによって、代わりにその椅子にすわったのは紛れもないその“法”なのである。この落ちぶれた柴咲組が、西側ら受けた経済制裁という暴力により、世界を動かすシステムからパージされようとしている(結果は思惑とは逆に転びそうだが)プーチンのロシアに重なった方も多かったのではないだろうか。

しかも、その暴力効果は元組員の本人のみにとどまらず、ネットへの書き込み等によってまたたくまに家族にまで及んでしまう、何とも恐ろしい時代がやって来てしまったのだ。だが実社会は(すでに皆さんご経験済みと思われるが)家族にも知られたくはない非人道的な行為を求められるブラック業務がほとんどという、血も涙もない世の中なのである。「お父さんってどういう人だったの?」かつての翼と同じ質問をしてきたこの少女もやがて、世間の泥にまみれていくのだろうか、その父と同じように.....

ヤクザと家族 THE FAMILY
監督 藤井道人(2021年)
オススメ度[]


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