昭和12年に上原敏さんが歌われた「流転」。このアルバムの中で唯一戦前の股旅ものです。上原さんの曲、Kiinaはデビューの年のミニアルバムで「妻恋道中」をカバーしていましたね。
https://columbia.jp/artist-info/hikawa/discography/COCP-32206.html
歌詞は歌ネットより。作詞藤田まさとさん、作曲阿部武雄さん。「妻恋道中」と同じコンビです。
https://www.uta-net.com/song/17305/
今の時代では分かりにくい歌詞が出てきます。
「三七(さんしち) 二十一(さいのめ)くずれ」
さっぱり意味が分かりませんでしたが、よく拝読させていただいているブログに説明がありました。
二十一はサイコロの目の1から6までを足した数。九九を使って「三七 二十一」なのだそうです。
その前の「男命を みすじの糸に」との関係もよく分かりませんでした。
歌詞を読んだだけではどうにも曲の意味がつかめずモヤモヤしたままだったので、何年か前に曲の成り立ちを調べました。Kiinaの歌う曲は、すべてストーリーを目に浮かべて味わっていたかったので。
この曲の原作は、後に「敦煌」や「風林火山」などで大家となられた井上靖さんが大学を卒業してすぐに週刊誌の懸賞に応募して優秀賞を取った、いわば作家としての第一歩を踏み出すきっかけとなった時代小説でした。
単行本にはなっていないので、「井上靖全集」第8巻を取り寄せて読みました。
主人公は歌舞伎の三味線奏者で、成り行きから人を殺めてしまい、追っ手を逃れてやくざに身をやつして旅に出るが、最後に死の間際に追究していた芸を完成させる。
というわけで、原作自体は股旅ものというより芸道ものでした。小説の中には博打うちのシーンなどヤクザの暮らしはほとんど出てこなかったと思います。
この小説が発表された翌年には同名の映画が制作され、上原さんが主題歌を歌われました。
何だか歌のテーマがよく分からないと私が思ったのは、本来は芸道ものである原作のストーリーを、少し無理をして股旅ものの歌に仕上げた印象があったからかもしれません。
曲調も、どちらかと言うとゆったり淡々と流れていく感じです。特に歌の前半はKiinaの低音がよく響いて、そこが他の股旅ものにはない魅力になっているように思います。
余談ですが、戦後赤木圭一郎さんがこの曲をカバーされていたそうですね。
21歳で夭逝された赤木さん。私はKiinaが25歳で「流転」をカバーしたのでも「もっと後でもよかったのでは?」と思っていました。
それよりもっと若かった赤木さんはどんな風に歌われたのでしょうね。