空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

「(一見無知に見える)根本的な問いを発して、さらに深い議論を促す」手法について

2022-03-20 19:30:37 | ノート






 この件、素朴な疑問との弁護があるが



 素朴な疑問とは言いかねる。

 このsaebou氏の疑問は「正直、日本の政府が人道上の危機とか外交上の重要な局面とかで何かの役に立つとは到底思えない」という当人の価値判断がまずあり、この世界認識の上でなお「ウクライナの大統領が日本の議会で演説したい理由」を尋ね、その理由として例示してみるのが「ロシアの隣国だから?」「アジアでふつうに国会会期中で当たりさわりなくできそうな国があんまりないから?」といった理由という、どうも妥当な理由とは思いにくい、なんとかひねったらしき文言を連ねるのは不誠実に見えるというわけだろう。

 日本。世界第三位の経済大国。世界の軍事的な危機に兵隊を決して出さない「平和」国家。兵も兵器も出してくれない国だということは自明と言っていいが、金満国家ということができる。そもそも人道上の危機でカネくらいしか出さない国だろう。ならばカネの援助を求めるというのは第一の理由に上がってもよい。

 既に防弾チョッキの提供があった。その手の防護的ななにものかの追加援助を求めるのもアリだろう。

 そしてなにより、難民危機に際して、その受け入れ・現地での資材の援助を求めるのは当然想定されよう。おんなこどもだけ先に逃がしたのだ、その保護は―フェミニズム的にも重大課題のはずなのだ。

 そして経済制裁にコミットした状態であるからには、その経済上の―しかもかなり根本的なところから〆たようで―ひいては外交上の意義も無視できない。

 これらは社会に関心があれば、まあ多少気の利いた高校生くらいから言えることだろう。なぜ社会学の中でも先端的なフェミニズムの闘士、高度な文献読解能力を要する英文学の大英雄がこうまで基礎的な発想を排除できるのだろう、というのは合理的な疑いのうちに入るだろう。

 そうした無理筋に思えるだろう疑問の根幹には「正直、日本の政府が人道上の危機とか外交上の重要な局面とかで何かの役に立つとは到底思えない」との判断があるわけで―素朴な疑問とはいえない。特段の政治思想に基づく発言というべきだ。


特に今回に関しては、向こうは国と民族の存亡がかかってるんだから、どんな些細なことでもできることは全部やるわけで」という見解もあるが、さてその仰る些細なことのお相手として選ばれた国々は既に知られた通り、米国、英国、ドイツ―超大国様に欧州の大国様がたであり、そのような国々の後ではあれ、しかしその他の重要国家―たとえば中国。アフリカならエジプト・南アフリカが筆頭だろうか。南米であればブラジルを挙げるのが先か。またインドを忘れるわけにはいくまい―に先んじて日本というのは―

 ―「人道上の危機とか外交上の重要な局面とかで何かの役に立つとは到底思えない」国家相手には、なかなかに過ぎたる位置ではなかろうか。

 つまり、むしろ「人道上の危機とか外交上の重要な局面とかで何かの役に立つ」と期待されての順番である可能性が相応に存在すると見るべきであって、saebou氏はこの可能性に想到することを拒否する・拒絶する、あるいは思い至らないために「素朴な疑問」に至らざるを得なくなったと評価しうる。ここには不誠実か想像力の不足か、そのようなものが存する可能性を指摘できるのである。



 まあ、こういう手法だというのはそれなりの同業者なら思い浮かぶわけですが。
 今回、赤城先生や人先生などが上手くし遂げているらしいのと違い、この点でも評価点は厳しくなるでしょうね。

 ―今回の場合、「役立たず国家になんでわざわざ演説しに来るんだと思うー?」という投げかけに対して「役立たずじゃないからでーす!」という解答が想定しうる。そこで「はい、よく考えてみましたね。ではどんな役に立つのか、先生が解説しまあす!」という方向性に…行ってないっぽいなあ…。

 …あるいは「みんなが『このことで日本は役に立ちました!』と言っている、これはスカだしこれはダメだし、演説コストに比してペイしませんねー?」という説明も可能だが、「しかも喋るなんてほぼノーコスト」という見解もあり、まあ…ペイするという見込みなのだろうなという落ちになりそうだ。

 詰んでないかな、というわけなのだ。



 とまあ。
 ウクライナのマジ加減というのはまあ…ちょっとまあ…想像しかねるレベルかと思われ、「大学のゼミなんかで教員がよく用いる「(一見無知に見える)根本的な問いを発して、さらに深い議論を促す」手法」を十全に駆使して人道上の危機をのりこえるため一般の意識喚起に尽くしていただければ、と思う。

 私は授業で実施するので、web上ではさほど論じない。
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