3日ほどの間に、落花生の株がすべて掘り起こされ、実のほとんどを何者かにかじり取られてしまったそうだ。たぶんハクビシンの仕業だろうと言う。夜行性の動物だから、姿を見てはいないのだが、土の掘り方や実のかじり方で判るらしい。
私の菜園の落花生は青々と茂り、被害をまったく受けていない。と安心した数日後、茂った葉で覆い隠されていた株もとの土が堀り取られ、落花生の根がほとんど露出しているのを見つけた。根の先端の実が大きなものから順にかじり取られれていて、残っているものはごく小さな実ばかりだった。憤慨して全部の株を掘り抜いて、その跡を耕しておいた。
翌朝、掘り起こされて柔らかくなった畑土に点々と彼等の足跡が印されていた。前夜も食事をしようと訪れたようだ。
10数年前に夜道を歩いていたハクビシンを捕らえたことがある。人になつかず、ペットに不向きの可愛いげない生き物だった。獣医の指示で結局森に逃がしたが、我々はこれを食用にしないし天敵もいないようだから、当時より数は殖えているかもしれない。
この話を人にしたら、ハクビシンなどはまだ良い方で、猿が殖えている山村では、連中が畑の作物を両手に抱えて遁走する姿を度々見かけることもあるという。
そういえば、ある山の登山口の農家で、柿の木に猿どもが群がっていたのを見たことがある。柿の実を少し囓っては捨て、次々に新しい実を漁り続けていた。
自然豊かな高原へ移住して、老後を作物つくりで楽しむ夫婦の姿がよくテレビで放映されるが、あれは現実を全て伝えていないのではなかろうか。害獣の出没に手を焼いていることなど、編集でカットされているかも知れない。
くだんの猿たちは、屋内にまで入り込み、ひとり留守番をしている老婆を尻目に、食物を奪い去るのが常習的だと聴いた。豊かな自然とは、人間にとっては過酷な生活環境ということでもある。
かつて度々訪れた、南信の標高1500mの高地にある集落「下栗の里」では、営農している家の主は殆どが猟師を兼ねていた。
狩猟採集時代はともかく、農業という生産形態が定着して以降の日本の狩猟は、仏教の教えの下で食物獲得の目的よりもシカやイノシシ、ウサギなどの害獣から畑を守る目的が主であったようだ。直接畑に来た害獣を捕殺するばかりでなく、山野で草食獣を狩り、それらの個体数を減らすことも、自分たちの畑を間接的に守ることになる。また草食獣は、林業においても苗や幼木を食害する害獣として防除の対象である。
昔の山間地での畑作がどれほどイノシシやシカの被害に悩んだかは、猪垣(イノガキ)、鹿垣(シシガキ)の名称や遺構の存在が物語っている。
今は忘れられているが、古来農業は、病害、虫害に加え、獣害という災厄と共にあった。日本の山岳地方にある山犬信仰も、イノシシやシカの天敵である山犬(オオカミ)に、畑(焼畑)の作物を守ってもらいたいという、山で暮らす人々の切実な願いから生まれたものだろう。オオカミが害獣として人々に憎まれてきた牧畜農業のヨーロッパと対照的な扱いだ。
ハクビシンは爪が鋭く、猫が登れない直壁をたやすく登るというから、垣や柵を築いても効果はなさそうだ。
さしずめ、古人に倣って犬に頼るのが最も効果的だろうが、放し飼いができない昨今ではそれもならず、来年も落花生づくりをするなら、何か有効な策を講じなければならない。
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