展覧会名:メナード美術館30周年記念コレクション名品展 30のテーマ Ⅰ期(1~15)
場所:メナード美術館(愛知県小牧)
期間:2017.10.01~12.24
訪問日:2017.12.09
Ⅰ期で扱われているテーマ
1.人の造形ー西洋彫刻 2.島田順三とメナード美術館
3.美しい女たちー西洋絵画 4.コレクションの旅
5.子どもたち 6.日本画壇ー東と西
7.四季を描く 8.近代工芸
9.日本の油絵 10.梅原と安井
11.熊谷守一 12.印象派
13.20世紀の美術 14.20世紀の美術革新
15.語る静物
メナード化粧品の創業者が蒐集したコレクションを展示しているメナード美術館は、名古屋から少し離れた小牧にあるが、粒ぞろいの美術品を所有する素敵な美術館である。コンパクトだが、混まないので作品を丁寧に見ることができる。
今年30周年ということで、コレクションから30のテーマを設定し、2回に分けて展示することになったとのこと。招待券を入手したので、まずⅠ期の展示を観にいくことにした。
展示は、各テーマ数点づつで、全体で約80点ほど。展示品についてはメナード美術館のHPにちゃんとしたリストがあるので、確認されたい。
http://museum.menard.co.jp/exhibition/ex_index/list/list.html
それぞれのテーマで、いい作品ばかりでのんびりと鑑賞させていただいた。
公式パンフレットの表紙がマネのマルタン夫人だし、3のテーマに最も力を入れているようだったので、ここでは女性に関わる展示について、記載する。メナード化粧品の美術館だから、女性を描いた作品に力をいれるのは当然のことか。
まず、別枠で全体の展示室の真ん中の小部屋に展示されている、舟越桂作の彫刻「月の降る森」 証明が凝っていて、やや緑光る感じで展示されている。欅の一木彫で、胴体は、細かい彫のタッチのままであり顔はつるっと磨かれている。長い首の上に載った顔は、エジプトの女王ネフェルティティを思わせる。
この美術館は大きな森に覆われていて、彼女が森の聖としてとして鑑賞している私たちを見守ってくれる・・・ そんな感じがする。
2章の美しい女たちのところには、11人の女性が並んでいる。その中から紹介するのは4点。
展覧会の目玉のマネ作「黒い帽子のマルタン夫人」
軽やかなパステルで描かれた絵。すべてに恵まれて望みは全てかないそうな、上流階級の美しい屈託のない明るさを描いている。知的な好奇心いっぱいの眼がとても魅力的。そこにわずかに使われたブルーのパンチ力がすごい。
ボナール作 「青いジレを着たブロンドの女」
俯いている仕草が現代のイラストに出てきそう。視線を見せない金髪、暖かい色の頬が魅力的。ボナールはポスト印象派とモダンアートの中間に位置し、ジャポニズムの影響を非常に受けた人とのことだが、色合いが私にとてもしっくりくる。
ピカソ作 「オルガ・ピカソの肖像」
オルガさんと結婚し生活していたころは、ピカソはある意味古典的な絵を描いている。それは、オルガさんが古典的な美しさを持っていたからとのこと。病死した後は再び抽象的な絵に戻る。この絵は最初スルっと通りすぎたのだが、眼の輝きが気になって戻ってきました。後でじわっと来る絵です。この眼の輝きは、実はピカソの眼の反射かもしれません。
ロセッティ作「肖像」
ロセッティ自身が好きだと気付いた時には、他人と結婚することになっていて、手が届かなくなったあこがれの人。パステル独特の輝きの中に描かれている。イギリス女性の逞しさと意志の強さをむしろ感じます。 そして画家がこんなにモデルが好きだっていう感情を出した絵を描いて、大丈夫だったのと思います。
5章の子どもたちの中に、純な少女がいる。岸田劉生作「笑ふ麗子」
子供の頃、家にあった画集でこういった麗子さんの絵をみた時、こんなに描かれた子はかわいそうと思ったけれども、確かに誇張して描けばこんな感じの子はいるなって思った。今でもちょっぴりかわいそうとは思うけれども、日本の田舎の子供のかつての純粋さの象徴の表現と感じる。そしてこの笑顔の屈託のなさ。時間の流れの速さを感じる。
6章の日本画壇の展示は、前田青邨や村上華岳など渋い作家が並んでいるが、その中にも女性がいる。 安田靫彦作 「王昭君」
漢帝国がまだ辺境からの侵略に対抗できなかった頃、その懐柔のために女性を辺境に貢ぐことが行われていました。賄賂を使わなかったためにそれに選ばれてしまった王昭君、毅然として運命に立ち向かい気高く王に挨拶に行くところです。それを戦後の女性の強さと重ねて安田さんは描いたとのこと。
シンプルな構成に、女性の強さ、美しさが輝いています。
9章の日本の油絵、坂本繁二郎の馬、岡鹿之助の森の館などが並んでいるが、ここに日本の洋画の肖像画の流れを決めた絵がある。藤島武二作「西洋夫人像」
藤島さんは、西洋の絵画技術の導入のために、黒田清輝さんと同様に西洋に留学した人。これはその時にパリで描かれた絵。帰国後は、画家であるとともに東京芸術大学の教授として、また帝展等の重鎮として、国内洋画の指導的役割を担った。
ある意味、日本国内の洋画教育の源流がこの絵にあるといっていいのではないか。良しに着け悪しきにつけ多分そうなのだと思ってみると、味わい深い。
12章には、セザンヌやゴッホ、モネ、ルノアールが並んでいる。特にセザンヌの子供の絵がすごいが、流れに従い、ルノワール作 「読書する女」
ルノワールにしてはおとなしい、でもゆったりと柔らかい絵。日本人好みの顔ではないかもしれないが、優しい顔でほっとする。
13章には2点の女性の絵。その他にはピカソの牡牛の頭やブラックのテーブルクロスなどがある。
まず、マティス作 「ヴェールをかぶった女」
マティスの絵は、私にとっては当たり外れがあるがこれは当たりの絵。多分マティスの発想
についていけるかどうかで、決まるのだろう。
背景の赤、黄、緑をぶつけて遊んでいる。薄いベールの中の肌色が非常にきれい。眼、口、眉がとっても楽しい。勝気できつい言葉がポンポン飛んでくるかもしれない。全体から完成か不完全かわからない。こういった絵を見ると、画家は完成をどうやって決めているのだろうと
いつも思う。
続いてルオー作 「女曲馬師」
マティスと並んでいるのを見て、とても面白いと思った。2人はフランスの美術学校の同級生、そして2人ともギュスターブ・モローに師事している。それがこれだけ違う絵を描いている。私はルオーは大好きでブリジストン美術館のコレクション等で かなり鑑賞しているがこれは初めて。
ルオー独特の茶の肌と黒い輪郭に、女性の控えめな優しさと、それにも関わらず身体の逞しさが描かれている。髪飾りが実際の絵では輝いている。
14章には、クレパスおよびグアッシュで描かれた絵が並び、画材による表現の違いが比較されている。グアッシュって何だろうと気にしながらも、不透明の水彩絵の具と知ったのは、それほど古いことではない。
ドガ作 「踊り子たち」
先日の「北斎とジャポニズム」展でもドガの絵が出てきたが、これもポーズのリアルさが生きている。中央の女性よりも右側の女性のポーズに、特にリアルさを感じる。次の瞬間軽やかに踊りだすかもしれないが、待っている間は力をためている力強さを感じる。
ここでは、女性たちばかりについて示したが、のんびりといい作品を見るのにはとてもいい展覧会である。宝物がたくさん並んでいる。
例えばアンソールの「仮面の中の自画像」 ピカソの「静物=ローソク・パレットと牡牛の頭」、セザンヌの「麦藁帽子をかぶった子供」岡鹿之助の「森の館」なんかは見るだけでどきどきする。 でもこれらはまたいつか紹介できるだろう。
ここの美術展の課題は、見終わった後の余韻に浸る場所が周辺にないこと。美術館提携のレストランは遠すぎるし、そんなに雰囲気に合っているとは思わない。
やはり、芸術品を身近に感じるところで、お茶を飲みたい。喫茶室を併設すればいいのに。
一度は行ってみたいなぁ♪
小さいけれども、とても落ち着いていい絵を鑑賞できる美術館です。
かつて神戸に住んでいましたが、名古屋駅からだったら、神戸駅から六甲の美術館に行く感じの距離です。