<トライアローグ展 名古屋のポスター>
(左:ルネ・マグリット 「王様の美術館」Y
中央:パブロ・ピカソ 「肘掛け椅子の女」T (1923)
右:アレキサンダー・カルダー 「肩肘ついて」A
Yは横浜美術館、Tは富山県美術館、Aは愛知県美術館
(左:ルネ・マグリット 「王様の美術館」Y
中央:パブロ・ピカソ 「肘掛け椅子の女」T (1923)
右:アレキサンダー・カルダー 「肩肘ついて」A
Yは横浜美術館、Tは富山県美術館、Aは愛知県美術館
前回は愛知県美術館のコレクション展を紹介したが、今回はその時の本命のトライアローグ展を紹介する。 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館は1980年〜1993年の間に公立美術館として成立し、個性を出すために地域の美術蒐集とともに、海外美術については1900年以降の西洋美術を蒐集した。蒐集時期も2000年程度までと共通している。
その3館が各館の選りすぐりの品を並べ、20世紀西洋美術の流れを俯瞰しようというのがこの美術展の趣旨。ピカソ、ミロ、クレー、エルンスト、ダリ、マグリット、ポロック、ベーコン、ウォーホル、リヒターなど、美術の概念を刷新しながら多様な表現を生んだ巨匠たちの作品約120点を一堂に会させている。
日本の公立美術館すごいじゃないと思わせる、とっても贅沢な美術展であった。
展覧会名:トライアローグ 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション
場所:愛知県美術館
期間:2021年4月23日(金)~6月27日(日)
惹句:3館、推しコレ、全部出し
語らう三つのコレクション
ピカソもミロもウォーホルも
構成:
第I章 1900s- アートの地殻変動
第II章 1930s- アートの磁場転換
第III章 1960s- アートの多元化
19世紀末の印象派の後、新しい芸術運動が生まれ、戦争の影響もあり美術の主流がアメリカへと移り、現在の美術の多様性へと流れていった過程が示されている。
たくさん紹介したいことがあるので、今回は第1章のみを紹介する。
第I章 1900s- アートの地殻変動
印象派の後の、よりいっそう描きたいものを求める新しい美術潮流、フォーヴィスム、キュビスム、ドイツ表現主義、ダダイスム、ロシア構成主義などの作品が作品を順番に展示されているとのこと。なお1900sと書かれているのは、1900年頃から活動が顕著になった作家を意味している。
作者名でいうと、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、フェルナン・レジェ、アンリ・マティス、エドヴァルド・ムンク、バルテュス、ヴァシリィ・カンディンスキー、パウル・クレー、ハンス(ジャン)・アルプなど。
この中でピカソ、パウル・クレーを3館とも展示していた。
ピカソは、やっぱり20世紀美術の美術館なら必ず持っていなければということで、頑張って所有したものと考える。4枚並んでいたが、それぞれがピカソの違う時期、違う手法で描かれたもので、とても面白い。
ポスターに入っている1枚を除く3枚は下記。
<ピカソ作品>
左:青い肩掛けの女 (1902)
中央:肘掛け椅子で眠る女 (1927)
右:座る女 (1960)
(横浜美術館開催ポスターの引用)
左:青い肩掛けの女 (1902)
中央:肘掛け椅子で眠る女 (1927)
右:座る女 (1960)
(横浜美術館開催ポスターの引用)
ポスターのものが、時代的には左と中央の間に入るが中央とほぼ同時期で、前者の具象と後者のキュビスムの絵をほぼ同時に書いていたことになる。そしてより高齢になった右の絵では、キュビスムが無機的になってくる。
ピカソは1881年生まれだから、左の青の時代のものは青年期で、女性を一生懸命愛したり振られたりした時の振られた気持ちで書いたもの、中央とポスターのものは壮年で女性を愛らしいと思ったりエロチックな塊と思ったりして描いたもの、右のものは高齢になって女性を物質とみなして描いたものといったイメージが膨らむ(自分の想像)。
そしてパウル・クレー。渋い色や踊る線が特徴で日本人の好みとされているが、これについては5枚展示がある。そのうち3枚のカラフルな色彩のものを愛知県美術館が持っていて、一見版画かと思う踊る線が強調されているものを他の2館が持っている。
実際に線は別に描きそれを転写するといった技術を駆使している。次の作品がその例である。
<レールの上のパレード> 1923 T
転写されたので、一般の筆のタッチの主張のない線が、逆にいかにも自由で楽しそうに踊っている。
そして、カラフルな愛知県所有のもの3枚。通常展示になったらちゃんと見よう。
左と中央は第一次世界大戦後に母国ドイツで描いていたもの、右はナチスに追放されて描いた晩年の作。
<色彩豊かな クレーの作品>
左:女の館 (1921) 中央:蛾の踊り(1923) 左:回心した女の堕落(1939)
左のものは、多分ドイツがワイマール共和国などで気分が高揚していた時に描かれたものだろうが、眼をつぶっていて光のイメージを躍らせたように感じる。中央は細かく色を変える中間色の舞台の中でダンスをしている女性が、飛び上がろうとしても下へ向かう矢印の引力で飛び上がれない切なさを感じる。ナチス台頭などの不安がそこにあるのかもしれない。そして追放後の右、柔らかい太い線だが、人生を振り返って何が悪かったのかと悔やんでいる切られて血だらけになった精神を感じる。
どの作品もA3ぐらいのコンパクトなサイズで、威圧的でなく静かにそこに収まっているというのも日本人むけなのだろうか。
その他の作品も有名作家ばかり。その中で特に印象に残ったものを列挙する。
まず マティス。曲者ぞろいの部屋のなかに、爽やかな風を運ぶ窓があった。
<アンリ・マティス 「待つ」> 1921-2 A
ムンク。 木版版画、絵画もあるとのことだが、ムンクは版画の線の方が隔絶した魂を感じて怖い。
<エドヴァルド・ムンク 「月光」> 1901 T
カンディンスキー。抽象画の発明者の一人と言われている人。色彩とパターンだけでも音楽のように感情に働きかけることができるとした人だが、この人の作品は確かに、パターンを眼で追っかけるリズムや色彩のハーモニーがある。
<ヴァシリー・カンディンスキー 「網の中の赤」> 1927 Y
例のトイレを「噴水」と名付けて美術展に応募したデュシャン。映像作品も作っていたとは知らなかった。本当に時代を先取りしている。7分程度でぐるぐる回るパターンを映している。現在の映像に比べると単純だが、いろんなパターンを作っていて非常に工夫している。当時の人はこれにも驚いたろう。
<マルセル・デュシャン 「アネミック・シネマ」> 1927 Y
第1章で挙げられた作家たちは購入時期にはほぼ評価は定まった人達である。美術館としての目玉をもとめ、3館とも競って有名作家の作品を買ったのだろう。
ここで用いた作品は、ピカソ以外は権利が切れ自由な使用が可能との記載があるもの。(ピカソはポスターからの引用とした。)
美術館で写真を撮ることができるということもうれしいが、権利の状況が示されているのもうれしかった。
とてもいい美術展でした。あまりお客さんがいず、じっくりと回ることができました。
ここには何度か展覧会を見に行ったことがあります。
今の時期にこのような展覧会があって、よかったですね。