2月12日(月)建国記念日の振替休日 晴れ時々曇り
* 哀しい追憶 *
階段を降りると 湾曲した道路に沿って
貧弱な鉄パイプのガードが続く
駅前のちょっとした広場・・・
広場の隅に 身をかがめながら 片足のない人…腕のない人…杖を突く人…
白い装束に兵隊帽を目深に被り その前に小さな箱を置いて アコーディオンを弾き
道行く人を焦点の無い穴の様な瞳で見つめていた人々
気味が悪いのと好奇心とが入り混じった不思議な気持ちがした
広場を海の方に下ると ドブの臭いがする路地が何本かあった
いつも入る路地は決まっていて
私は母の後ろを さも楽し気に スキップをしながら追いかける・・・
大きな重いガラス戸を開けると 耳をつんざく大音量
小さい私は すぐ 凸凹に剥がれたコンクリートの床に這いつくばり
銀色の球を探す・・・
台を見つめ必死な男たちは 下ではい回る私に驚くが
すぐに台に視線を移し また一人享楽の世界に没入する
私は・・・と言うと
凸凹の床に落ちているパチンコの玉を 一生懸命に探す
男たちの足元を這いずり回って
ひたすら銀色の球を探す・・・
一つ二つ見つけると 急いで立ち上がって
母のもとに駆け寄り 得意げに手を広げた
母に褒めてもらいたくて・・・
何度も何度も 床を這いずり回っていた
母は その銀の球を自分の手でなすぐって汚れを落とし
傍らの男に とびっきりの笑顔で渡す・・・
母の赤い唇が 今でも脳裏に浮かぶ
駅前の傷痍軍人
路地のドブの臭い
赤い唇
哀しい追憶…