消滅時効第一回
債権の消滅時効の要件
(1)債権の不行使の意義
(消滅時効の進行等)民法第166条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
☆「権利を行使することができる時」の意義 「債権を行使」することについて「法律上の障碍が無くなった時」と言う意味である。
☆「障碍」の意義
①病気や海外にいたことは「障碍」にはあたりません。行使の手段はあるからです。但し、前述したとおり天変事変などのときの「時効の停止制度」があります。
②債権者が行使出来る状態になったかと言うことも考慮されません。但し、不法行為による損害賠償請求の短期の場合は例外です(民法第724条)。
③債権が差し押さえられたり、質権に入れられたりしても「障碍」にあたりません。質権者などがその債権の取立てが出来るからです(民法第367条)。同様に、「同時履行の抗弁権」を使われても、債権が履行期にあれば債権の講師は出来るのです。
(2)債権の不行使による消滅時効の進行期間
①確定期限の在る債権 期限が到来したときから進行する。
②不確定期限の在る債権 上と同じ。債権者の期限の不知は理由にならない。
③期限の定めの無い債権 債権の成立時から進行する。「返還の時期を定めない消費寄託契約」などは、契約成立のときから進行します。「遅滞」に陥るのとは違うからです。
④「履行を請求」するのに、「債務者に解約の申し入れ」をするか、または「請求の通知」をして、その後一定の期間を経過してから請求できる債権があり、「通知預金」などがその債権です。無論、請求出来るときから時効が進行するのですが、通知もし無いで放っておいた場合は、契約のときから相当の期間をおいた時を起点とて時効が進行するとするのが判例・通説の見解です。契約時点から解約の通知が可能であるからです。
⑤停止条件付債権
条件成就の時から進行する。
⑥期限の利益喪失約款附債権
割賦払い債権などには、『一回でも弁済を怠れば、直ちに残額の支払いを求めることが出来る』ということが約款に書かれていることがあります。このような契約による債権を「期限の利益喪失約款附債権」と言うのです。一回支払いを怠った場合、残額についての消滅時効は、期限の定めの無い債権と同様に考えるべきだとする意見もあるが、通説・判例は改めて残額全部の請求した時点にするかどうかは諸般の事情を解釈して決めるべきであるとしている。
(3)時効期間
普通の債権の消滅時効は十年(民法第167条1項)、商事債権については五年とされています(商法第522条)。問題は、民法などに規定される「短期消滅時効」に掛かる種々の債権があることです。このような債権の存在意義は各自考えて貰いたいのだが、債権者にとっては、取り損ないを生じる厄介なものと言えます。
①定期金債権(年金債権など)
「定期に一定の給付を請求できる債権(支分権)」を生み出す基礎的債権です。「支分権」として定期的に具体的に請求できる債権とは峻別されなければなりません。売買代金のように、一定の債権を分割払いにするようなものとは違います。この「定期金債権」には時効期間が二つあります。
(定期金債権の消滅時効)
民法第168条 定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
毎期分の支分権としての債権は独立の債権となって十年の後に消滅することになるから、1項の後半の規定は無用なものと看做される。
②定期給付の債権(利息、賃借料、地代、給料など)
(定期給付債権の短期消滅時効)
民法第169条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
これには、上述の定期金債権で支分権とされたその都度の給付金などの債権も含まれる。一ヶ月以下の期間による雇い人の給料については時効期間を一年とすることに留意する必要がある。
③三年の時効に掛かる債権(医者の治療費、大工の工事費用など)(民法第170条、民法第171条)
④二年の時効に掛かる債権(弁護士費用、学校の授業料、理髪代、給料など)(民法第172条)
民法第172条 次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
問題はこの条の一号に書かれている「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権」と言う内容である。売却した相手は消費者に限らず、転売を目的とした卸売商人に売却した場合も含まれるとした判例がある(大判昭和7年6月21日民集11巻1,186頁)。これに対する反対説も有力である。
尚、上記判例の卸売商人には魚市場の問屋などが入るかと言うことに関しては、判例は、問屋は自分の名において販売するが、自分の名において販売するもので無いと言う理由で否定的に解している(大判大正8年11月20日民集25巻2,094頁)。これにも反対説がある。
⑤一年の時効に掛かる債権(運送費、旅館や料理店の宿泊費や飲食代、動産の損料、一ヶ月以下の雇い人の給料や労働報酬など)(民法第174条)
⑥確定判決があった場合
(判決で確定した権利の消滅時効)
民法第174条の2 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
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