◆◆【我「老子」の私見を綴る】◆◆歸元第五十二

歸元第五十二

天下有始、以爲天下母。既知其母、復知其子、既知其子、復守其母、没身不殆。塞其兌、閇其門、終身不勤。開其兌、濟其事、終身不救。見小曰明、守柔曰強。用其光、復歸其明、無遺身殃。是謂習常。

天下に始有り、以て天下の母と為す。既に其の母を知り、復其の子を知り、既に其の子を知りて、復其の母を守れば、身を没するまで殆うからず。其の兌を塞ぎ、其の門を閉ずれば、終身勤れず。其の兌を開き、其の事を済せば、終身救われず。小を見るを明と曰い、柔を守るを強と曰う。其の光を用いて、其の明に復帰せば、身の殃を遺すこと無し。是を習常と謂う。

　

この世の森羅万象は「大道」から生まれたものであり、「大道」はこの世の森羅万象の根源であり、この世のあらゆる物象の母である。既にこの世の総ての根源が「大道」にあるとするならば、この世のあらゆる物象は「大道」より生まれた子となるので、其れ等のあり方は「大道」が如何なるものかを分らなければ知るべくも無いのである。欲望を抑え込むことは「大道」に遵うことであるので、欲望が生じないよう日頃切磋琢磨することで、一生余計なことに煩わされることを無くせるのだ。欲望に振り回されて生きれば、生きることの本質を見失い一度しかない人生を無駄に生きてしまうことになる。物事の様相を有るが儘に詳しく見極め，其処に或る種々の事情を知ることが微か乍も出来るものを「名」と言い、弱いものを護り続けるものを「強」と言う。事に当たるに出来る限りの知恵を絞れば禍転じて福と成すことも出来よう。常日頃「道」に遵い慣れ親しむことで、こうしたことも可能となる。