意思による楽観のための読書日記

すでに起こった未来 P.F ドラッカー *****

「すでに起こった未来」を考える

『結果の中に見出されるものは、既に原因の中に芽生えている』、読まれた人も多いと思います、「すでに起こった未来」は P.F ドラッカーによる1994年発刊の著書、そこに記された言葉です。

一番分かりやすい例としての人口構造の変化は、労働力や市場競争、社会の構造に基本的変化をもたらします。人口の変化は短期的ではありませんが、その影響は結構早く表れるのです。例えば、小学校校舎が余っている、と言う話しを地方の過疎地区ではよく耳にします、これは少子化が始まってから5~6年後には影響が現れます。逆に待機児童が多くて入れない、という保育所、こちらは後手に回る行政や政治の問題もあるかもしれませんが、第二次ベビーブーム世代の出産、女性労働人口の伸びと経済不況、都市部での人口の伸びなどの複合要因があると考えられます。企業にとっては対応すべき社会、経済、環境に大きな影響があると言えます。

下記URLから、人口構成グラフを見てみてください、総務省統計局が提供する日本の平成20年度の年齢別人口構成です。59―61才の第一次ベビーブーム世代の女性が専業主婦だったのに対し、第二次ベビーブーム世代である34―37才の女性は共働き、出産したの子供達の面倒を見る保育師の平均年齢は20―25才、支えきれないのです。このように人口変化は「すでに起こっている未来」であり、20年後には労働力人口や市場競争に重大な影響をもたらすことは間違いないのです。

http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2008np/index.htm 

今年定年を迎える世代の人口は226万人、今年入社してくる21才の人口は138万人、そして0才の人口は約100万人、これはどのような未来なのでしょうか。 

1. 人口減少
2004年に日本の総人口は1億2778万人でピークを迎えましたが、その後2009年以降は減少に転じており、この流れはしばらく続くと思われます。日本銀行の「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について」(2003年9月)によれば、就業者数の減少により、貯蓄率の低下と就業者数の減少から引き起こされる資本蓄積の減少から、マクロの経済成長率は次第に減少し、2020年代に入るとマイナスになると見込んでいる、といいます。世界人口は増加を続けていますので、日本経済が年率で1-2%の緩やかな経済成長を続けるためには、相当程度の生産性向上と海外市場開拓、そして海外からの労働力導入が必須なのです。ここから導かれることは、女性の社会進出のさらなる進展、ICT活用、グローバル対応、外国人の労働力増加などによる対応が考えられます。

2. 少子化
経済成長鈍化と社会保障へのインパクトは多くの方が指摘していますが、社会や家庭にはどのような影響があるでしょう。公立学校への入学者数減少は述べたとおりです。また、人口動態予測によれば、「2025年には平均世帯人員2.37人、単独世帯数およそ1,716万世帯と予測されており、これは1970年の単独世帯の2.8倍以上」、単独世帯数が増え、さらにシングル化が進むと予測されるのです。シングル化が進むので少子化も進む、これは実は相互作用になっていると考えられ、少子化要因でもある、不況と経済的負担、晩婚化、離婚増加などにより、シングル化と少子化は同時進行しているとも言えるのです。結婚と出産や育児に希望がもてる社会を作っていかなければこの流れは止まらないでしょう。

3. 高齢化
2008年度、65才以上の方は全人口の22%、75才以上でも10%以上となり高齢者人口の増大は、社会保障負担増が社会への大きなインパクトを持ちますが、それだけではありません。年金生活者は貯蓄を取り崩して消費にあてる機会が増えることから、マクロでみると貯蓄率は低下、貯蓄から資金調達をする企業の投資に影響が出るとも言われています。消費者の嗜好や企業の雇用スタイルにも影響があるでしょう。良い面を考えれば、シニア層による社会参加機会の増大です。先ほどの幼児保育などはシニア層の新たな活動として取り組むことが可能です。サプリメントなどの健康市場拡大や夫婦による娯楽の多様化も予想されます。

4. 世代間格差
年金の世代間格差が話題になりましたが、得をするかのように言われている世代の60才以上の方がおくった青春時代や働き盛りの時代はどうだったかというと、今よりずいぶん貧しく、不便な時代だったのです。今年定年を迎える方が小学校に入学したのは今から44年前の1956年、テレビはまだ家庭にはありません。そもそも家電製品で自宅にあるものはラジオだけ、なにしろやっと東海道線が全線電化され特急で東京-大阪間が7時間35分で往き来できるようになった年です。部屋の暖房は火鉢、炭とタドン(石炭などの粉を球状にしたもの)のコタツと湯たんぽ、冷房は団扇、冷蔵庫は大きな氷を入れた箱、風呂は都会では銭湯、田舎では薪の鉄風呂でした。この年あたりから始まった小学校での毎月の給食費は250円程度、1食10円、今のアフリカ最貧国以下だったのです。だから年金の不平等も仕方がない、ということではなく、世代間バランスで考えるべきポイントは、国民が享受する恩恵はその時点での国力の反映であり、人口や経済力、文化、国際的影響力などに依存する、ということだと思うのです。国力維持のためには人口を減らさない努力、これが何より求められます。

5. 地域間格差
2008年の調査では東京都の人口が全国の丁度10%、埼玉、千葉、神奈川も加えた東京圏が27%を占めており、名古屋圏(愛知、岐阜、三重)と大阪圏(大阪、京都、兵庫、奈良)を加えた三大都市圏で全国人口の50.7%と半分を越えました。沖縄県を除けば人口が増加しているのも三大都市圏のみです。雇用に引き寄せられて人口が地方から都会に移動している、地方文化に特色がある日本の風土が変わろうとしているのかもしれません。このまま無策では、都市部の住宅事情からシングル化も促進され、さらに少子化が促進されます。明治維新以降、富国強兵から殖産興業、経済発展と進んできた日本近代の舵取りを、環境保護推進、社会正義と経済のバランスという方向に切るときが来ているのだと感じます。ここでのキーワードは生物多様性維持、地産地消、裕福から健康へ、などです。

人口動態から「すでに起こった未来」を考えてみましたが、この応用編はいくらでも考えられます。

昨年流行した新型インフルエンザ、「すでに起こってしまった未来」だと思うのは、日本で世界の8割を消費するタミフル(抗生物質)と耐性ウイルスの出現です。また、中国などで鳥インフルエンザ対策としてニワトリに与えられている抗生物質、家畜に対し抗生物質を使用すると薬剤耐性ウイルスを発生させ、人の感染症治療を困難にするとも言われています。毎年流行を繰り返すのがインフルエンザですが、鳥・家畜・人の間で感染を繰り返して強毒化、次の流行では耐性化ウイルスの出現が確実視されています。

地球温暖化問題も「すでに起きてしまった未来」、中進国や開発途上国でも必ずこれから起きてしまう問題です。世界中で大雪、などというニュースを聞くと安心してしまいそうですが、温暖化は確実に進展しています。環境税対応、排出権取引、CO2削減技術、温室効果ガス測定技術などの基礎技術の上に、省エネ、自然回帰、農業見直し、新エネルギー、リサイクルなどを行う技術に着目すべきでしょう。

昨年、NHKの番組「プロフェッショナル」で目が不自由な日本人研究員(IBM)の活躍が取り上げられていました。労働力減少のために今後は障害者の社会進出が進むと考えられ、障害者に向けたWebなどの情報処理、ユーザインタフェース研究が重要になる、というのが注目点。Web情報の読み上げサービス、障害者インタフェースの工夫などが、読み書きができないその他の人のためにもなる、新市場開拓に繋がると思います。

アメリカでは在宅勤務が当たり前になってきていますが、日本でもこの流れは止まらないでしょう。在宅勤務を経験した方は分かると思いますが、紙を使わない仕事になるということ。オフィススペースの需要も経済減速とともに徐々に減退、自宅でのWebをベースとした暮らしに移行し、情報入手は紙媒体からWebに移行していきます。一方、新聞、テレビへの依存からWebによる情報交換にシフトすることで、企業が支出している広告費年間7兆円(全世界で70兆円)は広告代理店を通さず、B2Cへの直接チャネルを持つICT企業(GoogleやAmazonなど)に流れることになります。民間テレビ局や新聞社への広告収入をすでにWebによる情報発信を行う企業が奪っているというのです。「すでに起きてしまった未来」としては不況によるテレビ・新聞広告の減少があり、米国では地方新聞社の閉鎖が続いているとのこと、これらは元通りには回復しないと思われます。この広告市場にICT企業として如何に食い込めるか、日本における企業のICT投資2.5兆円を越える広告業界という巨大市場の奪い合いです。

18―19世紀にかけてのイギリスで起きたのが第一次産業革命、19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツでの重工業とアメリカでのT型フォードに代表されるのが第二次産業革命だとすると、20世紀末からアメリカを中心に起きているのはディジタル情報革命であり第三次産業革命だと言えるでしょう。この革命は、環境、社会、経済面から企業活動にも大きな影響を及ぼしています。民間企業だけではなく国家戦略、個人生活すべてにおいて「すでに起きてしまった未来」から戦略を考える必要があると考えます。
すでに起こった未来―変化を読む眼
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↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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