意思による楽観のための読書日記

日本人の勝算 デービッド・アトキンソン *****

筆者はイギリス生まれで日本在住30年、ゴールドマン・サックス金融調査室長を経て、現在は小西美術工芸社社長。日本の生産性は1990年代以降ほとんど伸びておらず、先進国中最低、その結果一人あたりGDP、一人あたり所得など軒並み低下してきている。筆者の指摘は、平成に入ってからの日本における経済政策は、すべて高度成長時代の人口増加モデル時代のパラダイムに縛られている、というもので、日本が世界一の高齢化と少子化を迎えている国にもかかわらず、あまりに平凡な対策に囚われている、最先端を進むという覚悟が微塵もない、というもの。デフレ対策は量的緩和で、という極めて視野の狭い提案では日本の未来は見えず、このままでは間違いなく三流先進国、悪くすれば途上国なみに落ちぶれてしまうという。

提言は3つ。1.生産性向上にコミットして高生産性・高所得資本主義を目指す。 2.それを実現する前提として企業規模の拡大のための統合施策を実施する。3.これらを実現する後押し的施策として最低賃金の継続的引き上げを行う。そのための努力として成人の再教育に力を入れる。

現在の日本における最大の課題は人口減少で、その背景には少子化と高齢化の同時進行がある。人口減少時に量的緩和は有効ではなく、賃上げこそが企業の生産性向上に寄与できる。今までの経済成長モデルは人口増大が背景、「良いものをより安く」という前提も人口増大。内需に頼らず輸出戦略に勝機を見出すべき。昨今の観光客インバウンド増大は輸出モデル成功例の一つ、日本の強みを輸出により価値に変えていく努力が必要。

日本には中小企業が多く、人口減少が進むと国際競争力が維持できなくなる。女性活躍、研究開発、技術革新、いずれの施策実現のためにも企業規模拡大が必須であり、企業数統合施策が重要である。生産性向上のためには新たな技術導入だけではなくて、従来のビジネスの方法や人材教育、会社の仕組み自体を変革していくことが重要。そのためには優秀な人材を雇用するだけではなくて、社員教育、管理職教育、そして経営者育成教育が重要である。雇用延長してサラリーマン50年時代を目指すとしたら、学校教育の質向上だけでは間に合わないことは自明。アメリカの成功モデルばかりを追わず、世界の企業の成功例を参考に、日本独自の施策を工夫し実行できる人材育成に努力する、そのためにも最低賃金向上による生産性向上と高生産性高所得をベースにした資本主義の実現を目指す必要がある。

年金制度、消費税、国の借金という日本人が抱える問題はそもそも日本人の所得が低いことに由来している。年金支給年齢引き上げ、消費税引き上げ、借金を減らす努力、これらは本質的な解決策ではない。所得を上げていけば生産性が上がり、そのためには企業規模の拡大が必要、そして輸出も増える。技術の普及を進めて所得が増えれば税収も増えるし、株価も上がる。財政が健全化してくれば平成に入っての経済悪循環は好循環に変えることができるはず。「人手不足」という概念は、人が足りないので仕事が回らない、という既成概念に囚われているだけでそれでは経営者の進歩がない。経営者の概念を強制的に変えさせるためには政策の出動が必要で、最低賃金継続引き上げこそが要石になる。今であれば日本人にはまだ勝算はある。行動を起こすことが重要である。本書の内容はここまで。

最近読んだ日本の課題を指摘する書物の中で秀逸、的を射た指摘と提言だと思う。指摘はあっても提言が的外れ、という書物も多い中で、本書の提言はまことにもっとも。腹に落ちる提言であり「拡散希望」である。

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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