意思による楽観のための読書日記

弔い花 川崎草志 ****

川崎草志さん、これからも楽しみな書き手だと思う。

読み手の一時的メモリーサイズを試すようなプロローグがまた5つほど、これらがどのようにつながっていくのか。そして最後はなんと最初の「長い腕」の書き出しを受けたような結び、これも気が利いている。

書き出しは長い腕のプロローグと同じ時、1848年鶴太の家族が斬殺されるシーンとその後早瀬の村で苗字帯刀を許された東、西、古倉、宇賀、藤、島の各家代表者と当時の代官のやりとり、そこで代官が小さい鶴太を匿ったことが明かされる。そして大工だった鶴太の父の腕を鶴太が受け継いだように木の彫り物で曼珠沙華を作り上げる。これがタイトルにもなった弔い花、後の東の家に隠された謎を解く鍵になる。

明治26年、鶴太が立派な大工になり近江敬次郎となのり有名になって若い大工とその腕を競う。その相手が石丸佐吉、なんと長い腕にも呪い歌にも登場した主人公島汐路の会社の上司石丸の父である。近江敬次郎が小僧に持たしてきたのは彫り物の曼珠沙華、それを見た佐吉はすぐに負けを認めるほどの出来栄えだった。

明治33年、東屋敷で行われていたのは結婚の祝宴、それは東屋敷の新築祝いでもあった。その家を建てたのは東京から来た名棟梁、しかしその家に嫁いできた女は東屋敷で暮らすようになり気がおかしくなってしまう。東屋敷を建てたのは敬次郎、そして結婚の祝宴の最中に殺された敬次郎、東屋敷の壁の中にその死体は埋め込まれたのだ。東屋敷以外の屋敷に設えられたのは鶴と亀
しかしこの東屋敷だけは曼珠沙華だった。まるで自らの弔い花のように。

昭和51年、山形県酒田市で大家事があった。火事の跡を調査して回る大工は愛媛から来たという。そして焼けずに残っていた家を見て家の前に植えられていた木が家を守ったと言う。タブの木、タモとも言い、それはシオジという種類だといった。シオジが家を火から守る。シオジは汐路、これが物語の最後で効いてくる。

31年前の岡山、大工を父に持つ石丸圭一の家族が斬殺される。唯一の生き残りが6歳の圭一。

そして三ヶ月前の早瀬、東屋敷の娘紫苑が何者かに殺される。紫苑が最後に叫んだ「キョウコ!」キョウコとはだれなのか。

物語は現代の早瀬と昭和20年の早瀬で同時進行する。これも「呪い歌」と同じ手法。

昭和20年、敗戦を迎えた日本では生き残ったやくざ者達が村々から食料や金品を巻き上げるという犯罪が横行していた。早瀬の町の近隣でも同じようなことが起きていて、次に早瀬が狙われているという。そこで、早瀬の町の高射砲陣地にいた兵隊たちとそのリーダーの長谷川が村人たちに警護を頼まれる。そこに居合わせたのが石丸幸太郎、圭一の父であった。長谷川と幸太郎は力を合わせてやくざ者から町を守る。警護を依頼したのが島家の雅義と宇賀恩太郎、恩太郎の娘が萩代。雅義は島汐路の祖父。そして萩代と幸太郎は結ばれる。つまり石丸圭一は宇賀家の跡継ぎであったのだ。

現代の早瀬、その早瀬を調べていて死んでしまった汐路の親友エリカの婚約者が香川、早瀬に隠された呪いと謎を「呪われた町」というタイトルにして出版してしまう。その結果、ネットで広がる早瀬にまつわるいろいろな噂、早瀬の町の住民に対する嫌がらせが起きるようになる。それを煽るのが宇賀家に養子に入った英正。汐路はなんとか早瀬の町を守ろうとするが帰って英正や町の住民から嫌われてしまう。

敬次郎が町に仕込んだ罠とはなんだったのか。敬次郎は6つの旧家の屋敷を建てて、町の住民はその家の作りを真似て自宅を建てた。街道沿いにもし家事が起きれば延焼しやすい作りになるように。しかしその呪いに気がついた人物がいた。島家の汐路の父だった。家と家の間に燃えにくい樹木を植え続けた。それがタモの木、シオジだ。

汐路は姉の明奈とその夫でレストランを経営する神保明広と協力してなんとか早瀬の町を守ろうとする。そして、英正こそが早瀬の町をダメにしようとする人物であり、ネットでキョウコを名乗って紫苑を殺害させた犯人だということを突き止める。そして英正を汐路と一緒に退治したのは石丸圭一、しかし圭一は英正に射殺されてしまう。

いくつもの伏線と同時に進行する2つの物語、そして仕込まれている幾つもの小道具が各所に効いてくる。最後に神保明広と明奈が養子として引き取った良太が子供なりに初めて料理を作るとその味は玄人の味付け、神保はびっくりする、という結び。鶴太が長い腕のプロログで見せた大工としての天才の片鱗と同じである。見事な結末、長い腕、呪い歌、弔い花、ミステリー好きにおすすめの三連作である。


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