NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は毎週木曜日、毎日新聞奈良版に「ディスカバー!奈良」を連載している。先週(8/9付)掲載されたのは「みそぎ観世音菩薩 葛城市の西光院(さいこういん)」、執筆されたのは広島県出身・生駒市在住の田原敏明さん。田原さんは葛城地方にはめっぽうお詳しい。
※トップ写真は、西光院の身枌(みそぎ)観音さま
西光院(葛城市竹内959)は、竹内(たけのうち)街道の沿道にある。竹内といえば司馬遼太郎だ。司馬の「長髄彦(ながすねひこ)」(『歴史と小説』所収) には、
金に余裕があれば、むろん乳母をやとったことだろう。両親は私を里子にした。めずらしいことではなく、虚弱な乳幼児を健康な里親のもとで哺育させることは、江戸時代からの大阪商家の慣習であったらしい。そういう次第で、私は大和国北葛城郡当麻村竹ノ内という草ぶかい山村にそだった。
私の子供のころは、この街道を葛城越えにこえくだっては、河内の子供たちが風のように襲ってきたものだ。「大和の餓鬼らあ」かれらは口々に叫び、手に竹ぎれをもって大和の子供たちの不意を襲っては再び山越えに逃げ去るのである。
武士の本場の坂東千万の精兵をむかえて千早赤坂四条畷に戦った楠木父子の強さは、歴史家はどう理由づけているかはしらないが、私はもろにあの河内の子供たちをおもいだしてしまう。
西光院
では田原さんの記事全文を紹介する。
日本最古の官道といわれ、近世には河内から長谷寺参りの宿場としてもにぎわった竹内街道筋に、1662(寛文2)年の開基とされる西光院(さいこういん)があります。その観音堂に祀(まつ)られているみそぎ観世音菩薩(ぼさつ)には次のような話が伝わっています。
その昔、近江国高島郷で大洪水が起こり、山から巨木が流れてきました。この話を聞いた当麻郷の男がこの霊木で観音様を造ってお祀りしようと考え、大和国へ運ぼうとしました。しかし、巨木は険しい竹内峠にさえぎられ長らく留め置かれるうち、男は亡くなってしまいます。
結局、巨木はその端の部分を切り落として長谷郷に運ばれ、大きな観音様が造られたそうです。切り落とされた木も霊木の一部なので、集落住民は観音様を彫ってお祀りしました。
わざわざ身をそいで姿を現わしてくださった観音様なので、「みそぎ観音さま」と呼ばれました。以来、竹内集落の人々や旅人の守り本尊として崇敬されています。史実・伝承・寺伝、いろいろ想いながらのお寺巡りは楽しいものです。
メモ 近鉄南大阪線磐城駅下車、西へ徒歩20分(奈良まほろばソムリエの会 田原敏明)
葛城市のサイトには「身枌(みそぎ)観音」と出ている。なおこのサイトではGoogleストリートビューで、境内の様子が360度のパノラマで見ることができる。
長谷寺の観音さまと同じ霊木から彫りだされたという「みそぎ観音」さま、ぜひお参りいただきたい。田原さん、珍しいお話をありがとうございました!
※トップ写真は、西光院の身枌(みそぎ)観音さま
西光院(葛城市竹内959)は、竹内(たけのうち)街道の沿道にある。竹内といえば司馬遼太郎だ。司馬の「長髄彦(ながすねひこ)」(『歴史と小説』所収) には、
金に余裕があれば、むろん乳母をやとったことだろう。両親は私を里子にした。めずらしいことではなく、虚弱な乳幼児を健康な里親のもとで哺育させることは、江戸時代からの大阪商家の慣習であったらしい。そういう次第で、私は大和国北葛城郡当麻村竹ノ内という草ぶかい山村にそだった。
私の子供のころは、この街道を葛城越えにこえくだっては、河内の子供たちが風のように襲ってきたものだ。「大和の餓鬼らあ」かれらは口々に叫び、手に竹ぎれをもって大和の子供たちの不意を襲っては再び山越えに逃げ去るのである。
武士の本場の坂東千万の精兵をむかえて千早赤坂四条畷に戦った楠木父子の強さは、歴史家はどう理由づけているかはしらないが、私はもろにあの河内の子供たちをおもいだしてしまう。
西光院
では田原さんの記事全文を紹介する。
日本最古の官道といわれ、近世には河内から長谷寺参りの宿場としてもにぎわった竹内街道筋に、1662(寛文2)年の開基とされる西光院(さいこういん)があります。その観音堂に祀(まつ)られているみそぎ観世音菩薩(ぼさつ)には次のような話が伝わっています。
その昔、近江国高島郷で大洪水が起こり、山から巨木が流れてきました。この話を聞いた当麻郷の男がこの霊木で観音様を造ってお祀りしようと考え、大和国へ運ぼうとしました。しかし、巨木は険しい竹内峠にさえぎられ長らく留め置かれるうち、男は亡くなってしまいます。
結局、巨木はその端の部分を切り落として長谷郷に運ばれ、大きな観音様が造られたそうです。切り落とされた木も霊木の一部なので、集落住民は観音様を彫ってお祀りしました。
わざわざ身をそいで姿を現わしてくださった観音様なので、「みそぎ観音さま」と呼ばれました。以来、竹内集落の人々や旅人の守り本尊として崇敬されています。史実・伝承・寺伝、いろいろ想いながらのお寺巡りは楽しいものです。
メモ 近鉄南大阪線磐城駅下車、西へ徒歩20分(奈良まほろばソムリエの会 田原敏明)
葛城市のサイトには「身枌(みそぎ)観音」と出ている。なおこのサイトではGoogleストリートビューで、境内の様子が360度のパノラマで見ることができる。
長谷寺の観音さまと同じ霊木から彫りだされたという「みそぎ観音」さま、ぜひお参りいただきたい。田原さん、珍しいお話をありがとうございました!