そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生 | |
横石 知二 | |
ソフトバンククリエイティブ |
感動的な講演録を読んだ。大阪にお住まいの星乃さんから、あるメーリングリスト経由で、上勝町(徳島県勝浦郡)で「葉っぱビジネス」を成功させた株式会社いろどり代表取締役・横石知二さんの講演録をご送付いただいたのである。星乃さんは《皆さんも徳島県上勝町の葉っぱビジネスの話はよくご存知だとは思います。私も横石さんの講演をお聞きしたことがありますし、「そうだ葉っぱを売ろう!」の著書も読ませていただきましたが、とても感動しました。この講演記録は新潟県の職員がまとめてくれたものですが また知らない話が書かれており、再び感動しております》とお書きになっている。
横石氏のプロフィールは《65歳以上の高齢者が約半数を占める人口2000人の小さな町、徳島県上勝町。この町に住むおばあちゃん達とともに、料理に添える花や葉っぱなどの「つまもの」事業を展開し、売上高2億6千万円ものビジネスを成功させた立役者》。この講演録(4/25開催の第34回新潟JCフォーラム)は転載許可を得ておられるとのことなので、以下に全文を紹介させていただく。
おばあちゃんたちの自己変革
~あなたが磨かれなければ 葉っぱは要らない(by吉兆)~
【講演】~あなたが磨かれなければ 葉っぱは要らない(by吉兆)~
○スカウト
32年前(徳島県農業大学校に在学中)に町長と組合長がスカウトに来た。よそ者ということで、地元のみんなから反対された。当時の上勝町の人々は、酒好きで、補助金などに頼る文化が根付いていた。上勝町の母親は自分の子どもに向かって、しっかり勉強しないと地元に残って、どうしょうもないことになると脅した。そんな言動に違和感を覚えた。自分たちを否定していた。そんな地元の人たちから、出て行けと言われた。県庁に勤めていた父からは、私自身、徳島県に採用が決まっていたこともあり、上勝町に勤めることに猛反対された。私は、これと決めたら曲げない性格だった。上勝町で働くことにした。
○葉っぱとの出会い
28歳のときに、大阪の「がんこ寿司」で、若い女性客が添え物の葉っぱに感激し、飲み物に浮かべたりして、葉っぱを大切にしている姿を見て、「そうだ葉っぱを売ろう。」と思った。葉っぱは、地域の宝。地元の人に話をしたら、アホ呼ばわりされた。葉っぱは、北から南までどこにでもある。葉っぱを売るようなのは、たぬきのようなものと揶揄され、批判された。地元の人には、自信や誇りがなかった。そんな状況の中で、4人のスタッフで取り組むことになった。
最初は、「彩(いろどり)」という商品を作った。原価は50円ほどだった。しかし、5円か、10円でしか売れなかった。どうしてかと思案していたが、あるとき、料理屋の現場を見たかと聞かれた。現場を見ていないことに気がついた。有名料亭の勝手口を叩いた。何度足を運んでも、入れてもらえなかった。
あるとき、お客として行ったらどうかとアドバイスされた。当時、10万円くらいの給料だったが、2万円のコース料理を予約した。当時1~5万円くらいが相場だった。入口が違うと、待遇が全く違った。予約されている横石様ですねと言われた。料理には葉っぱが添えられていた。その葉っぱがどこの葉っぱかと聞いたら、庭の木の葉っぱとのことだった。
葉っぱは、季節を表現するために添えられていると思っていた。聞いてみると、葉っぱには意味があり、物語があるとのことだった。料理には、葉っぱが欠かせない存在だった。町長や組合長に、料亭で食事するための予算をお願いした。断られた。仕方がないので、その後も調理場に入れてもらえるように何度も頼みこんだが、ダメだった。
あるとき、業者の人の手伝いで調理場に入ることができた。その業者の人がいつの間にかいなくなり、一人調理場に残された。悪いと思いながら、調理場の写真をたくさん撮った。料理人に見つかり怒られた。げんこつを食らった。どつかれて、右足を調理台にぶつけ、足を切り出血した。バケツの水を掛けられそうになり、家に帰った。
家では妻が驚いて訳を聞いた。日赤病院に行き、針で縫わなければいけなかった。その時に妻が言った。3人の子どもがいたが、生活は何とかするから、家のお金を使いなさいと。その後、日本全国3,000~4,000店を回った。1年間に4,500時間働いた。そこで、葉っぱに関する物語を聞いた。
○ツール
上勝町の防災通信システムを活用して、各家庭にファクシミリを入れた。町の職員からは反対された。10数年前から、お年寄りにパソコンを使ってもらっている。この時も議会から反対された。議員が使えないパソコンをその親の世代が使える訳がないとのことだった。
パソコンの講習会で(電源を)立ち上げてと言ったら、講習会の参加者全員が立ちあがった。今では、80歳を超えるお年寄りが、みんなパソコンを使っている。そんなお年寄りを「光ファイバーちゃん」と呼んでいる。キーボードは「気―ボード」。マウスは、アメリカ製のお年寄りにも使いが手の良いものを使用している。普段会うことが出来ないマイクロソフトの幹部からもいろいろ尋ねられた。
○考えること
お年寄りの元気の秘訣は、①出番、②評価、③自信。与えられたことや結果が分かることだけをやっていると、人間は考えなくなる。そして段々元気が無くなる。逆に、自分で考えるようになると顔が輝いてくる。上勝町では、一個人、一経営者と言っている。
○九州講演
九州で、1,000人くらいの中小企業経営者の前で講演したことがあった。東京から来たコンサルタントとのダブル講演だった。東京のコンサルタントは、如何に安く仕入れるか、如何に経費を節減するかを訴えた。とんでもないと思った。それは大企業がすること。中小企業がそんなことをしたら、経営が立ち行かなくなる。
○変化
人は変えたがらない。しかし、変えなければ分からない。個々の人が力を付けることが大切。やりたいことを自力でやってもらっている。上勝町の人は当初、人任せばかりであった。講演があっても、父親しか来ない。母親が行きたくても、行かせなない。講演を聞きに行った父親も、よかったとしか言わない。
あっと気付き、なるほどと検証し、やってみるかと実行することが大切。葉っぱがどのように使われているのかを知ってもらうため、お年寄りを「吉兆」に連れて行った。赤っ恥をかいたが、それが大事。失敗することで覚える。
高級料理店の「吉兆」に行くのに、おばあちゃんたちがモンペをはいて来た。「かすり」ということだった。まあいいかと思った。大阪では、道に迷わないようにということで、お年寄りの発案で、一列にひもでつながって歩いた。先頭の横石さんの後ろに、お年寄りがくっついた。周りの通行人から笑われた。
分からなければ、聞くことが大切。人から与えられたり、結果が分かることをやっていては、人間考えなくなる。自分で考え、自分で行動するようになると、顔が変わって来る。輝いてくる。上勝町のお年寄りは、みんな良い顔をしている。
上勝町でお願いしたことは次の二つ。一つは、時間を守ること。時間が来たら、誰も来なくても始めるようにした。みんなから文句を言われた。誰も来ていないと。時間は来ていると答えた。もう一つは綺麗にしておくこと。掃除は大切。病院に行くよりも美容院に行く方が良い。私は、毎日、7時半から夜遅くまで働くが、トイレ掃除をしたり、職員の机を拭いたりときちんと掃除するようにしている。
○組織と個の存在
吉兆の料理長から、「人間が磨かれていなければ、使わない。」と言われた。その時は分からなかったが、今は理解できるようになった。個が磨かれていることが大切。初めは組織が大切だと思っていた。今は個が大切だということに気が付いた。こつこつと個を積み上げることが大切。
生涯現役社会のつくり方 (ソフトバンク新書) | |
横石 知二 | |
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○舞台作り
情報は外に出す。そうすると膨らんで帰って来る。上勝町の棚田は、猫の額ほどの小さなもの。作り手も苦労しながら作っているが、その割に見入りが少ない。棚田1枚当たり5,000円程度の収入。そんな棚田を活用して、都会の人を呼び込もうと提案したが、持ち主から反対された。人は、自信が無いものは見られたくない。持ち主に、苦労して作る必要はない。作ってもらえば良いと説得した。そして、都会の人に来てもらった。都会の人は、棚田で稲を作りたいと言った。しめたと思った。5万円で借りてもらうことにした。そこでは日本一高いコメが作られている。
ローソンでは、バナナ1本をいくらで売っているか。1本100円。恵方巻きも500万本販売する。商品の舞台作りが大切。私なら、ミカン一つを150円で販売することもできると考えている。ミカンを売るための舞台作りが大切。ミカン一つ150円の舞台作り。例えば、会議用ミカンの開発。会議では、ペットボトルのお茶が使われることが多い。それは、会議で使用するのに都合がいいから。ミカンは、皮が残り、指が汚れる。だから、皮を容器に回収できるようにして、ティッシュを添えておく。
新幹線のお客さんは、荷物が多いので、ミカンをいくつも買わないが、一つなら買って食べたいと思うはず。酸っぱいミカンも販売できる。うたい文句は、甘さ控えめヘルシーミカン。スポーツ選手にぴったりの商品。車の中には、ペットボトルを置くための舞台(装置)が用意されている。人にも舞台がある。良いところをしっかりと見つけたい。
○上勝町
上勝町は医療費が県内で一番低い。県内の徳島市と比べると年間一人当たり20万円ほどの違いがある。田村さんという方が、脳溢血で半身不随になった。歩くことも出来なくなった。医者からは、一生治らないと言われた。そんな彼女は、200人のインターンの指導をしている内に、歩けるようになった。若い人に教えるという役割が彼女を回復させた。
上勝町ではゴミゼロの取組を行っている。ゴミが出ない。ゴミの分類は34品目。回収個所は1か所だが、利用者には都合が良い。いつ持っていっても良いから。カミソリなどの品目で分類されているので分かりやすい。
学校は大切。もし学校が無ければ、そこで暮らしたいとは思わない。子ども相手の講演が一番勉強になる。分かりやすく話す必要があるから。知人の池上彰さんも、子供向けの番組が一番勉強になるとのこと。
○自信
自信を持つことが大切。みんなに良いところがある。先日京都に招かれた。そこのまちの産業振興係長という京都美人が、緊張しながら車の運転をしてくれた。40分ほどのドライブとのことで、興味深く車に乗り込んだ。早速、後部座席から、色々と話しかけた。特産品は何ですかと聞いたところ、ありませんとのこと。美味しいものは。ありません。まちに何か良いのもがありますかと聞いてみたところ、そんなものが無いので、講師にお願いしたとの返事だった。車を降りたくなった。
講演終了後、また車で送ってもらった。今度は、色々と話をしてくれた。まだ今の仕事に就いたばかりで、自身が無かったとのこと。良いものがあることを知っていたが自信が無くて言えなかった。自信が大事。
私は舞台作りが得意。面接では、必ず「何が得意ですか。」と聞くようにしている。歌が得意という人がいた。歌で仕事が出来る。彼女は行く先々で得意の歌を披露して、みんなから喜ばれ、親しまれて仕事をしている。ブログが得意な人は、ブログ発信のお手伝いが出来る。自分の中の楽しいこと、得意なこと、自信があれば、人は誰でも主役になれる。
75歳のときに葉っぱビジネスに参加してもらったおばあさんがいる。彼女は最初、変化をきらっていた。そんな彼女が99歳になり、今でも、木を植えようとしている。何故収穫できないかもしれない木を植えるのかと聞くと、後継者に残したいとのことだった。自分の代で終わりになるのは、やりきれないとのこと。自分が死んで、野山が荒れ、お店が朽ちるのは、やりきれない。そんな彼女の元に、家を出て行った子どもや孫が帰ってきた。戻ってきた人に、なぜ戻ってきたのか聞いてみた。親の輝いている姿を見たら、帰りたくなったとのことだった。
上勝町には、若い人を中心にIターンが増加している。家が足りないくらい。50人の募集に1,500人が応募してきた。みんな英語も使える優秀な若者ばかり。全国から来てくれる。みんな人のために役に立ちたいと言う。やってみることが大切だ。
○独立
40歳で会社を設立することを決めていた。営農普及員として16年間、億単位で売り上げを伸ばしてきた。38歳のときに、徳島で会社を設立しようと思い、辞表を提出した。辞表を提出したとき、84歳のみきこおばあちゃんが、一晩で、関係農家200軒分全員の署名・捺印付きの嘆願書を取りまとめた。そして、車の前に立ちはだかり、あんたが出ていくのなら、生きている価値が無いから轢いてくれと言った。あんたの商品が欲しいとのことだった。必要とされている自分がいた。上勝町で会社を設立することにした。
※みきこおばあちゃんは横石さんの恋人とのこと。
○震災復興プロジェクト
震災を機に、マスコミが押し寄せてきている。日本の中の優良事例を紹介する動きが加速している。著書の「そうだ葉っぱを売ろう!」は、映画化されることになった。
今求められているのは、リーダー型のプロデューサー。割合は、リーダー3:プロデューサー7。居場所と役割が大切。このことは、菅首相からも紹介され、震災復興の国家プロジェクトになった。
持続可能なまちは小さく、美しい 上勝町の挑戦 | |
笠松和市・佐藤由美 共著 | |
学芸出版社 |
【JCメンバーと横石さんの対談から(横石さんの発言骨子)】
○大切なこと
大切なことは、5年後、10年後を考えることではなく、今何をしなければいけないのかを考えること。①気づき、②検討し、③実行することが大切。
時々、世界のために働きたいと言う若者がいる。何をしたいのかと聞くと分からないとのこと。それではだめ。
一人ひとりが経営者。一人ひとりがどれだけ磨かれるかが大切。素直であること、人の話を聞くことが大切。これまで地域づくりを意識したことはない。一人ひとりができること、舞台作りが大切。大切なことは、①居場所、②出番、③仕事。
○働くこととうねり
自分がやりたいこと、自分に出来ることが、社会で働く際に役に立つ。点が線になり、うねりになる。ばらばらでは社会のうねりにはならない。
○やまびこ
良い流れは呼び込むもの。やまびこと同じで、マイナスの言葉は、自分にマイナスになって帰って来る。負のスパイラル。言い訳を考えるのではなく、どうしたら出来るかを考えることが大切。
引用は以上である。私はこれまで、「葉っぱビジネス」は思いつきのアイデアが偶然成功したものだと誤解していた。ゲンコツを食らって血を流し、バケツの水をかけられそうになりながら蓄積したノウハウ。町を出るというと、お年寄りが車の前に立ちはだかり「あんたが出ていくのなら、生きている価値が無いから轢いてくれ」と叫ぶ…。成功の裏には、こんなドラマがあったのだ。
横石氏は「今求められているのは、リーダー型のプロデューサー」とおっしゃるが、メンバーを「あのリーダーがここまでやるなら、俺たちもついていこう」という気持ちにさせるほどの、卓越したリーダーシップが必要なのだ。今はやりのピーター・F・ドラッカーは、「リーダーは資質ではない。努力すれば誰でもなれる」と書いているが、この「努力」が並大抵の努力ではないのである。
久しぶりに感動的な話を読ませていただいた。「そうだ、葉っぱを売ろう!」は映画化されるそうなので、ぜひ拝見したいと思う。星乃さん、そして講演録をまとめてくださった新潟県の職員さん、有難うございました。
> あす!(ようやくですが・・・)映画を見てきます(^^)/
> というのも、私の論文テーマと合致しているからなんです
そうでしたか。ぜひ、シッカリ見ていただき、良い論文をお書き下さい。
著書、すべて拝読しました♪
そして、あす!(ようやくですが・・・)
映画を見てきます(^^)/
というのも、私の論文テーマと合致しているからなんです☆彡
楽しみにしています
> 浅い自分が恥ずかしくなる内容でした。ドラッカー読み直します。
ドラッカーは、30年以上前の学生時代に愛読しました。「もしドラ」は読んでいませんが、『マネジメント』は名著です。
ドラッガー読み直します。
> 自分自身の中でいろんなことが行き詰まっているところで鉄田さんの
> この文章を読むと少しずつ心が解きほぐされていく気がしました。
恐縮です。横石さんの血を吐くような言葉は、心に響きます。私自身、読み返して元気をもらっています。
> ブログを拝見してご来店いただいたご夫婦がいらっしゃっいました!
それは光栄です。トラットリア前澤さんはじめ、県下の美味しい店は、不思議なほど知られていません。当ブログが少しでもお役に立てれば、これほど嬉しいことはありません。
そして励ましの言葉までありがとうございました(*^^*)
一番大事なこと忘れていました!昨晩鉄田さんのブログを拝見してご来店いただいたご夫婦がいらっしゃっいました!重ね重ね本当に有り難うございます!
> 以前TVでやっていたのをちらっと見ましたがtetsudaさんのブログ
> にかかるとなんともより魅力的!どんどん読んでしまいました
うまくまとまった良い講演録をいただきましたので、横石さんの思いがよく伝わります。
> 中には頭の痛くなる言葉がたくさん。。。まだまだですな私。
いえ、前澤さんは良い仕事をされていますよ。どんな業種であっても、地元民に支持されることが一番ですね。
中には頭の痛くなる言葉がたくさん。。。
まだまだですな私。
体調くずされないようにお気をつけください