奈良の観光について、〈「安い・浅い・狭い」脱却を 県観光戦略会議 初会合〉(毎日新聞奈良版 2024.5.16 付)という記事が各紙に出ていた。「安、近、短」は聞いたことがあるが、46年も奈良県に住んでいて、「安い、浅い、狭い」と聞いたのは初めてだ。
※トップ写真は、興福寺境内の桜(2024.3.31 撮影)
「どうもしっくり来ないな」と思っていると、「TBS NEWS DIG」というサイトに、〈『奈良の観光は、安い・浅い・狭い』マイナス面を三拍子で…こんな結論は誰が作った?奈良県観光戦略本部に聞くと〉という記事が出ていた(5/18付)。全文を引用すると、
以前から、“宿泊客が少ない”などの課題が挙げられている奈良県は、観光戦略本部を立ち上げて、15日に初会合を行った。そこで委員らに示された資料には、奈良観光のマイナス面をはっきり示す衝撃的なキーワードが並んでいる。結論『現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い』これはどういうことで、誰が作成したのか。資料を読みとき、県の担当者に話を聞いた。
◆安い=観光消費額が少ない
奈良県を訪れる観光客は、一定数いる。コロナ前の2019年は全国19位(4500万人)、インバウンド客に至っては2位大阪、4位京都に続く全国トップクラスの5位(350万人)。それにもかかわらず、1人あたりの観光消費額5308円は、全国平均の9931円に大きな開きがある。
日帰り客の消費額、6年間平均を見ると、飲食費は1344円。土産代は1156円。入場料は369円。飲食費はランチ代+飲み物程度か。こうしたデータから圧倒的に「奈良観光は安い」ことがわかる。入場料の平均369円といったところから、県は体験やアクティビティなどの消費額はほとんどない、と分析している。
◆浅い=滞在時間が短い
奈良県で宿泊する客は非常に少ない、これは昔から課題に挙げられている。過去9年はほぼ46位、最高は44位で、最低は47位だ。外国人訪問者数が全国5位に達した2019年も、外国人宿泊者となると全国24位に沈んでいる。奈良を訪れた観光客の94%は日帰りを選ぶ。宿泊者の割合は6%、これは和歌山県の半分の値だという。
◆狭い=奈良公園周辺ばかり
人流は、年間通じて奈良公園エリアに集中。桜シーズンの吉野には人流のピークがあるものの、飛鳥、橿原、平城宮跡などほかの地域にピークはほぼない。
インバウンド客に限ると、なんと85%が奈良公園周辺だ。県は誘客イベントをするにしても、奈良公園周辺以外には、飲食店や宿泊先の受け皿環境がないとした。また、観光客が来訪するのを待つ「大仏商法」の側面が否定できないとした。
◆結論を三拍子にしたのは奈良県自身だった
こうしたデータを基に、「現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い」の三拍子で結論づけられた。これを作ったのは、奈良県自身だった。県の担当者によると、原案は観光戦略課が作成し、その後上司に上がるなど、県として資料をまとめ上げていく中で、結論部分は『端的にまとまった、わかりやすい言葉が必要』という意見が出たという。
その結果、奈良県自らが『安い、浅い、狭い』の三拍子を打ちだした。『浅い』は『滞在時間が短く、深い魅力を知ってもらえていない』の意。ある意味自虐的にも聞こえるが、その心は、課題を明らかにしてテコ入れし、変えていこうとする姿勢のあらわれだという。
山下真知事「素材は良い、ポテンシャルはある」
初会合を終えた山下真知事は、奈良県について「素材は良い、ポテンシャルはある」と話した。観光戦略本部は、2030年度の数値目標を、宿泊者数500万人(273万人)、一人当たり観光消費額は6000円(4569円)などと定めて、これまでのように県全体を対象にしたプランニングではなく、各地の状況にあわせて、小さいところからはじめるという。
奈良の観光は「高い、深い、広い」に変わることはできるだろうか。戦略本部は、各地で観光地としての「磨き上げ」などが必要だとしている。
なーんだ。観光消費額が少ない、滞在時間が短い、奈良公園周辺に集中、ということなら「少額、短時間、集中」とすれば良かったのではないか。もっと短くするなら「少、短、狭」か。これは要するに、以前から言われている1つの事象(観光客が奈良公園周辺に集中する)を3つにバラして言っているだけなのだ。
「大仏商法」を悪口のように使っているのも、気になる。これはもともと「東大寺の大仏という優れたコンテンツを持つ奈良には、自然と多くの参拝客・観光客が集まる」という羨望の言葉だった。
それが次第に「大仏があることにあぐらをかいて、観光振興の努力を怠った」という悪い意味に使われるようになった。そもそも他府県民は「大仏商法」という言葉をよく知らないから、この悪い意味での「大仏商法」は、県民の自虐の言葉だろう。
「少額、短時間、集中」なら、ずいぶん以前から続いてきた現象である。これにどのようなメスが入るのか、県観光戦略会議の今後の動向に、大いに期待している。
※トップ写真は、興福寺境内の桜(2024.3.31 撮影)
「どうもしっくり来ないな」と思っていると、「TBS NEWS DIG」というサイトに、〈『奈良の観光は、安い・浅い・狭い』マイナス面を三拍子で…こんな結論は誰が作った?奈良県観光戦略本部に聞くと〉という記事が出ていた(5/18付)。全文を引用すると、
以前から、“宿泊客が少ない”などの課題が挙げられている奈良県は、観光戦略本部を立ち上げて、15日に初会合を行った。そこで委員らに示された資料には、奈良観光のマイナス面をはっきり示す衝撃的なキーワードが並んでいる。結論『現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い』これはどういうことで、誰が作成したのか。資料を読みとき、県の担当者に話を聞いた。
◆安い=観光消費額が少ない
奈良県を訪れる観光客は、一定数いる。コロナ前の2019年は全国19位(4500万人)、インバウンド客に至っては2位大阪、4位京都に続く全国トップクラスの5位(350万人)。それにもかかわらず、1人あたりの観光消費額5308円は、全国平均の9931円に大きな開きがある。
日帰り客の消費額、6年間平均を見ると、飲食費は1344円。土産代は1156円。入場料は369円。飲食費はランチ代+飲み物程度か。こうしたデータから圧倒的に「奈良観光は安い」ことがわかる。入場料の平均369円といったところから、県は体験やアクティビティなどの消費額はほとんどない、と分析している。
◆浅い=滞在時間が短い
奈良県で宿泊する客は非常に少ない、これは昔から課題に挙げられている。過去9年はほぼ46位、最高は44位で、最低は47位だ。外国人訪問者数が全国5位に達した2019年も、外国人宿泊者となると全国24位に沈んでいる。奈良を訪れた観光客の94%は日帰りを選ぶ。宿泊者の割合は6%、これは和歌山県の半分の値だという。
◆狭い=奈良公園周辺ばかり
人流は、年間通じて奈良公園エリアに集中。桜シーズンの吉野には人流のピークがあるものの、飛鳥、橿原、平城宮跡などほかの地域にピークはほぼない。
インバウンド客に限ると、なんと85%が奈良公園周辺だ。県は誘客イベントをするにしても、奈良公園周辺以外には、飲食店や宿泊先の受け皿環境がないとした。また、観光客が来訪するのを待つ「大仏商法」の側面が否定できないとした。
◆結論を三拍子にしたのは奈良県自身だった
こうしたデータを基に、「現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い」の三拍子で結論づけられた。これを作ったのは、奈良県自身だった。県の担当者によると、原案は観光戦略課が作成し、その後上司に上がるなど、県として資料をまとめ上げていく中で、結論部分は『端的にまとまった、わかりやすい言葉が必要』という意見が出たという。
その結果、奈良県自らが『安い、浅い、狭い』の三拍子を打ちだした。『浅い』は『滞在時間が短く、深い魅力を知ってもらえていない』の意。ある意味自虐的にも聞こえるが、その心は、課題を明らかにしてテコ入れし、変えていこうとする姿勢のあらわれだという。
山下真知事「素材は良い、ポテンシャルはある」
初会合を終えた山下真知事は、奈良県について「素材は良い、ポテンシャルはある」と話した。観光戦略本部は、2030年度の数値目標を、宿泊者数500万人(273万人)、一人当たり観光消費額は6000円(4569円)などと定めて、これまでのように県全体を対象にしたプランニングではなく、各地の状況にあわせて、小さいところからはじめるという。
奈良の観光は「高い、深い、広い」に変わることはできるだろうか。戦略本部は、各地で観光地としての「磨き上げ」などが必要だとしている。
なーんだ。観光消費額が少ない、滞在時間が短い、奈良公園周辺に集中、ということなら「少額、短時間、集中」とすれば良かったのではないか。もっと短くするなら「少、短、狭」か。これは要するに、以前から言われている1つの事象(観光客が奈良公園周辺に集中する)を3つにバラして言っているだけなのだ。
「大仏商法」を悪口のように使っているのも、気になる。これはもともと「東大寺の大仏という優れたコンテンツを持つ奈良には、自然と多くの参拝客・観光客が集まる」という羨望の言葉だった。
それが次第に「大仏があることにあぐらをかいて、観光振興の努力を怠った」という悪い意味に使われるようになった。そもそも他府県民は「大仏商法」という言葉をよく知らないから、この悪い意味での「大仏商法」は、県民の自虐の言葉だろう。
「少額、短時間、集中」なら、ずいぶん以前から続いてきた現象である。これにどのようなメスが入るのか、県観光戦略会議の今後の動向に、大いに期待している。
今回の記事、興味深く読ませて頂きました。奈良県として、結局の所、抜本的な解決は全くしていないどころか、外国人観光客が増大した事で、更に問題に拍車がかかったと云う結果になりました。
外国人観光客は、日本人以上の人員になり、しかしその大半が日帰りのお客様です。日本人ならともかく、外国人観光客にどうこうするのは容易では有りません。
また、私の旅館時代にずっと言われていた「奈良は修学旅行の旅館ばかりだ」と云うのが、時を同じくして、私が旅館を閉館して・・って、当時は今思い出しても、大激震だったのですが、その後、他の旅館も転廃業が続き、気付いたら、修学旅行の泊まる旅館がほとんど無くなってしまっています。しかしJR奈良駅前には、ビジネスホテルが林立しましたが、これらのホテルも没個性的で、どこで泊っても同じ感がします。つまりそれは、お客様の層と現在の経済環境を鑑みた結果と云う結論になる訳です。
ただ、外国人観光客については、現在の国際情勢も含めた見方が必要になりますが、そんな情報は、あまり伝えられる事が無く、自分たちで探し、仮説を立てて検証すると云う作業が必須です。この春を顧みた事ですが、中国人が激減した分、アメリカやヨーロッパ系のお客様が爆増しました。
これは典型的な国際情勢で、中国が日本へ行くビザを制限したからだとか。その為に、中国人観光客の動向よりも、アングロサクソンの皆さんの旅行体系に変わりました。その結果として、3泊や4泊と云った連泊のお客様が当たり前の様に増加し、ワンオペの私としては、非常に疲れ果てた訳です。長い逗留が続いて、20日程度は休みなしでした。それが四月の半ばまで続き、少し経てば連休に突入です。まあ、今は休館の連続ですけど・・。
これは、今は外国人観光客は、大阪・京都で宿泊するだけしか訪問されていないので、奈良の施設にまでは回って来ないと分析しています。その為に、外資系インターネット販売の欄には、「奈良市の予約は何%減少しています」と云う動向も表示される様になりました。これは増加すると、「何%増加します」と云う表記になり、そうなれば、予約数も増えます。
ここに記述では、南部や中部に宿泊施設が無い・・、などと書いて有りますが、ちゃんと有りますよ。県庁主導で誘致した様な施設が無いので、こんな言い方になった可能性が非常に高いです。更に、橿原や桜井、王寺にもホテルは建ち、また、郡山インターの横にも建ちました。旧来の旅館もそのまま有りますし、吉野山は全国的に評価の高い施設も多いです。
そして、外国人観光客は、吉野の桜は、多数訪れられていますが、それ以外の時期は全くと言って良い程有りません。長谷寺も桜で有名ですけど、吉野山と比較すればほとんどと云っても良いでしょう。郡山城も然りです。
宿泊施設以前に、外国人観光客に対して、全く知らされていない訳です。最近では、「大仏さんと鹿」よりも、「中谷堂さんの餅つきと志津香の釜めし」が奈良になり、それだけで終わっていると云うネタ・・、かどうか知りませんが、そんな事例も出ています。
宿泊施設を増加させれば宿泊客は増えると云う、前知事の謎理論も有って、奈良県の宿泊施設は増えました。しかしながら、その通りにはなっていないのが、奈良県の事情です。JWマリオットが、「外国人観光客は20%」と報道で申されていましたが、私共に限れば、全くそんな数字では有りません。話をしても、20は全く聞きません。
ただ、施設の都合はイロイロ有るんでしょう。しかしながら、旧来から、奈良県庁や奈良市、各地の観光協会のやっていたのかどうか知りませんが、そうした誘致活動が、まだまだ効果的では無く、その結果として、一番知られている所だけしか行かれていないと云う結論になっていると云う事だけは、間違いないと思っています。
> 奈良県として、結局の所、抜本的な解決は全くしていないどころか、外国人
> 観光客が増大した事で、更に問題に拍車がかかったと云う結果になりました。
こないだ京都市民に会いました。「京都にはたくさんの外国人観光客が来られるが、祇園界隈と清水寺周辺に、極端に集中している。私の住んでいる上京区は閑散としている。しかし市民が市バスに乗ろうと思ったら、外国人で満車なのでバス停に止まってくれない」。外国人観光客が増えると、このような「歪み」が助長されるようです。
> 南部や中部に宿泊施設が無い…、などと書いて有りますが、ちゃんと有りますよ。県庁
> 主導で誘致した様な施設が無いので、こんな言い方になった可能性が非常に高いです。
王寺駅前の東横INNなどは、とても稼働率が高いそうです。
> 「中谷堂さんの餅つきと志津香の釜めし」が奈良になり、それだけで終わって
> いると云うネタ・・、かどうか知りませんが、そんな事例も出ています。
あと麺闘庵の逆さきつね。東向商店街では、とんかつがんこと神座のラーメンですね。これも情報の「歪み」のなせるワザです。
> JWマリオットが、「外国人観光客は20%」と報道で申されて
> いましたが、私共に限れば、全くそんな数字では有りません。
マリオットだけがダントツで、他の施設には外国人はさほど泊まっていないそうですね。
> 一番知られている所だけしか行かれていないと云う結論に
> なっていると云う事だけは、間違いないと思っています。
もともと情報の「歪み」があり、それが外国人観光客の間で増幅し、ますます大きく歪んでしまう、という悪循環です。
なお今年の桜の時期、台湾の旅行エージェントが、「日本は、桜の時期の外国人観光客の受け入れ体制を、ちゃんと整備すべきだ」と言っていました。日本人客の受け入れだけでも大変なので、これは難しいなあ、と思ってしまいました。
現地の方が、「夜やってる店がないから客が来ないのか、客が来ないから早く店を閉めるのか」と「卵が先か、鶏が先か」的なコメントをされていましたが、なんか奈良に似ているなと思いました。確かに、ただ営業時間を延長しろ、と言っても、客が来るかどうか分からん中で飲食店にそれを強いるのは難しい面があるのでしょう。
とすると、素人考えとしては、夜でないと楽しめないもの、あるいは、複数日にわたって観光すべきものをどれほど提供できるかということになるように思うのですが、なら燈花会を1年中やってもらうわけにはいかんし(笑)、お水取りのお松明をアピールしても限られた日に観光客が集中するだけかも。
個人的には、春日若宮おん祭の知名度の(祇園祭や葵祭と比べた場合の)あまりの低さはどうにかならんかと思っていますが(小生が小学生のときは、行列が通る日は休み(半ドン?)になった記憶があります)、それも所詮瞬間風速に終わりますかね。
同じような悩みは姫路も抱えているようです(世界遺産の姫路城があるが、観光客は大阪ないし広島に泊まる)。姫路城しかない姫路(失礼!)に比べると、奈良の方が様々な手を打てるように思うのですが、そもそも欧米人(特に米国人)には、夜の広大な公園は犯罪多発地帯で、近づくべきところではないという意識が心の底にあるのかもしれません(たとえば、夜のセントラルパークは暴行・強盗事件が多発しているので近づくなと言われます)。それはひょっとしたら多くの観光資源が奈良公園の中に点在する奈良の意外な弱点なのかも。
最後はちょっと極端な話になってしまいましたが、大都市に近接する観光地において宿泊客を増やすというのは、基本的に観光客は効率的なitineraryを策定することから、非常に難しいですね。以上、相変わらずの浅学菲才の身からの雑文、何卒ご容赦・ご叱正賜りたく。
> 小江戸と呼ばれる川越の取り組みが紹介されていました。
私も訪問したことがあります。3~4時間で回れてしまいますので、宿泊には至らないのでしょう。奈良の「早じまい」は、和菓子屋さん(朝早く開店して、その日のうちに売り切ってしまう)の影響が大きいと思います。
> 営業時間を延長しろ、と言っても、客が来るかどうか分からん
> 中で飲食店にそれを強いるのは難しい面があるのでしょう。
ズバリ、「パート代がもったいない」と言う商店主がいました。
> 春日若宮おん祭の知名度の(祇園祭や葵祭と比べた
> 場合の)あまりの低さはどうにかならんかと思っています
京都の「時代祭」は、おん祭を真似たそうですが、集客力は、はるかに時代祭が上ですね。まあ、おん祭にあまりたくさんの見物客が来られても、受け入れが難しいですが。
個人で旅行する外国人観光客も、団体ツアーを参考にして旅程を組むと思います。団体ツアーはとにかく効率を優先しますので、「奈良公園は1時間」のようなことになりがちです。
私はもっと「清酒発祥地・奈良」をアピールして、無料の試飲や有料の立ち飲みイベントをやり、「結構酔ったので、今夜は泊まろうか」とできないかな、と思っています。