モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

No15:パーマーが採取したサルビア

2010-09-04 20:06:03 | メキシコのサルビアとプラントハンター
メキシコのサルビアとプラントハンターの物語 No15

パーマーが採取したサルビア(No14に続く)
ミズリー植物園のデータでは、パーマーは49種のサルビアを採取している。これはかなり多く、植物の採取場所としてサルビアの宝庫、メキシコ及びテキサスなどのアメリカ南部に絞り込んだその成果が現れている。
その中には意外なものが混じっていて中米の古代文明を支えた重要な栄養源となるサルビアもあった。

(1)Salvia ballotiflora Benth (1833) サルビア・バロティフローラ


(出典) World Botanical Associates

1898年北部メキシコにあるコアウイラ州でパーマーが採取。
1833年に英国の植物学者ベンサム(Bentham, George 1800-1884)によって命名されているので、最初の採取者は不明。グレッグ(Josiah Gregg 1806-1850)も1848年に採取している。
Blue Sageとも呼ばれ、四角い枝で芳しい香りのする60-180cmの潅木。葉はコモンセージのようにギザギザで青紫の花が咲く。乾燥させた葉は、肉類に風味をつけるために使われる。

(2)Salvia betulaefolia Epling (1941).又は, Salvia betulifolia Epling,(1941)


(出典) Image Gallery

メキシコ、ドゥランゴ州Tejamenでパーマー晩年の1906年8月21-27日 に採取。
アメリカの植物学者でサルビア属の権威エプリング(Epling, Carl Clawson 1894-1968)が新種として命名するが極端に情報がない。

(3)Salvia chionophylla Fernald (1907) サルビア・キオノフィラ


(出典)Robin’s Salvias

テキサス州に隣接するメキシコ北部にあるコアウイラ州の岩と砂利が多い乾燥した傾斜地で1904年8月29日にパーマーが採取した。
銀灰緑色の楕円系の小さな葉と白いマークが入った明るいブルーの花が特徴で、草丈30-60㎝で横に広がるのでロックガーデンのグランドカバーに活用するとよさそうだ。

(4)Salvia coahuilensis Fernald, (1900). サルビア・コアウイレンシス


(出典)CASA CONIGLIO

1898年5月にパーマーがメキシコ、コアウィラ州の州都サルティロで採取。
草丈60㎝程度の小潅木で、晩春から秋まで青紫色の美しい花が咲く。葉は薬臭い香りがし、まるでサルビア・ムエレリのようだが、サルビア・グレッギーのブルー系の花として間違って販売されていることがある。

(5)Salvia coccinea Buc'hoz ex Etl. (1777). サルビア・コクシネア


(出典)モノトーンでのときめき

1777年にフランスの医師・ナチュラリスト、ビュショ(Buc'hoz, Pierre Joseph 1731-1807)等によって緋色(scarlet)を意味する“coccinea”と命名される。
パーマーは、1904年6月13-16日にメキシコ、サンルイスポトシで採取していて、このシリーズNo10 でとりあげたギエスブレット(Ghiesbreght, Auguste Boniface 1810-1893)も1864 – 1870年に採取している。

米国からブラジルまで広範囲で生息し、ブラジル原産地説があったがメキシコ原産地のようであり、園芸品種を含めて赤、白、ピンクなど様々な品種が作られている。温暖なところでは多年草だが日本では一年草として扱う。

(6) Salvia forreri Greene (1888). サルビア・フォレリ 


(出典)Robin’s Salvias

1888年米国の植物学者グリーン(Greene, Edward Lee 1843-1915)によってサルビア・フォレリと命名されたが、この時の採取者はわからない。記録に残る最初の採取者は、命名後から大分経過した1905年にプリングル(Pringle, Cyrus Guernsey 1838-1911)が採取していて、パーマーは、1906年7月25日-8月5日の間にメキシコ中部のドゥランゴ州で採取した。
耐寒性が強く、春先から白いマークが入った淡いブルーの小花を多数開花させる。草丈10cm程度で匍匐性があり横に広がる性質を持つのでグランドカバーとして適している。
Salvia arizonicaに近い種でもあるという。

(7) Salvia hispanica L.(1753) サルビア・ヒスパニカ


(出典)Robin’s Salvias

大きな葉、その先から伸びる花穂に小さな青紫の花は、決して見事とはいえない。しかし、このサルビア・ヒスパニカは、紀元前3500年頃から食糧として使われ、マヤ文明、アステカ文明など中米の高度な文明を支えた貴重な食物植物だった。どこがという不思議さを感じるが、花の後のタネにその秘密がある。
マヤ文明が栄えたマヤ地方は、現在のメキシコ南東部、ユカタン半島、グアテマラ、ホンジュラス西端部、エルサルバドル西端部をさし、トウモロコシ・豆を主食とし、この地域ではチア(Chia)と呼ばれているサルビア・ヒスパニカのタネが重要な栄養源を供給していたという。

チア(Chia)の語源は、アステカ文明(1428年頃-1521年まで北米のメキシコ中央部に栄えた)を支えたナワトル族の言葉“chian”に由来し、“油”を意味する。メキシコ南部のチアパス州(Chiapas)は、この派生から来ている
このチア(Chia)は、アフリカのサバンナに生まれ長い時間をかけて日本に伝播した栄養素が豊富な“ゴマ”のようなものだと理解してもよいだろう。

こんな由緒ある重要な植物なので誰が発見したという代物ではないが、パーマーは、1896 年4-11月の間にメキシコ、ドゥランゴ州でこれを採取している。

(8)Salvia longistyla Benth. (1833).サルビア・ロンギスティラとボタニカルアート  


(出典)Robin’s Salvias

Curtis's Botanical Magazine

(出典)ウイキメディア・コモン

このサルビアは、メキシコ南西部で1830年に英国人のGraham, G. J. によって採取されている。英国の植物学者ベンサム(Bentham, George 1800-1884)による命名が1833年なので、グラハムが採取したもので命名されたと思われるが、このグラハムという人物が良くわからない。
パーマーは、1906年4月21日-5月18日の間にメキシコ、ドゥランゴ州でこのサルビアを採取しているが大分遅れて採取している。

サルビア・ロンギスティラは、美しい緑色の大きな葉とワインレッドの花のコンビネーションが良く、秋に開花する。
カーティスのボタニカルマガジンにも1914年にとりあげられ、このサルビアの特色が描かれている。ボタニカルアートの描き方としてとても参考になる。

(9)Salvia misella Kunth(1818)サルビア・ミセラ  


(出典)Annie’s Annuals

フンボルトとボンプランがメキシコ(1803-1804年)で最初に採取したサルビアであり、美しいブルーの花が見事だ。パーマーは、1894年10月-1895 年5月の間にメキシコ、ゲレーロ州アカプルコでこのサルビアを採取した。

命名者のドイツの植物学者クンツ(Kunth, Karl(Carl) Sigismund 1788-1850)は、1813-1819年の間、中南米の探検からパリに戻ってきたドイツの探検家フンボルトのアシスタントとして働き、フンボルトと彼の盟友ボンプランが採取した植物を分類しこれらを元に新世界アメリカの植物相を書いた画期的な本「Nova genera et species plantarum 」(1815-1825)がボンプランの名前で出版した。クンツも著者として末席に記載されている。

(10)Salvia mucidiflora Fernald(1907)= Salvia roscida Fernald,(1900)
(写真)Salvia roscida

(出典)Robin’s Salvias

パーマーは、1906年4月21日-5月18日の間にメキシコ、ドゥランゴ州サンラモンでこのサルビアを採取しているが、正式な学名はサルビア・ロシーダ(Salvia roscida Fernald,(1900))として1900年に命名されているのでこの名前が優先される。
サルビア・ロシーダは、“Salvia fallax”とも呼ばれているが、パールブルーの美しい花を冬場に咲かせるので、花が少ない時期の貴重なサルビアでもある。

(11)Salvia purpurea var. pubens A. Gray(1887) =Salvia purpurea Cav.(1793)


(出典)Robin’s Salvias

パーマーが1886年メキシコ南西部で採取したSalvia purpurea var. pubensは、1793年に既にスペインの植物学者、カバニレス(Cavanilles, Antonio José 1745-1804)によってサルビア・パープリア(Salvia purpurea Cav.(1793))として記述されていたので、この名前が正式な学名となっている。
それにしてもライムライトの葉と赤味が入ったスミレ色の組み合わせは見事だ。開花期が秋半ばから初冬なのでこの時期の花としても貴重だ。
英名で“パープルセージ”と呼ばれるSalvia officinalis ''Purpurea''は別種である。

(12)Salvia reflexa Hornem.(1807)  サルビア・リフレクサ   


(出典) Types of Flowers

1896年4-11月の間にドゥランゴ州でパーマーが採取。英名では、槍状の葉を表すlanceleaf sage、生息地を表すRocky Mountain sageとも呼ばれ、米国ミズリー州、カンザス州、メキシコ北部が原産地。
夏から秋にかけて淡いブルーの小さな花が咲くが、草丈10-70㎝で牧草地・草原で生息し、毒性があるので家畜が食べると有毒という。日本にも帰化していて和名では「イヌヒメコヅチ(犬姫小槌)」と呼ばれる。毒性には気をつけましょう!
命名者ホーネマン(Hornemann, Jens Wilken 1770-1841)は、 デンマークの植物学者。

(13)Salvia reptans var. reptans Jacq.(1798)サルビア・レプタンス


(出典)モノトーンでのときめき

コバルトセージとも呼ばれるサルビア・レプタンスは、コバルトが入ったようなダークブルーの花と針のように細長い緑色の葉が特色で、初秋から晩秋まで茎の先に花穂を伸ばし数多くの花をつける。
パーマーは、1886年6-10月の間にハリスコ州でこのサルビアを採取するが、No10に登場したギエスブレットも1864-1870年の間にメキシコ南部のチアパス州でこのサルビアを採取している。

(14)Salvia roemeriana Scheele (1849) サルビア・ロエメリアナ 


(出典)Robin’s Salvias

草丈50cm前後の小さなサルビア、鮮やかな赤色の花、ハート型のゴツゴツした葉
テキサスからメキシコにかけてが原産地で、パーマは1906年4月にメキシコ、コアウイラ州で採取した。

このサルビアの最初の採取者は、テキサスに住んだドイツのコレクター、Lindheimer, Ferdinand (1801-1879)が1846年4月にテキサスで採取し、学名はドイツのボタニストで探検家のScheele, George Heinrich Adolf (1808-1864)が同郷の地質学者で1845-1846年にテキサスでの地質学調査を行ったレーマー(Roemer ,Carl Ferdinand von 1818 –1891)を讃えて名付けた。
日本で販売されている、サルビア・ホットトランペットはこの種の園芸品種である。

(15)Salvia tiliifolia Vahl (1794) サルビア・ティリフォリア  


(出典) Iris' Tuin

このサルビアは、華麗なところがなくまるで雑草のようであり玄人受けのするサルビアのようだ。ライムグリーン色の葉は丸めで大きく、ブルー色の花はその割りに小さくアンバランスだ。

最初の採取者は、イタリアトリノの植物学の教授、ベラルディ(Bellardi, Carlo Antonio Lodovico 1741-1826)で、1794年にリンネの使徒の一人でもあるバール(Vahl, Martin (Henrichsen) 1749-1804))が命名した。
命名者バールは、デンマーク・ノルウェーの植物・動物学者であり、ウプサラ大学でリンネに学び、ヨーロッパアフリカなどの探索旅行をし、アメリカの自然誌をも著述し、彼が最初に記述したサルビアがこのSalvia tiliifoliaだった。
パーマーは、何度かこのサルビアを採取しているが、最初の採取はパリーと一緒の1878年サンルイスポトシでの探検だった。

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