<11月の暦と故・山本夏彦氏のコラム集>
戦前の 11 月 23 日の新嘗祭はもともと、天皇が一年の新穀を神に捧げ、その恩恵を謝し、自らも食して翌年の豊穣を祈願する宮中祭祀の一つで、1873(明治6)年に「年中祭日祝日ノ休暇日」に定められた。戦後は、1948(昭和 23 )年、「国民の祝日に関する法律」に基づいて「勤労感謝の日」と改称された。法律の趣旨は、「勤労をたっとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」だが、昨今は、単に「つらい労働から解放され無為に過ごす日」に変じたのではないかと思われる。
コラムニストの故・山本夏彦氏は 40 年も前に、「勤労そのものを、誰が誰に感謝する日か、よく分からない。せっせと働いてくれてありがとうと、社長が社員に感謝するのか、無病息災でこの一年、働きつづけた自分自身をみずから祝うのか、正体不明の旗日だから、だれも感謝するものがない」(山本夏彦『毒言独語』中央公論社、昭和 55 年)と書いている。なるほど、22 日は「いい夫婦」の日などと浮かれても、翌 23 日は、宮中で今上天皇が祭祀を主催なさるが、国民はただボーッと休日を過ごすのみで、国を挙げて祝い事が行われた形跡もない。