tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

景気回復の原動力は「先ず賃上げ」のようです(続々)

2024年10月25日 14時26分58秒 | 経済

(21:00頃までグラフの掲載がなく失礼しました)

前2回は、理論編でした。今回は実務編です。2025年春闘ではこんなことが必要ですから、産業労使は、是非ともよく考えてみてほしいということです。

今年の春闘は労使ともに33年ぶりの大幅賃上げが達成できたと言い、確かにその通りでした。連合の集計では5.10%、経団連集計では5.58%(大企業、中小企業4.01%)厚労省集計では5.33%でした。

これらの数字を前提に、先ず下のグラフを見てみましょう。これは「毎月勤労統計」の所定内賃金(所定時間働いた場合の賃金)の名目賃金指数の対前年上昇率です。

春闘賃上げ率がどのくらい所定内賃金を押し上げているかが解ります。

                                   資料;厚労省「毎月勤労統計」

昨年春闘の賃上げ率は3%台後半でしたが、名目所定内賃金の対前年上昇率は1.0~1.4%という感じでした。今年の5月からは、今春闘の影響がはっきり出て来て、5%台の賃上げで、所定内賃金は2.2%から2.4%に上がってきています。

春闘賃上げ率が前年比1.5ポイントほど上がっているのに、所定内賃金は1ポイントほどの上昇という事になる原因は、定昇幅の計算、人員構成の変化など多様な原因があるのでしょうが、いずれにしても、春闘賃上げ率と所定内賃金の上昇とは、それなりの差があることは前提にして考える必要があるという事です。 

そこで、本題である、賃上げが消費需要を押し上げ、実質生活水準の向上させるという問題 、更にそれが国内消費需要増加となって日本経済の実質成長率を押し上げるには、という本来の問題を考えることになります。

関門は消費者物価指数の上昇です、今春闘で、実質賃金が25か月続いたマイナスからプラスに転じ、GDPのプラス要因になるかという問題には、未だ明確な回答が出来ない状態です。

毎月勤労統計によりますと、実質賃金指数は今年の6、7月はボーナスが良かったせいで総額人件費ではプラスになりましたが、残業代込みの「きまって支給される給与」や「所定内給与」ではまたマイナスに戻っています。

ただし、この計算では消費者物価指数として「持ち家の帰属家賃を除く総合」という指数がつかわれ、これが8月分は前年比プラス3.5%(総理府発表の生鮮食品を除く総合」は2.8%)という事で、3.5%の方は今後下がる可能性もあり、今春闘の賃上げで実質賃金が対前年比プラスかマイナスかは、まさに微妙なところになります。

このブログでは、今後は消費者物価指数の方が下がりプラスに転じる可能性が大きいと見ていますが、実はその程度、「統計の取り方によってプラスマイナスが変わる」程度では、家計の実感や経済成長率に影響を与えるような効果を持ちそうにありません。

残念ながら、こんなところが、33年ぶりの高い春闘賃上げ率の結果だというのが統計から見た現実なのです。 

恐らく、連合も、経団連も政府も、これで実質賃金マイナスという状況から脱出出来ると踏んでいたのでしょう。見通しは些か甘かったのです。

いわば、今春闘は、慣れない中で何とか民間労使が一歩を踏み出したという所でしょう。

現状から見れば、物価上昇2%が何とか達成可能という環境も見えてきました。春闘賃上げ率何%を目指せば実質賃金が2%程度の黒字の定着になるかは、上の諸条件を勘案すれが皆様方にも具体的な目標値が想定可能でしょう。

連合の先日発表の要求基準(5%以上)では、多少、心許ない所ですが、個別単産の要求基準は恐らくより高いものになるでしょう。

経営者側は、すでに警戒色を示しているようですが、短期的な守りの姿勢でなく、労使協力しての、DXによる生産性向上などと組み合わせ、各企業の発展が日本経済の成長につながるような経営計画の中で、積極的な賃金上昇戦略を考えていくことが、ますます重要になる時期に入っているのではないでしょうか。

政府がどうかといった受け身ではなく、日本経済は日本の労使が責任を持つといった「経済活動担当者」としての責任意識と気概が望まれるところです。


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