6) 貴方は、核分裂エネルギーは核融合エネルギーが実用化されるまでの“つなぎ”とみなしておられます。では核融合発電が、全国の電力網に電力を供給するのは、いつ頃と見込んでいらっしゃるのでしょうか?
【私たちの見解】
ウランも化石燃料と同様、無尽蔵の資源ではありません。そこで原子力発電を導入した国々は、当初、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉で利用する計画でした。そうすることで核分裂エネルギーを何千年も利用できると喧伝してきたのです。
しかしほとんどの国が、プルトニウムを燃料に使う「再処理―高速増殖炉」路線から撤退しました。コスト、技術的困難、放射能汚染、放射性廃棄物、核拡散のリスク・・・・・・等々の負担が、ウラン燃料とは比較にならないほど大きくなるからです。
ところが日本だけは、同路線をエネルギー政策と地球温暖化対策の要にすえ、その開発に巨額の予算を投じ続けています 注33 。とはいえ日本政府の見通しでも、高速増殖炉サイクルが現行の軽水炉サイクルに取って代われるのは、早くても来世紀です 注34 。第一、プルトニウムの有効な増殖が可能かどうかさえ、定かではありません。
貴方は核融合エネルギー発電が、もうすぐ全国の高圧送電網に電力を供給するかのように述べておられます 注35 。人類が核融合エネルギーを得るには、重水素(D)と三重水素(T)が反応する「D-T反応」を利用するしかありませんが、この反応で発生する強烈な中性子に長く耐えうる建材は、今のところ、地球上には存在しません。可視的な将来において、商業規模の核融合炉をつくるのは不可能ですし、核融合エネルギーが主要な電力源になることもありえません。つまるところ、核融合で巨大なエネルギーを生成できるとしたら、熱核兵器の爆発だけです。また貴方は、核融合はたいした放射性廃棄物を出さないとも述べておられます。しかし現実には、三重水素などで汚染された大量の放射性廃棄物が生み出されます 注36 。
核融合はもちろん、高速増殖炉にしても、その実用化は机上の計画にすぎません。そのような技術に貴重な時間と資金を投入することは、事実上、抜本的な地球温暖化対策の導入を阻害することになります。
注
(33)『原子力政策大綱』原子力委員会、2005年。インド、ロシア、中国も高速増殖炉計画があるが、日本のようにエネルギー政策の中枢にはおいていない。日本の高速増殖炉開発予算は2007年度で400億円、2006~2010年度で約2500億円。
(34) 日本政府の見通しでは、高速増殖炉サイクルが成立し、天然ウラン燃料の調達が不要になるのは2100年以降。
(35) 前掲『ガイアの復讐』
(36) 小柴昌俊(ノーベル物理学者)、長谷川晃(マクスウェル賞受賞者、元米国物理学会プラズマ部会長)による、国際核融合実験装置(ITER)の誘致を見直し求める嘆願書、2003年。
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7) 貴方が、自然(再生可能)エネルギーを非現実的とする、その根拠を教えてください。
【私たちの見解】
貴方は「どんな技術開発も・・・・・先進工業国で幅広く応用されるまでに約40年という時間が必要」であり、自然(再生可能)エネルギーは「ロマンチックで実現不可能な夢」と切り捨てています 注37 。
実際には、自然エネルギーは今日もっとも成長著しい産業のひとつです。なかでも風力発電の設備容量は、ここ数年、年率30パーセント以上の勢いで伸びています 注38 。
そのトップを走るのがドイツです。90年代、自然エネルギーの市場導入を拡大する法が制定されると爆発的な風力発電ブームがおこり、2006年には電力の5パーセントを供給するまでに成長しました 注39 。ドイツ政府は2020年までに、これを少なくとも20パーセントまで引き上げることを目標にし、また自然エネルギー全体では26パーセントを目標としています 注40 。これまでの実績からその達成は確実視されています。同国の原子力法で段階的廃止が定められている原発の電力供給分(現在、約30パーセント)は、省エネと自然エネルギーで十分に代替できるでしょう。
ドイツと同じような政策を導入することで風力発電を伸ばした国々には、たとえば米国、デンマーク、スペイン、インドがあります。このめざましい市場拡大によって、風力発電コストはここ数年で20パーセントも低下し、国によっては従来の電力源と競合できるほどになりました 注41 。
太陽光発電の累積設置量でも、ドイツは日本を追い抜き、2005年、世界一に躍り出ました。これも自然エネルギー導入促進政策の後押しによるものです。
太陽光発電システムの価格も、大量生産によって販売価格が低減しています。日本における住宅用太陽光発電システムは、10年前の三分の一以下になりました 注42 。普及を促進する政策が導入されれば、さらなるコスト低下が期待できます。
これらに加え、燃料電池の実用化と普及によって、自然エネルギーに代表されるマイクロパワーは飛躍的に伸びるでしょう。
一方、原子力をエネルギー政策と地球温暖化対策の中枢にすえる日本では、電力販売総量において今後増やす自然エネルギーの利用義務量は、現時点で1.35パーセント、2014年度時点での目標も1.63パーセントと、きわめて低くなっています 注43 。
これらから明らかなように、自然エネルギーは非現実的などころか、きわめて現実的な選択であり、その普及は技術の問題ではなく、政策の問題です。
注
(37) 前掲『ガイアの復讐』
(38) 『ウィンドフォース12』グリーンピース/欧州風力エネルギー協会、2005年
(39) Entwicklung der erneuerbaren Energien im Jahr 2006 in Deutschland,BMU,2006
(40) Themenpapier: Windenergie, BMU,2006
(41) 前掲Energy [r]evolution
(42) 富田孝司『太陽光発電市場』(飯田哲也編『自然エネルギー市場』の一節)築地書館、2005年
(43) 『エネルギー特別措置法』経済産業省、2007年
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8) より確実で、より安全な地球温暖化対策は存在します。貴方は、それでも原子力は不可欠だとお考えになりますか?
【私たちの見解】
地球温暖化を抑止するうえで、もっとも効果的なのは省エネルギーと自然エネルギーの普及です。それを実現できるのが分散型のエネルギーシステムです。気候変動が現実的な脅威となってからというもの、ヨーロッパを中心に、世界中で自然エネルギーが急速に伸びています。これらの技術は、基本的に、二酸化炭素をほとんど排出しないからですが、それだけでなく、コスト面でも設置にかかる時間の面でも、原子力より圧倒的に有利だからです。さらにエネルギー自給率を高め、地域産業を育成し、雇用を促進するといった、多大な利益をもたらすからです。
貴方は「地球温暖化対応の成否は、いかに適切に科学と工学技術を活用できるかにかかっている」と述べておられます 注44 。しかし適切に活用すべき科学・技術とは、原子力に代表される巨大科学・技術でないことは、これまで論じてきたとおりです。
注
(44) 前掲の原子力文化振興財団による意見広告、2006年10月29日
【私たちの見解】
ウランも化石燃料と同様、無尽蔵の資源ではありません。そこで原子力発電を導入した国々は、当初、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉で利用する計画でした。そうすることで核分裂エネルギーを何千年も利用できると喧伝してきたのです。
しかしほとんどの国が、プルトニウムを燃料に使う「再処理―高速増殖炉」路線から撤退しました。コスト、技術的困難、放射能汚染、放射性廃棄物、核拡散のリスク・・・・・・等々の負担が、ウラン燃料とは比較にならないほど大きくなるからです。
ところが日本だけは、同路線をエネルギー政策と地球温暖化対策の要にすえ、その開発に巨額の予算を投じ続けています 注33 。とはいえ日本政府の見通しでも、高速増殖炉サイクルが現行の軽水炉サイクルに取って代われるのは、早くても来世紀です 注34 。第一、プルトニウムの有効な増殖が可能かどうかさえ、定かではありません。
貴方は核融合エネルギー発電が、もうすぐ全国の高圧送電網に電力を供給するかのように述べておられます 注35 。人類が核融合エネルギーを得るには、重水素(D)と三重水素(T)が反応する「D-T反応」を利用するしかありませんが、この反応で発生する強烈な中性子に長く耐えうる建材は、今のところ、地球上には存在しません。可視的な将来において、商業規模の核融合炉をつくるのは不可能ですし、核融合エネルギーが主要な電力源になることもありえません。つまるところ、核融合で巨大なエネルギーを生成できるとしたら、熱核兵器の爆発だけです。また貴方は、核融合はたいした放射性廃棄物を出さないとも述べておられます。しかし現実には、三重水素などで汚染された大量の放射性廃棄物が生み出されます 注36 。
核融合はもちろん、高速増殖炉にしても、その実用化は机上の計画にすぎません。そのような技術に貴重な時間と資金を投入することは、事実上、抜本的な地球温暖化対策の導入を阻害することになります。
注
(33)『原子力政策大綱』原子力委員会、2005年。インド、ロシア、中国も高速増殖炉計画があるが、日本のようにエネルギー政策の中枢にはおいていない。日本の高速増殖炉開発予算は2007年度で400億円、2006~2010年度で約2500億円。
(34) 日本政府の見通しでは、高速増殖炉サイクルが成立し、天然ウラン燃料の調達が不要になるのは2100年以降。
(35) 前掲『ガイアの復讐』
(36) 小柴昌俊(ノーベル物理学者)、長谷川晃(マクスウェル賞受賞者、元米国物理学会プラズマ部会長)による、国際核融合実験装置(ITER)の誘致を見直し求める嘆願書、2003年。
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7) 貴方が、自然(再生可能)エネルギーを非現実的とする、その根拠を教えてください。
【私たちの見解】
貴方は「どんな技術開発も・・・・・先進工業国で幅広く応用されるまでに約40年という時間が必要」であり、自然(再生可能)エネルギーは「ロマンチックで実現不可能な夢」と切り捨てています 注37 。
実際には、自然エネルギーは今日もっとも成長著しい産業のひとつです。なかでも風力発電の設備容量は、ここ数年、年率30パーセント以上の勢いで伸びています 注38 。
そのトップを走るのがドイツです。90年代、自然エネルギーの市場導入を拡大する法が制定されると爆発的な風力発電ブームがおこり、2006年には電力の5パーセントを供給するまでに成長しました 注39 。ドイツ政府は2020年までに、これを少なくとも20パーセントまで引き上げることを目標にし、また自然エネルギー全体では26パーセントを目標としています 注40 。これまでの実績からその達成は確実視されています。同国の原子力法で段階的廃止が定められている原発の電力供給分(現在、約30パーセント)は、省エネと自然エネルギーで十分に代替できるでしょう。
ドイツと同じような政策を導入することで風力発電を伸ばした国々には、たとえば米国、デンマーク、スペイン、インドがあります。このめざましい市場拡大によって、風力発電コストはここ数年で20パーセントも低下し、国によっては従来の電力源と競合できるほどになりました 注41 。
太陽光発電の累積設置量でも、ドイツは日本を追い抜き、2005年、世界一に躍り出ました。これも自然エネルギー導入促進政策の後押しによるものです。
太陽光発電システムの価格も、大量生産によって販売価格が低減しています。日本における住宅用太陽光発電システムは、10年前の三分の一以下になりました 注42 。普及を促進する政策が導入されれば、さらなるコスト低下が期待できます。
これらに加え、燃料電池の実用化と普及によって、自然エネルギーに代表されるマイクロパワーは飛躍的に伸びるでしょう。
一方、原子力をエネルギー政策と地球温暖化対策の中枢にすえる日本では、電力販売総量において今後増やす自然エネルギーの利用義務量は、現時点で1.35パーセント、2014年度時点での目標も1.63パーセントと、きわめて低くなっています 注43 。
これらから明らかなように、自然エネルギーは非現実的などころか、きわめて現実的な選択であり、その普及は技術の問題ではなく、政策の問題です。
注
(37) 前掲『ガイアの復讐』
(38) 『ウィンドフォース12』グリーンピース/欧州風力エネルギー協会、2005年
(39) Entwicklung der erneuerbaren Energien im Jahr 2006 in Deutschland,BMU,2006
(40) Themenpapier: Windenergie, BMU,2006
(41) 前掲Energy [r]evolution
(42) 富田孝司『太陽光発電市場』(飯田哲也編『自然エネルギー市場』の一節)築地書館、2005年
(43) 『エネルギー特別措置法』経済産業省、2007年
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8) より確実で、より安全な地球温暖化対策は存在します。貴方は、それでも原子力は不可欠だとお考えになりますか?
【私たちの見解】
地球温暖化を抑止するうえで、もっとも効果的なのは省エネルギーと自然エネルギーの普及です。それを実現できるのが分散型のエネルギーシステムです。気候変動が現実的な脅威となってからというもの、ヨーロッパを中心に、世界中で自然エネルギーが急速に伸びています。これらの技術は、基本的に、二酸化炭素をほとんど排出しないからですが、それだけでなく、コスト面でも設置にかかる時間の面でも、原子力より圧倒的に有利だからです。さらにエネルギー自給率を高め、地域産業を育成し、雇用を促進するといった、多大な利益をもたらすからです。
貴方は「地球温暖化対応の成否は、いかに適切に科学と工学技術を活用できるかにかかっている」と述べておられます 注44 。しかし適切に活用すべき科学・技術とは、原子力に代表される巨大科学・技術でないことは、これまで論じてきたとおりです。
注
(44) 前掲の原子力文化振興財団による意見広告、2006年10月29日