梟の神の自ら歌った謡
「銀の滴降る降るまわりに」
Kamuichikap kamui yaieyukar,
“Shirokanipe ranran pishkan"
「銀の滴降る降るまわりに,金の滴降る降るまわりに.」という歌を私は歌いながら流に沿って下り,人間の村の上を通りながら下を眺めると
昔の貧乏人が今お金持になっていて,昔のお金持が今の貧乏人になっている様です.
海辺に人間の子供たちがおもちゃの小弓におもちゃの小矢をもってあそんで居ります.
「銀の滴降る降るまわりに金の滴降る降ろまわりに.」という歌を
歌いながら子供等の上を通りますと,(子供等は)私の下を走りながら
云うことには,
「美しい鳥! 神様の烏!
さあ,矢を射てあの鳥
神様の鳥を射当てたものは,一ばんさきに取った者はほんとうの勇者,ほんとうの強者だぞ.」
云いながら,昔貧乏人で今お金持になってる者の
子供等は,金の小弓に金の小矢を番(つが)えて私を射ますと,金の小矢を私は下を通したり上を通したりしました.
その中に,子供等の中に
一人の子供がただの(木製の)小弓にただの小矢
を持って仲間にはいっています.私はそれを見ると
貧乏人の子らしく,着物でもそれがわかります.けれどもその眼色を
よく見ると,えらい人の子孫らしく,一人変り者になって仲間入りをしています.自分もただの小弓にただの小矢を番えて私をねらいますと,
昔貧乏人で今お金持の子供等は大笑いをして
云うには,
「あらおかしや貧乏の子
あの鳥,神様の鳥は私たちの
金の小矢でもお取りにならないものを,
注)鳥やけものが大に射落されるのは,人の作った矢が欲しいので,その矢を取るのだと言います.
お前の様な貧乏な子のただの矢腐れ木の矢を
あの鳥,神様の鳥がよくよく取るだろうよ.」
と云って,貧しい子を足蹴にしたり
たたいたりします.けれども貧乏な子は
ちっとも構わず私をねらっています.
私はそのさまを見ると,大層不憫に思いました.
「銀の滴降る降るまわりに,金の滴降る降るまわりに.」という歌を
歌いながらゆっくりと大空に
私は輪をえがいていました.貧乏な子は
片足を遠く立て片足を近くたてて,
下唇をグッと噛みしめて,ねらっていて
ひょうと射放しました.小さい矢は美しく飛んで私の方へ来ました,それで私は手を差しのべてその小さい矢を取りました.
クルクルまわりながら私は風をきって舞い下りました.
すると,彼の子供たちは走って砂吹雪をたてながら競争しました.
土の上に私が落ちると一しょに,一等先に貧乏な子がかけついて私を取りました.
すると,昔貧乏人で今は金持になってる者の子供たちは後から走って来て二十も三十も悪口をついて貧乏な子を押したりたたいたり
「にくらしい子,貧乏人の子
私たちが先にしようとする事を先がけしやがって.」
と云うと,貧乏な子は,私の上に
おおいかぶさって,自分の腹にしっかりと私を押えていました.
もがいてもがいてやっとの事,人の隙から
飛び出しますと,それから,どんどんかけ出しました.
昔は貧乏大で今は金持の子供等が
石や木片を投げつけるけれど貧乏な子はちっとも構わず
砂吹雪をたてながらかけて来て一軒の小屋の表へ着きました.
子供は
第一の窓から私を入れて,それに
言葉を添え,斯々(かくかく)のありさまを物語りました.
家の中から老夫婦が眼の上に手をかざしながらやって来て
見ると,大へんな貧乏人ではあるけれども
紳士らしい淑女らしい品をそなえています,
私を見ると,腰の央(なか)をギックリ屈めて,ビックリしました.
老人はキチンと帯をしめ直して,
私を拝し
「ふくろうの神様,大神様,
貧しい私たちの粗末な家へ
お出で下さいました事,有難う御座います.
昔は,お金持に自分を数え入れるほどの者で御座いましたが今はもうこの様につまらない貧乏人になりまして,国の神様大神様をお泊め申すも畏れ多い事ながら今日はもう
日も暮れましたから,今宵は大神様を
お泊め申し上げ,明日は,ただイナウだけでも大神様をお送り申し上げましょう.」
という事を申しながら何遍も何遍も礼拝を重ねました.
老婦人は,東の窓の下に
敷物をしいて私をそこへ置きました.
それからみんな寝ると直ぐに高いびきで
寝入ってしまいました.
私は私の体の耳と耳の間に坐って
いましたがやがて,ちょうど,真夜中時分に起き上りました.
「銀の滴降る降るまわりに,
金の滴降る降るまわりに.」
という歌を静かにうたいながら
この家の左の座へ右の座へ
美しい音をたてて飛びました.
私が羽ばたきをすると,私のまわりに
美しい宝物,神の宝物が美しい音をたてて
落ち散りました.
一寸のうちに,この小さい家を,りっぱな宝物神の宝物でーぱいにしました.
“Shirokanipe ranran pishkan,
konkanipe ranran pishkan."
「銀の滴降る降るまわりに,
金の滴降る降るまわりに.」
という歌をうたいながらこの小さい家を
一寸の間にかねの家,大きな家に
作りかえてしまいました,家の中は,りっぱな宝物の積場
を作り,りっぱな着物の美しいのを早つくりして家の中を飾りつけました.
富豪の家よりももっとりっぱにこの大きな家の
中を飾りつけました.私はそれを終ると
もとのままに私の冑(よろい)の耳と耳の間に坐っていました.
注)hayokpe冑.
鳥でもけものでも山にいる時は,人間の目には見えないが,各々に人間の様な家があって,みんな人間と同じ姿で暮していて,人間の村へ出て来る時は冑を着けて出て来るのだと云います.そして鳥やけものの屍体は冑で本体は目には見えないけれども,屍体の耳と耳の間にいるのだと云います.
家の人たちに夢を見せて
アイヌのニシパが運が悪くて貧乏人になって
昔貧乏人で今お金持になっている者たちに
ばかにされたりいじめられたりしてるさまを私が見て不欄に思ったので,私は身分の卑しいただの神ではないのだが,人間の家に泊って,恵んでやったのだという事を知らせました.
それが済んで少したって夜が明けますと家の人々が一しょに起きて目をこすりこすり家の中を見るとみんな床の上に腰を抜かしてしまいました.老婦人は
声を上げて泣き,老人は大粒の涙をポロポロこぼして
いましたが,やがて,老人は起き上り
私の処へ来て,二十も三十も礼拝を重ねて,そして云う事には,
「ただの夢ただの眠りをしたのだと
思ったのに,ほんとうに,こうしていただいた事.
つまらないつまらない,私共の粗末な家に
お出で下さるだけでも有難く存じますものを
国の神様,大神様,私たちの不運な事を哀れんで下さいまして
お恵みのうちにも最も大きいお恵みをいただきました事.」と云う事を泣きながら申しました.それから,老人はイナウの木をきり
りっぱなイナウを美しく作って私を飾りました.老婦人は身仕度をして
小さい子を手伝わせ,薪をとったり水を汲んだりして,酒を造る仕度をして,一寸間に六つの酒樽を上座にならべました.
それから私は火の老女,老女神と種々な神の話を語り合いました.
二日程たつと,神様の好物ですからはや,家の中に酒の香が漂いました.
そこで,あの小さい子に態(わざ)と古い衣物を着せて,村中の昔貧乏人で今お金持になっている人々を招待するため使いに出してやりました.
ので後見送ると,子供は家毎に入って使いの口上を述べますと
昔貧乏人で今お金持になっている人々は大笑いをして
「これはふしぎ,貧乏人どもが
どんな酒を造ってどんな御馳走があってそのため人を招待するのだろう,
行ってどんな事があるか見物して笑ってやりましょう.」と
言い合いながら大勢打ち連れてやって来て,すーつと遠くから,ただ家を見ただけで驚いてはずかしがり,そのまま帰る者もあります.
家の前まで来て腰を抜かしているのもあります.
すると,家の夫人が外へ出て
人皆の手を取って家へ入れますと,みんないざり這いよって顔を上げる者もありません.
すると,家の主人は起き上ってカッコウ鳥の様な美しい声で物を言いました.
注)kakkokhau……カッコウ鳥の声.
カッコウ鳥の声は,美しくハッキリと耳に響きますから,ハキハキとしてみんなによくわかるように物を云う人の事をカッコウ鳥の様だと申します.
斯々(かくかく)の訳を物語り「この様に,貧乏人でへだてなく互に往来も出来なかったのだが大神様があわれんで下され,何の悪い考えも私どもは持っていませんのでしたのでこの様にお恵みをいただきましたのですから今から村中,私共は一族の者なんですから,仲善くして互に往来をしたいという事を皆様に望む次第であります.」
という事を申し述べると,人々は何度も何度も手をすりあわせて家の主人に罪を謝し,これからは仲よくする事を話し合いました.
私もみんなに拝されました.
それが済むと,人はみな,心が柔らいで盛んな酒宴を開きました.
私は,火の神様や家の神様や御幣棚の神様と話し合いながら人間たちの舞を舞ったり躍りをしたりするさまを眺めて深く興がりました.
そして二日三日たつと酒宴は終りました.
人間たちが仲の善いありさまを見て,私は安心をして火の神,家の神
御幣棚の神に別れを告げました.
それが済むと私は自分の家へ帰りました.
私の来る前に,私の家は美しい御幣美酒がーぱいになっていました.
それで近い神,遠い神に使者をたてて招待し,盛んな酒宴を張りました,席上,神様たちへ
私は物語り,人間の村を訪問した時のその村の状況,その出来事を詳しく話しますと
神様たちは大そう私をほめたてました.
神様だちか帰る時に美しい御幣を二つやり三つやりしました.
彼のアイヌ村の方を見ると,今はもう平穏で,人間たちはみんな仲よく,彼のニシパが村に頭になっています,
彼の子供は,今はもう,成人して,妻ももち子も持って
父や母に孝行をしています,
何時でも何時でも,酒を造った時は
酒宴のはじめに,御幣やお酒を私に送ってよこします.
私も人間たちの後に坐して
何時でも
人間の国を守護っています.
と,ふくろうの神様が物語りました.
hempara nakka chiehorari,
ainumoshir chiepunkine wa okayash.
ari kamuichikap kamui isoitak.
「十勝の活性化を考える会」会員 K
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