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ジャコメッティ 最後の肖像

2018年01月31日 | 映画
ジャコメッティ 最後の肖像
を観ました。


パリ、1964年。 アルベルト・ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)の個展が開かれている。友人で作家のジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)は肖像画のモデルを依頼される。アメリカに帰国寸前だったロードは、彼の「2日で描き上げる」との言葉を信じて、イポリット=マンドロン通り46番地にあるアトリエへ向かった。作家であるロードにとって、巨匠の仕事を間近で見られるチャンスと張り切るが、18日にも及ぶ地獄のセッションになるとは予想もしていなかった。
当時すでに名声を得ていたジャコメッティだが、自宅兼アトリエは狭く汚く古びており、そこに妻のアネット(シルヴィー・テステュー)と右腕的存在の弟ディエゴ(トニー・シャルーブ)の3人で暮らしている。アトリエに乱雑に置かれた未完成の作品の数々に圧倒されるロードの心中なぞ気にも留めず、ジャコメッティは真っ白なカンバスをイーゼルに立てかけた。ロードの顔の角度を微妙に調整し、パレットに絵の具を出し、たばこをくわえながら描き始める。「肖像画とは決して完成しないものだ」と不吉な言葉を発しながら……。
モデル1日目のセッションが終了した。カンバスは完成にはほど遠い。そこへジャコメッティのミューズ的存在の娼婦のカロリーヌ(クレマンス・ポエジー)がフラリと現われる。苦虫を噛み潰したような表情で作業していた時とは一転、陽気なカロリーヌにジャコメッティはメロメロだった。アトリエの外には悲しそうに見つめるアネットが。2人は3年間も、妻の目の前で堂々と不倫しているのだ。
2日目。ジャコメッティはなぜか集中力を欠き、「絶対に完成しない」と叫び始めた。肖像画は未完成で、ロードは帰国を延期する。
3日目。筆は遅々として進まない。モデル経験のあるアネットと話すうちに、ロードは肖像画が完成しないのではと不安を感じる。
4日目。ジャコメッティは「明日は本格的に始める」と上機嫌だ。しかし、突然現れたカロリーヌに邪魔されて、セッションは終了。アトリエの外では、ジャコメッティの親友、矢内原伊作とアネットがお楽しみ中だ。
5日目。ジャコメッティは行方不明になったカロリーヌのせいで癇癪を起こし、セッションは絶不調に。
数日後、カロリーヌが舞い戻り、セッションが再開される。さらなる帰国の延長でロードは恋人に愛想を尽かされるが、創作の合間にジャコメッティから聞くピカソとの裏話や、目に見える現実を作品で表現するために葛藤するジャコメッティとのセッションは、何物にも代えがたい貴重な体験だ。
14日目。ジャコメッティは完成間近の肖像画を太い筆で消す。絶望するロードに「希望が最高潮になると、私は投げ出すんだ」と笑う。15、16、17日目。描き、叫び、消すが繰り返される。果たして、ロードは恋人の待つNYへ帰れるのだろうか。肖像画は無事、完成するのか……。


スタンリー・トゥッチ監督作品です。
俳優としては散々観てきて、名バイプレーヤーとしての印象が強かったですが、監督業もしているとは知りませんでした。

芸術家の伝記映画は基本的に好きなので期待して観に行きましたが、非常に高品質で面白かったです。
ジャコメッティの事を描いているのは当然わかっていましたが、もっと暗い物語を想像していました。
しかしいざ観てみるとコメディの要素が強くて、大人のコメディ映画と言った印象でした。
いわゆるお馬鹿なコメディではなく、とことんウィットに富んだ皮肉たっぷりなやり取りの応酬で。
クセが強すぎるジャコメッティのキャラクターを表現するのに見事過ぎる演出でした。

常々言っていますが、説明が強すぎる映画は馬鹿にされているようで嫌いなのですが、
そういう演出をしてしまう監督さんは是非この映画を観て勉強して欲しいです。
冒頭の状況描写だけで作家の性格、作風、歴史が伝わる様な温度感がありました。

自宅兼アトリエな散らかりきった環境での作業です。
ガサツで支離滅裂で集中力のない感じ、ジャコメッティの事を知らない人でも開始10分ほどでどういう人間かが大体わかります。
そこからはひたすら画家とモデルのやり取りです。
あまりに気まぐれな画家に振り回されまくるモデル、二人の不思議な空気感が徐々に癖になりました。

そして異質過ぎるジャコメッティの家庭環境。
隠すこと無く愛人を連れ込んでその愛人を何よりも優先しています。
妻はそれを憎んでおり自分も報復のように愛人を連れ込んだりしています。

そして淡々とそんな夫婦を見つめる弟。
この弟が兄とは対照的で何か大らかで達観してていい雰囲気でした。

そしてパリローカルな感じの生活感がとてもいい感じでした。
不思議とおしゃれな雰囲気が出ていました。

そしていつも言っている言語がミクスチャーな感じの演出はとても素晴らしかったです。
こういうところにリアルなヨーロッパを感じますね。
アメリカ人の主人公とは英語で会話して妻とはフランス語で、
荷物を持ってくる業者とはイタリア語で。
外国人とは共通語で英語で話すのは自然ですし、おそらくジャコメッティはイタリア語圏の出身でフランスで活動してるからフランス語で話すのだろうな、
と思ったら案の定その通りで、スイス系イタリア人でした。
こういうリアルさは非常に重視します。
僕が憧れるのはこういうマルチリンガルなのです。
感情によって、相手によって使用言語が変わるのが理想なので勉強しています。

ジャコメッティを演じたのはジェフリー・ラッシュでした。
ハリウッドの大衆向け作品からこうしたアーティスティック系の作品まで幅広く活躍していますが、
どちらも超一級の仕事っぷりですね。
ジャコメッティの写真をみるとなかなか似ているので見事な役作りです。
こういう面白い皮肉ばかり言うおじいさんって何か憎めなくて好きです。

実質主人公の記者でモデル役のアーミー・ハマーはなかなか最適でした。
温厚で断れない性格で、そしてサラッとゲイであることも言っています。
途中スパイなトークになって「僕はスパイです」というジョークを飛ばしますが、
僕の大好きな映画コードネーム U.N.C.L.E.を意識してるのかな?と思い何か嬉しかったですね。

何か大人のコメディと言う感じで場内はなかなかの笑いが上がっていました。
僕はエピローグ的なラストの語りで不思議と泣きそうになってしまいました。

パリ舞台だしアートテーマだし上質なコメディだし、非常に好みでした。


そんなわけで8点。

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