守田です。(20130331 17:30)
3月18日に、福島原発で、ねずみの感電死によって停電が引き起こされ、原子炉1号機、3号機、4号機の燃料プールと、共用燃料プールの冷却装置が一斉にダウンしてしまうという深刻な事故が発生しました。
このとき僕は、福島原発事故いまだ収束などしておらず、未だ私たちの前に大変な危険が存在していることと主体的に向き合うべきだと書きました。その上で指摘したのは次の点です。
「ではどうしたらいいのか。現場労働の実態にもっと社会的な監視を強め、働く人々に、現場の実態をよりよく教えてもらうこと、現場からの発話が可能になるような工夫をさまざまな面から凝らし、大変な被曝労働下で、完全に崩壊したプラントの保持のために働いている現実をリアルに私たちがつかんで世界に発信していくことです。このことが何よりも必要だと思います。」
こうした観点から、ネットへの投稿などを探していて、前からツイッターでフォローしていた現場作業員のハッピーさんの投稿を調べてみました。すると未明になんとかクーリングシステムが回復した3月20日に、興味ある連続投稿が行われていました。
これまで僕なりにこの方の投稿を見てきて学ぶことが多かったので、今回は、まさに停電現場からの生の声として、この連続投稿をご紹介したいと思いたちました。ちなみにツイッターでハッピーさんご本人に確認したところ、快諾してくださいました。ハッピーさん、ありがとうございます!
全文は末尾に貼り付けるとして、あらかじめポイントとなる点をまとめておこうと思います。
ハッピーさんがまず述べているのは、現場が応急措置ばかりで、恒久措置はまだ少ないという点です。例えばこのようなつぶやきがなされています。
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ハッピーさん
「この二年は事前計画も出来ないまま、慌ただしく突貫工事で造った応急措置の設備が様々なトラブル起こし、そのトラブル対策に明け暮れた二年。特に電源システム、冷却系システムは特急突貫工事だったからね。未だにトラブル対策に時間と作業員被曝を費やしていて、恒久対策には程遠いんだ。」
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この点は、ある意味で想像していたとおりなのですが、その理由は何かと問うハッピーさんの考察は鋭いとともに意味深です。以下、再び引用します。
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ハッピーさん
「オイラが考える理由は、まず本設だと国の許認可が必要で時間がかかる。本設だと国の検査が沢山絡み時間がかかる。トラブル対応、対策も国が絡み簡単には対処出来なくなり、非常に時間がかかる。」
「国が絡む事は法律が絡む。時間がかかるという事は予算がかかる。アルプスの工事や乾式容器貯蔵施設工事を見てもわかるんだけど、本設工認だと国の検査は現場が切羽詰まった状況でいくら工程が遅れようとも関係ない。確かに安全第一だけど、対応があまりにも遅すぎる。」
「オイラいつも思うんだけど、東北の復興地域も然りだけど1日も早く復興したいのに、なぜ現行法で対処しようとするのか?なぜ縦割り行政が未だに行われてるのか?復興庁や規制委員会は本当に1日でも早く復興や収束させる気があるのか?なぜ?なぜ?ばかりなんでし(>_<)」
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これはかなり的をついた指摘なのではないでしょうか。なぜ僕がそう感じるのかというと、ここでハッピーさんが慨嘆していることとまったく同じことを、僕は岩手県大槌町での取材でも聞いてきたからです。
「東北の復興地域も然りだけど1日も早く復興したいのに、なぜ現行法で対処しようとするのか?」ハッピーさんはそう語っていますが、大槌町でも同じことが言われていた。そのことを僕は以下のように記事にまとめました。
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「しかし問題は、人員が足りないことだけにあるのではありません。津波被害など想定のうちには入っていない現行法が障壁になっているのです。というのは多くの建物が流され、土地区分すらはっきりしなくなっている大槌では、土地の権利者からも多くの犠牲者が出ています。しかもその親族にも犠牲者が出ているなどの場合があり、土地の権利関係が曖昧になっていたりするのです。
相続先がわからなかったりする例や、相続者との連絡がなかなか取れないなどの例もあるといいます。しかも役場が壊滅的な打撃を受けたため、資料も失っています。そのため地権者に連絡をつけて合意をとることが非常に難しくなっているのです。
あるいは建物を立てる場合の補助金なども、津波の被害で家並みがなくなってしまうことなど想定せずに作られたもので、壊滅的になった町の再建を進める上ではあまりに不合理といわざるをえないものも多い。つまり津波以前に通用していた法律をそのまま適用するにはあまりに無理があるのです。
その点で国がなすべきことは、津波被害という特殊事情にあわせて、法の柔軟な運用を指示し、復興が速やかに行われるような法整備をすることです。にもかかわらずこれが遅々として進まない。そのために土地区画整理が暗礁に乗り上げているのです。」
出典は以下
明日に向けて(606)哀しい!派遣職員が自死。復興進まぬ大槌を、三陸を、支えよう!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/84e36b66d34900d3ac259b6b8ad48622
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ハッピーさんの分析を読んで、僕は恐ろしいことだと思いました。津波被災地で起こっていることと同じ構造的なあやまりが原発サイトをも支配しているからです。同じ硬直した考え方がそこにまかり通っているのです。
なぜなのでしょうか。僕は津波被災地について言えば、本当に被災者の立場から復興を推し進めようとしている政治家も官僚もいないか、あるいはあまりに限られているからだと思います。むしろ復興予算の奪い合いが起こっているほど腐敗が進行している。
原発事故の収束過程もそうです。事故の実態を正面から見据え、それと向かい合っている政治家も官僚もいないか、あるいはあまりに限られているのでしょう。だからなんとも浅はかとしか言い様のない仕事の仕方がまかり通ってしまっている。
ハッピーさんは次のようにも述べています。
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ハッピーさん
「1F収束作業だって、東電から切り離して国営化するべきだよ。東電が民間企業である限り利益は追求するはず。税金が投入されるとは云え、東電の借金。民間企業なら借金は作りたくないし、コストをギリギリまで抑える。1Fの工事案件のほとんどが競争入札なんておかしな話だよ。」
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まさにその通り。そもそも国家が危機に瀕している事業を、一私企業に任せていることそのものがおかしい。しかもその企業は事故を起こした張本人であり、事故の前も後も、事故隠しを繰り返している企業です。事故初期にはすぐさま撤退を願い出たこともありました。なぜその東電に全てを任せ続けるのか。・・・実は誰も責任をとりたくないからでしょう。
しかもその上に、ウソの収束宣言が加えられている。ウソを言うことで、実は政治家たちや官僚たちが、真っ先に自分を騙し、許し、事故と向き合う人間的苦しさから逃げ出してしまっているに違いないのです。
「そんなバカな。自滅することがわかっている道を国や官僚が進むだろうか」と多くの方は思うかもしれません。しかし私たちの国にはその大きな先例があります。太平洋戦争への突入から敗戦にいたるすべての過程です。
NHKのドキュメントなどでも放映されいますが、あの戦争を前にして、天皇のもとの「御前会議」に臨席した当時の私たちの国の大臣たちは、実は誰ひとり、アメリカと開戦して勝てるわけがないと考えていたことが今日、明らかになっています。
しかしすでに1930年代より中国に侵略し、20万人の兵士の命を落としていた政府や軍部は、アメリカの中国から撤退という要求を飲んだら国民に弾劾されると考えて、それを言い出せなかったのでした。正確には海軍は陸軍に言わせようとし、陸軍も海軍に言わせようとしたのですが失敗してしまいました。
そうこうしているうちに、私たちの国はアメリカとの戦端を開いてしまい、やがて猛反撃を受け、日本全土を蹂躙されて敗戦に至ってしまいました。まさに自滅の道をそれと知りつつひた走ったのです。
しかもそうした体質は現場にもたくさんあらわれました。各地で行われた戦闘において、どう考えても勝ち目のない、勝つための合理性に著しく欠けた作戦が強行されました。例えばフィリピンをはじめとする南洋の戦いにおいては、米軍の潜水艦がうようよといる海域に、わずかな護衛艦だけで次々と兵員輸送船を送り、容易に沈められてしまいました。
この作戦を見ていると、船を送り出す責任者は、この船がほぼ確実に沈められるとは思わなかったのだろうか。一体、どう思って船を出したのだろうか。率直に疑問が湧いてくるのですが、答えは誰もが無責任状態に陥いり、思考停止になって、職務的なモラルを喪失し、このような事態に陥っていたということなのです。
ただし無責任状態といっても、自分だけが私腹を肥やしていたとか、一人、安全地帯に逃げていたということともちょっと違います。もちろんそういう人士もいたでしょうが、多くの場合、無責任状態に陥って、自らもまた絶滅の道を歩いていたのです。それがあの戦争の間に日本の一般的な姿だったのではと思えます。
もう少し例を挙げますが、こうした軍の実情を見事に描いた小説に、芥川賞作家、古川高麗雄さんの『龍陵会戦』があります。戦争にいくのは嫌でたまらなかったけれども、戦争反対を唱えることもできないまな、いやいやながら駆り出されてしまったやる気のまったくない兵士、古川高麗雄の従軍記でもあります。
龍陵とは、ビルマから中国にいたるルートにある町で、連合軍による中国軍(蒋介石軍)への支援ルートが作られたところです。このルートを断つために派遣され、町を占領した日本軍部隊の中に古川さんはいました。やがて連合軍は空輸によって中国軍の補強ルートを確保。火力において圧倒的に上回る中国軍が日本軍を襲います。
このとき日本軍は町を見下ろせる管制高地に陣地を構えていました。そこに猛烈な砲撃が加えられ、撤退を余儀なくされます。すると火力に劣る日本軍は、夜間に抜刀した切り込み隊を組織し、犠牲を出しながら陣地の奪還を果たします。
そうするとどうなるか。朝からまた猛烈な砲撃が加えられ、部隊からさらに犠牲が出て、撤退を余儀なくされます。すると日本軍は再度、夜間に抜刀した切り込み隊を組織し、より犠牲を出しながら陣地の奪還を果たします。しかし翌朝から再び猛烈な砲撃が加えられ、再々度、撤退を余儀なくされます。すると日本軍は再々度、切り込み隊を組織し・・・。
この繰り返しを描写した後、古川さんはなんとも素朴な疑問を書き留めています。この作戦を命令した指揮官は、これを繰り返していると、最後に部隊が無くなるということに気がつかなかったのだろうかと・・・
同じことが今、私たちの眼前で起こっている。そこに戦略的な展望などないのです。むしろ戦略的な無責任が大きく現場を覆っている。だからリアルな作業が行われない。それが「冷温停止宣言」の下での私たちの国の本当に恐ろしい現状です。
ではどうしたらいいのか。繰り返しますが、この現状を暴き、現実を明るみに出すとともに、今こそ私たちが「覚醒」し、私たちの社会をおおう無責任体質を一掃することです。そのことで現場の作業にリアリティを持たせなくてはいけない。
そのためには、実は法的強制も必要です。無責任な責任者、人をして死に至らしめた責任者を厳しく罰しなくてはいけない。どうしてか。そもそもそういうことをしてこなかった結果が、今、私たちを襲っているからです。あの戦争の責任者もきちんと処罰できなかった。だから無責任が繰り返しはびこる。この悪循環をこそ断ち切らなくてはいけません。
そのことは同時に、現場からの声がもっと出やすい環境を創りだすことにもつながります。隠蔽体質の東電幹部に対して正しくメスが入ってこそ、現場をもっとよくすることができる。もちろん現場で働く方たちの待遇改善も絶対必要です。こうしたことにより知恵を傾け、現場への、本当の意味での熱い支援を行っていきましょう。
何度も繰り返していることですが、これを分析の結論としたいと思います。
最後にハッピーさん。
本当に大変な現場で、被曝の影響も受けながら、私たちを守るために日夜努力してくださってありがとうございます。またその傍ら、現場情報をこうしてツイートしてきてくださったことにも深い感謝を捧げたいと思います。
情報発信をするものの立場としてわかりますが、リアリティのある話をしようとすればするだけ、情報源は突き止めやすくなります。その点でおそらくかなり苦労をし、いろいろと知恵を巡らせながら、つぶやきをつづけてきてくださったのでしょう。その努力にも感謝したいです。
どうかくれぐれも心身を労わってお過ごし下さい。なかなか伝えにくいでしょうが、周りの方にも、可能であれば私たちの感謝をお伝えください。ハッピーさんたちとともに、この国の人々の幸せを守るための努力を重ねていきたいです。ありがとうございます!
以下、3月20日のつぶやきの全体をご紹介します。アカウントも記しておきます。
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福島原発作業員 ハッピーさんのつぶやき
@Happy11311 (3月20日)
現場はとりあえず冷却系は電源復旧したけど、あくまで仮設の仮設。本設は今年の1月から作業してて3月には終わる予定だったんだけど、少し工程遅れて4月中旬になりそう。1Fの設備はいまでも殆どが仮設なんだ。以前にも沢山つぶやいたけど、応急措置ばかりで恒久措置は未だに少ない。
この二年は事前計画も出来ないまま、慌ただしく突貫工事で造った応急措置の設備が様々なトラブル起こし、そのトラブル対策に明け暮れた二年。特に電源システム、冷却系システムは特急突貫工事だったからね。未だにトラブル対策に時間と作業員被曝を費やしていて、恒久対策には程遠いんだ。
冷却系ホースは漏れたり、凍ったりしたから今はPE管に取り替えてる。でもこれも恒久的じゃないんだ。東電は信頼性向上というけど、PE管だって鋼管に比べたら信頼性は断然に劣る。そもそもPE管は埋設水道管に使われてる一般仕様品でメーカー耐用年数は約10年位のはずなんだ。
そのPE管に高線量の汚染水が流れてる。耐放射性なんか考慮してないから劣化も早いはずで10年は無理だよ。電源ケーブルだって同じように、現在使用してるのは一般仕様品で原子力仕様品じゃない。まして突貫工事で敷いたケーブルは未だにエフレックスにも入ってないものも使われてるんだ。
今回の事故原因はまだ調査中だけど、どうやら配電盤の中のケーブルをネズミが、かじってしまいショートした可能性が高いみたい。世間の人には嘘みたいな、信じられないような、バカみたいな話だけど、今の1F構内なら十分あり得る事なんだ。1Fの作業員なら大半は知ってる事だけど…。
以前にもつぶやいたけど、1Fにはオイラが今まで見たことないようなデッカイネズミがいる。オイラ達も倉庫の吊り具(ナイロンスリング)や現場の車やクレーン車の中のエンジンルームに入ったネズミに油圧ホースやケーブルかじられたりして被害は結構あるんだ。
ネズミだけじゃくてカラスからも被害は受けてる。だからオイラ達はネズミ駆除用の薬を撒いたりカラス対策したりしてるんだ。東電もわかってたはずなんだけど…。たぶん今回の最初の対策は配電盤を密閉化したり、ネズミ駆除薬や捕獲器なんだろうなぁ…。
電源ケーブルだって、ネズミがかじっても大丈夫な仕様品もあるはずなんだけど…。全部交換するには莫大な予算と時間がかかるからやらないんだろうな。今までだって色んなトラブル出ても、そんな感じのぶっつけ対策だったからね。
そもそも、なんで恒久対策や本設化にしないのか?って、みんな不思議だよね。オイラが考える理由は、まず本設だと国の許認可が必要で時間がかかる。本設だと国の検査が沢山絡み時間がかかる。トラブル対応、対策も国が絡み簡単には対処出来なくなり、非常に時間がかかる。
国が絡む事は法律が絡む。時間がかかるという事は予算がかかる。アルプスの工事や乾式容器貯蔵施設工事を見てもわかるんだけど、本設工認だと国の検査は現場が切羽詰まった状況でいくら工程が遅れようとも関係ない。確かに安全第一だけど、対応があまりにも遅すぎる。
もっと早く収束作業が進むような出来ないんだろうか?今の1Fの収束作業も事故前と変わらず、国の検査側からみれば東電は単なる一民間事業者であり特別なものじゃないんだろうな。そもそもオイラはこれがおかしな事だと思ってる。こんな事やってたら100年経っても収束なんかしないよ。
オイラいつも思うんだけど、東北の復興地域も然りだけど1日も早く復興したいのに、なぜ現行法で対処しようとするのか?なぜ縦割り行政が未だに行われてるのか?復興庁や規制委員会は本当に1日でも早く復興や収束させる気があるのか?なぜ?なぜ?ばかりなんでし(>_<)
復興庁も規制庁も警戒区域や1F構内に本部を置けば、早く動いてくれるのかな?政治だって現場に見合った、時限立法や超法規的措置をなぜ積極的に取り組まないのか?問題は確かにいっぱいあるかもしれないけど、あまりにも遅いよね。特に農地法の特別改正なんかすぐ出来ると思うんだけど。
1F収束作業だって、東電から切り離して国営化するべきだよ。東電が民間企業である限り利益は追求するはず。税金が投入されるとは云え、東電の借金。民間企業なら借金は作りたくないし、コストをギリギリまで抑える。1Fの工事案件のほとんどが競争入札なんておかしな話だよ。
競争入札じゃ元請企業もコストの叩き合いだし、作業員単価にも跳ね返ってくる。新しく1F正門前に出来る入退域管理棟やアルプスの保守・運転管理も競争入札。落札企業は単価の安い作業員を使わざるをえない。それは熟練熟知のベテランや高い単価の人間は雇用出来なくなるという事なんだ。
このままの管理体制や契約社会ルール適用じゃ1Fのトラブルは減らないし、収束作業完遂もいつになる事やら…。今の所、この日本で現行法や今の悪状況を変える事が出来る人達は政治家の方々。政治家の方々には、復興地域や現場の生の意見をしっかり聞いて対処して頂きたい。
オイラが現場で初めて見たネズミは、企業棟の事務所の台所で未開封のカップラーメンを両手でカップを押さえつけ、ガブガブとカジリついてた。因みに、お湯は入ってなかった…(-.-;)見た時は、ウォンバットの子供かと思ったでし。
今の復興地域に政治家の綺麗事や、出来やしない絵に描いた餅はいらないんだ。日本の政治が本気で1日でも早く復興をするつもりなら絶対出来るはずだよね。オイラはそう信じたいでし。でわでわ。
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